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(94)魔力が見える薬

 レオン達『雷帝の鬣』を宿へ送り届け、落ち着いた頃合いを見計らって、リーズは彼らを再びギルドの一室へ集めた。理由は先程のストリペアの件だ。

 ストリペアに座ってもらい、その前にはペルーシャが座る。他のメンバーは後ろで少し離れて見守ることにした。

「あのさ、どこかで会ったことあったかな?覚えがないんだけど。」

 ペルーシャが先に尋ねる。レオン達が荷物を解いている間、ペルーシャも色々考えていたようだ。

「私はない。でも父親は会ったことがあるはず。」

「父親?」

 ペルーシャは首を傾げる。

「私の父は、医者だった。名前はクロム・フォレスト。この名前なら知ってるでしょ?」

 ストリペアの言葉にペルーシャは息を呑んだ。

「クロムの娘だったのか。」

 リーズも前に聞いた事がある。ペルーシャの商会がクロムの作った薬が効かなかったと門前払いしたことがあるのだ。

「確か魔力が色で見えるとか……」

 リーズが確認するように言うと、ストリペアは小さく頷いた。

「そう。あれから父さんは医者としてやっていけなくなって、薬の研究に没頭した。ペルーシャの父親でも効くようにするにはどうしたらいいか。そればかり考えてずっと。母さんはその代わりに働きに出て、ほとんど家に帰って来なくなった。私はそんな両親を助けたくて錬金術士になったの。」


 ぎゅっと感情を押し込めるように目を瞑った後、ストリペアはまた口を開いた。

「『何がが足りない。何かが……』

 それが、父さんの最期の言葉。身体はもうボロボロで、とても軽かったわ。母さんも父さんが亡くなって、後を追うように居なくなった。だから私は15歳で冒険者になることを選んだ。父さんの代わりに薬を完成させるために。」


 黙り込んだストリペアの代わりにレオンが口を挟む。

「ストリペアがうちのグループに入ったのは10年ほど前だ。錬金術のために魔物の素材がどうしても欲しいと言ってな。まだ駆け出しだったし、最初は断ったんだが、どうしても引かない。そのうち黙って後ろからついてくるようになったから、入れることにした。ちょうど前いた薬師が結婚したいから引退したいと言い出したところでもあったしな。」

 しばらく黙って考えていたペルーシャは、口を開いた。

「そうか。クロムが医者を続けられなくなったことは、うちの父親も悪いことをしたと言っていた。ただ、実際父親には効かなかったんだ。その原因は分かったのか?」

 ストリペアはそっぽを向いたまま、答える。

「ペルーシャの一族は、魔力を感じる力がない……というのが私の推論。そういう体質を持つ種族が、イルーファンには多い。だからペルーシャの父親は薬を買わなかった。違う?」

 同じような体質の人が多いのであれば、薬を売って効かない可能性も上がってしまう。ペルーシャも頷いた。

「その通り。そこまで分かっていて、なぜボクに敵対しようとする?これでもボクはギルドの職員だ。冒険者がギルドの職員に危害を加えれば、厳罰だよ。」

 ストリペアは口を尖らせて下を向く。

「八つ当たりなのは分かってる。でも、父さんの気持ちを考えると、どうしても許せなかった。」

「他の国で売ったらどうかと提案しなかったうちの父親にも落ち度はあったと思う。それで、どうしたい?どうしても気が済まないっていうなら、キミの八つ当たりに付き合うけど。」

「ちょっと、ペルーシャ!」

 それをしたらペルーシャもストリペアも処罰対象だ。リーズの言葉にペルーシャは後ろを向く。

「ケジメをつけなきゃいけないことは、しておかないとね。ただし、その前に「雷帝の鬣」からは抜けてもらう。ストリペアだけが処罰の対象だ。その覚悟はあるかい?」

 そのことについては、レオン達とも話し合っていたようだ。レオンが促すようにストリペアの肩を叩くと、ストリペアはふうっと息を吐く。

「八つ当たりは……しない。その代わり、実験に付き合ってほしい。」

 ストリペアは、腰に下げた袋から、小さな瓶を出す。中には小さな丸薬が入っていた。

「これは、父親の薬を私なりに改良した薬。魔力がなくても一時的に魔力が色として見える……はず。これを試してほしい。」

 リーズは思わずアイネと顔を見合わせる。これはかなり危険な賭けだ。薬に何か危険なものが混じっている可能性もある。ペルーシャはその瓶を持ち上げると振ってみる。いくつかある丸薬が中でコロコロと転がった。

