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(97)無茶な治療

「1度休憩しようか。」

 ペルーシャがそういうと、レオンから『人魚の涙』を遠ざけると、元の箱に戻す。ほっとした顔のレオンはそのまま砂浜に手をつくと、そのまま動かなくなった。

「大丈夫ですか?」

 リーズの問いかけにレオンは手を挙げかけて下ろす。

「大丈夫だ、と言いたいが、力が抜ける感覚が予想以上に辛いな。魔力がなくなるまで戦った時も最後は同じような感じだった。」

 レオンの全身を赤い目で眺めたペルーシャが頷く。

「魔力の流れが良くなったね。溜まっているのは指先だけだ。あと一押しなんだが……。」

 ふと思いついたように、ペルーシャはレオンに尋ねる。

「今魔法を出してくれ、と言われたら出せる?」

 ペルーシャの言葉にレオンは顔をひきつらせた。

「出せなくはないが。その後立ち上がれるかどうか分からんぞ。」

 魔力が枯渇すると、人によっては気絶するし、動けなくなる。ただ、リーズのように魔力がほとんどない場合は、枯渇する前に使えなくなってしまう。身体の防衛反応が働いて、動けなくなる前に魔力を出せなくしているのだろうとペルーシャは言っていた。

「それは大丈夫。ボクが担いでいくから。」

「いやいや、無理だろう……ってうわあ!」

 ひょいとペルーシャがレオンを持ち上げる。しかもお姫様抱っこだった。ストリペアも唖然としている。

「ほら。大丈夫だろう?」

 事もなげにペルーシャは言うが、多分問題はそこじゃない。

「ペルーシャ。それじゃレオンさんは嫌がると思う。」

「そうなの?」

 ペルーシャは憮然としたレオンに目を向ける。

「せめておんぶにしないと……」

「それも少し違うと思う。」

『人魚の涙』の影響が薄れたのに気づいて近づいてきたストリペアがぼそりと呟く。

「そもそもなんでこの状態で魔法を使うの?」

 ストリペアの疑問ももっともだ。

 ペルーシャはレオンを下ろすと腕を組む。

「以前、ここで魔物と戦った時、アイネがヘロヘロになりながら魔法を使ったことがある。そうだな。魔力が通る道が身体全体にあって、外部と魔力のやり取りがあるとしよう。リーズの『探査スキル』なんかは全身から魔力を出すのだろう?」

 リーズはよく分からないまま頷く。

「しかし、その道はとても細い。結晶化した魔力が通るには特にね。『人魚の涙』はその道から魔力を吸い出していると思う。だから、痛みが走るんじゃないかとボクは考えた訳だ。じゃあ、大きな魔法はどうやって使うんだ?魔法を使う度に痛かったら、だれも魔法なんて使わない。」

「つまり大きな魔法を使うためには大きな通り道がどこかにあるって事?」

 ストリペアはペルーシャの言おうとした事が分かったらしい。

「そう。しかもその通り道は、魔法を使おうとした時に中からしか開かない。結晶化した魔力を出すにはそこから出すしかない……というのがボクの仮説。アイネに魔力溜りが無かったのは、その時に出したからじゃないかと思った訳だ。そもそも彼女は結晶化はしていなかった。レオンほど魔法を使う頻度が多くないからじゃないかと思うけど。という訳で、後のことは心配しないで魔法を出して欲しい。火魔法はやめてくれよ。また放火したと疑われる。身体強化も逆効果になるからやめてくれ。」

 しばらく考えていたレオンがペルーシャに尋ねる。

「アイネさんもおぶわれて帰ったのか?」

「いや?しばらく休んだら歩けるようになったから、それから帰った。」

「じゃあ俺も同じにしてくれ。」

 レオンはベルトの裏に差してある短剣をなんとか引き抜くと、自分の目の前にかざした。

「レオンさんはいつもどんな魔法を使っているんです?」

「相性のいいのは火だな。剣に纏わせて使うんだ。後は風だが、斬撃に風の刃を乗せる程度で、威力は落ちる。」

 そう言いながらレオンは、魔力を剣に込めていく。剣の周りから弱い風がクルクルと渦巻きだした。

「限界まで使ってくれよ。」

 ペルーシャがレオンの指先を見ながらさらにいう。

「要求が半端ないな。」

 レオンはそういうと、海へと剣先を向ける。限界が近いのか、手が震えるのを左手で押さえた。息が荒くなっているのを必死で抑えている。

「ずれたら危ないから下がってろ。」

 そう言いながら剣を振る。竜巻状になった青白い魔法が、轟音と共に海水を巻き上げ、一直線に沖へと進んでいく。海が割れたように海底の砂地まであらわになって、すぐにまた濁流となって海面へと戻っていった。

「すごい……」

 思わずリーズの口から言葉が漏れた。これで威力が落ちているのなら、火の魔法はどれほど強いのか。

 さすがに耐えきれなくなったのか、レオンの上半身か崩れ落ち、砂浜に寝転がる形になった。手にはまだ短剣を持ったままだ。ペルーシャはそれを取り上げるとレオンの指先を真剣な眼差しでじっと見つめる。反対側の手も確認し、頷いた。

「右手は、いいね。半分成功かな。」

 リーズとストリペアも近づいて手を見る。結晶化していた右手の爪先は、元の爪に戻っていた。左手はまだまだだ。

「復活したら今度は左手で……」

「勘弁してくれ。それにこの治療法は誰もが使えるわけじゃないだろう。」

 ペルーシャの言葉に、レオンが呻くように言った。

 確かにそうだ。レオンだからここまで出来た訳で、他の人がやったら途中で気絶してしまっているかもしれない。

「まあ、そうだな。魔力の流れが良くなったことで石化症はしばらく進行しなくなるだろうから、とりあえずの目的は果たしたと言える。残りはストリペア。キミに任せるよ。」

「え?」

 ストリペアが瞬きをする。

「魔力の結晶を小さくする、あるいは溶かすことのできる薬を開発してくれたまえ。父親の研究と君の錬金術の力を合わせれば、おそらく可能だろう。もちろんボクも考えてみるけどね。その前に、洞窟探検に出かけようじゃないか。」




スキルによって魔力を使う場合と体力を使う場合があります。鑑定スキルはなぜか体力です。


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