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(91)選定会議

 

 話が長くなりそうなので、職員にもう一度お茶を頼むと、今度はカルダンの分も用意してくれた。湯気の立ち上がる温かいお茶は、夜の冷え込みを感じ始めたこの季節にはとても有難い。


 リッテルが持ってきた書類によると、氷石が取れるようになったのはここ数年であり、ランテッソでも未知の部分が多い。それが魔物と関係があるという。


「氷石と魔物の関係は誰が見つけたんだい?」

 カルダンが疑問を口にすると、リッテルは先程の書類をもう一度見直した。

「カーセルの商業ギルドで雇っている専門家がいるんだそうだ。ヒューイと言うらしい。そいつが言うには、氷石の核は濃い魔力でできているらしい。その濃い魔力の原因は魔物じゃないかと。現に魔物の姿と声をリーズが確認している。」


 リッテルの報告を聞き、カルダンは長年議論されてきた問題を思い出した。

 魔力があるから、魔物がいるのか。魔物がいるから魔力があるのか。それは未だに結論の出ない問題だ。ただ、魔物を倒してしまうとそこにあった魔力は減る。魔力だまりも消滅することが多い。魔石に閉じ込められるのではないかという説を唱えている学者もいるが、証明できていないのが実情だ。


「魔物を倒すとどうなると思う?」

 リッテルは肩をすくめて手を広げた。

「おそらく氷石はなくなっちまうんだろうな。」

「それは…困るね。」

 カルダンは腕を組み、思案するように顎に手を当てた。商業ギルドが力を入れて売り出しているものを邪魔したとあっては、全面戦争になりかねない。先日、カーセルの商業ギルド長が冒険者ギルドの口座開設の妨害をした件で、公式にも謝罪はあったものの、そんな貸しはあっという間に消えてしまうだろう。

 魔力を核としている氷石は魔石の一種ではないだろうか。ふと、カルダンはその仮説を思い立つ。しかも、魔物の体内ではなく、ある条件で発生し、魔力を吸いながら自身を増やしていく。どこかで似たような話を聞いた気がするが思い出せない。あれこれと思索に耽っていたカルダンを、リッテルの声が引き戻した。

「それで、そのヒューイが、魔物の調査に同行したいらしい。『自分の身は自分で守れる』と言っているそうだが。」

「それも困ったね。」

 調査とはいえ、民間人に怪我をさせれば冒険者ギルドの責任問題だ。しかし、専門家の意見も無視できないし、ついて行くなと言われて勝手に行かれても困る。やはり高ランクの冒険者を向かわせる必要がありそうだ。

「今王都にはBランクパーティーはいくついる?」

 リッテルは少し考え込んで、指を折って数えた。

「そうだな。5グループといったところか。確保するなら急がないと指名依頼で持ってかれるぞ。」

 高ランク冒険者グループは、貴族や大商人の護衛を主な任務とする者と、危険な魔物を討伐して、高額な報酬を得る者に分かれる。どちらにしても、長期間の遠征が多く、王都を離れている間に多くの指名依頼が舞い込んでくる。仕事が選べるのは高ランクならではだ。

「とりあえず、国からの依頼もあるから、全部ギルドからの指名ってことで確保してほしい。この調査に行かせるならどこがいい?」

「魔物の調査だろう?『雷帝の鬣』がちょうど戻ってきている。調査だけだと嫌がるかもしれんが。」

『雷帝の鬣』は魔物退治を専門としている高ランクパーティーだ。

 北にハルピュアが出れば討伐に向かい、東にユニコーンが現れれば角を求めて旅立つといった具合で、王都に滞在することは稀だ。リーダーはレオン。クーラン王国の人間で、魔物の知識が飛び抜けている。

「討伐をしないとなると、素材の収入がないからな。その分依頼料を上乗せしよう。なんなら商業ギルドからも依頼出すよう掛け合ってみるよ。」

 カルダンの言葉にリッテルも頷く。

「レオンにはうまく話を通しておくよ。ギルドからの正式な依頼だ、基本的には断れないからな。」


 とりあえず、カーセルの調査については結論が出た。残るはもう一つの難題だ。

「残りの4グループだが。」

 リッテルも分かっていたようだ。

「犯罪奴隷の護衛依頼だろう?それは国から依頼が出るんだよな。」

「ああ。選定や準備があるだろうから、そうだな、1ヶ月後くらいには出発になるだろう。それまでに可能な範囲で他の仕事を受けても構わないと伝えてくれ。」


 これから王都には冬がやってくる。トレンタは南方にあり、冬でも温かいらしいが、王都は雪は降らないものの、夜になると凍えるほどの寒さになる。そのため、旅に出るならしっかりとした準備が必要になる。


「この依頼の期限はいつまでになるんだ?まさか5年じゃないだろう?」


 5年の拘束では、いくらギルドの依頼でも嫌がられる可能性がある。


「そうだな。とりあえず春までの依頼にしておこう。できればクーラン王国との海峡の調査もやってもらえるとありがたいな。」


 橋がかけられるのかどうか。ある程度の調査はこちらに回ってくるだろう。


「それも必要だな。冬の間に交代できるパーティーを見繕っておく。」


 詳しい内容はもう少し国の方から方針が出ないと立てようがない。


「そういえば、国の責任者は一体誰になるんだ?」


 いくらなんでも王都から遠隔で指示を出すのは非現実的だろう。必ず誰かしらが同行するはずだ。


「トレンタ領主、アダム=ミラルディ様さ。今までの恩を返すため、という名目でね。とはいえ、アダム様はトレンタから直接向かうことになる。王都からは第三騎士団が団長と共に護衛にあたる。」


 5年もの間、王都を離れていては勢力争いから遠ざかってしまうと、誰も行きたがらなかったらしい。宰相が行くという案は黙殺されたそうだ。






二人の話が思ったより長く……

とりあえず誰か行くかは決まったので、またシプランに戻ります

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