「自分では試してみたの?」

 ストリペアは頷いた。

「ただ、私は魔力があるから魔力がない場合どうなるかはわからない。魔力の濃さが色で見えるのは確認してある。魔力が濃いほど赤く見える。」

「なるほどね。」

 ペルーシャは瓶の蓋を開けると丸薬を一つ取り出し、口の中に放り込んだ。途端に眉を下げて苦悶の表情に変わる。ストリペアが一瞬固まってしまったほどだ。

「あ、それすごく苦いから……。」

「大丈夫、慣れてる。でも、リーズ、水ちょうだい。」

「あ、うん、分かった。」

 台所から水を汲んで戻ってくると、ペルーシャは勢いよく飲み干した。

「久しぶりになかなか苦い薬だった。さてと、どのくらいで効くのかな?」

「本当はしばらくかかるけど、噛んだから結構早いと思う……」

 本来は噛む薬ではないのだろう。ストリペアが少し睨んでいる。

「ストリペアもなんでも口に入れるから心配してたんだが、薬を扱う奴らは命知らずだな。同類か。」

 レオンが呆れたように言う。

「味で何が入っているかは大体分かるよ。試作段階で味を変えるようなものは入れないからね。」

「うん。効果が変わると困るから。」

 会話の途中、ペルーシャの表情が微妙に変化した。

「お、なんか色が………。」

 ペルーシャはぐるりと辺りを見回す。その瞳の奥底からじわりと燃えるような赤色が滲み出してくる。その目を見てリーズはギョッとした。

「ペルーシャ!目が赤くなってる!」

「魔力がなくても見られるよう、目に作用するようにしてあるの。」

 ストリペアの言葉にペルーシャは呆れたように言う。

「それなら、飲み薬じゃなくて目薬でいいじゃないか。苦くなくてすむ。」

「あ……」

 おそらく父親が作ったのが丸薬だったから、それに縛られていたのだろう。落ち込むストリペアを尻目に、ペルーシャは一人一人確認しているようだ。

「ふうん。やっぱりアイネの赤は格別だね。炎の色だ。身体全体が発光してるみたいに見えるんだな。リーズは赤というより、桃色に近いね。レオンさんもなかなか……。うん?」

 ペルーシャはレオンの指先に一瞬目を止める。そのままもう一度アイネを見つめると、ふうっとため息をついた。

「ストリペア、礼を言うよ。この薬は早めに実用化した方がいい。まずは目薬にして、どのくらいの時間効果があるのかも調べて。ああ、連続でも使えるのかも知りたい。むしろ魔獣の調査じゃなくてこっちを優先してほしい」

「え?あの、え?」

 急に早口で捲し立てるペルーシャについていけず、ストリペアはオロオロと辺りを見回す。その様子を見て、レオンが苦笑する。

「おいおい、俺たちはギルドの依頼で魔物の調査に来たんだぞ。それを後にしろって言われても。」

「レオン、キミ、多分石化症になりかけてる。指先の魔力が赤を通り越して黒ずんでいる。このまま魔法を使い続けると、指先が結晶化して動かなくなるだろう。治療を最優先にすべきだ。」

 レオンの言葉に被せるように言ったペルーシャの言葉に、クリシュナとミカサが慌ててレオンの指先を見た。レオンはハッとしたように、咄嗟に両手を握りしめ、指先を隠した。







年齢書いてませんが、ストリペアは30歳。ペルーシャの方が年下です。レオンはもう少し上。

ペルーシャが出てくると、リーズが霞みます。主人公なのに。

よ足跡代わりにければリアクションや感想を貰えると嬉しいです。

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