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(9)ローズスパーダーを倒します。

「13歳で? どうしてですか?」

自分と同じ歳でなっている人なんてほとんどいないと思っていたのに。アリサは思わず突っ込んできいてしまった。


「うーん。一人でも生きていけて、誰かを助けられるから、かな。13歳じゃさすがにギルドの職員として雇ってもらえないしね…。」


「その頃からギルド職員になりたかったんですね…。」


「まあ、その為に王都まで来たから。」


さらっと答えてくれるリーズさんは自分よりもものすごく大人に見えた。


「一応言っとくと、冒険者同士でなんで冒険者になったのかなんてすぐに聞くのはなしだからな。リーズさんも簡単に答えちゃダメだよ。そういうことを教えるのも仕事だろう?」


エドワルドさんが苦笑まじりに言う。


「あ、すみません。つい…。面接で散々聞かれたので。」


慌てたようにリーズさんが答える。


「ひょっとして新人?」

エドワルドさんの言葉にリーズさんの肩が落ちる。


「そうです…。むしろ色々教えて欲しいです。」


 そんな話をしているうちに、少しひらけた場所にでた。先頭のリーズさんが立ち止まり、じっとどこかを凝視し始めた。しばらくするとまた歩きはじめる。


「ローズスパーダーの巣はこの辺みたいですね。」


 大木の前でリーズさんは立ち止まった。大きなウロが開いている木だ。


「ローズスパーダーは日の光を嫌う。昼間は土の中やこういうウロの中でじっとしていることが多いんだ。さて、どうやっておびきだそうかな…。」


 エドワルドさんがウロの前でしばらく考えていると、リーズさんが自分の荷物から干し肉と透明な糸を取り出した。


「今日はこれを使ってみようと思いまして。」


「面白いものを持ってるね。それで釣るのか。」

「はい。」


リーズさんはエドワルドさんと話をしながら干し肉にぐるぐると糸を巻き、ほどけないか何度も引っ張って確かめている。


「アリサさんは少し下がっててくださいね。」


 言われるままに少し下がる。エドワルドさんは反対側にまわり込んで、いつでも剣が抜けるように身構える。


「何をするんですか?」


「釣りって知ってる?魚をとる時に餌をつけた針で魚を捕まえるの。」


 アリサは魚というものがあるというのは聞いたことがあったけれど、みたことはなかったし、捕まえ方も知らなかった。

 リーズさんは干し肉の部分をウロの中になげこみ、ウロから少し離れたところで様子をうかがっている。

 しばらくすると小さくカサ、という音がした。リーズさんが糸をぐいっとひっぱると、ウロから肉を咥えたスパーダーが飛び出してきた。

 アリサの膝くらいまでの大きさがある。口と足でしっかりと干し肉をくわえたままだが、人がいるのをみて、ウロの方へと後退していく。


「おっと、逃すか!」


エドワルドさんが先回りしてウロの前に立ち塞がる。いつのまにか剣を抜いていた。


「アリサちゃん、おまじない!スパーダーを動けなくして!」


 リーズさんから声がかかる。アリサは急いで両手をスパーダーの方に向けた。


「束縛の糸よ、廻れ回れ…」


 手からきらきらとしたものが出て、スパーダーの体にかかる。ギギっと体が動かなくなるのが分かった。でもまた動こうとしている。そこをエドワルドさんが剣の柄でゴンと叩く。今度こそスパーダーは動かなくなった。


「倒しちゃった…?」


「いや、気絶してるだけだよ。死んだら糸が取れないからね。ここからがアリサちゃんの仕事だろ?まずは火をおこせばいいのかな?」


「はい!」


 リーズさんがスパーダーを見ているうちに、エドワルドさんとアリサで糸をとる準備をする。薪を集め、お湯を沸かした。糸の取り方はお父さんに聞いて、復習してきた。スパーダーのお尻を刺激して糸を引っ張りだすと、先端を糸巻きのはしにくくりつけ、お湯の中に入れる。しばらくすると糸がほんのりバラ色になった。しゅるしゅると糸を出しながらお湯の中に入れ、バラ色の部分を糸巻きに巻き取っていく。力を入れすぎると切れてしまうから、集中しないといけない。最後の糸を巻き取った時にはアリサは汗だくになっていた。


「お、終わりました。」


 スパーダーはまだ気絶しているのか動かない。


「そうか。じゃあ最後、スパーダーの討伐ね。弱点は、ここ。」

エドワルドさんが首のつけねあたりを指差す。


「え、殺さないとだめ、ですか?」


 このまま逃してあげても…とリーズさんを見るとリーズさんも首をふる。


「冒険者になるんでしょ?倒し方を覚えるのも必要だから。」


「そう、です、ね。」


 そういえば今回の依頼は討伐依頼だった、と思い出す。

 短剣をもってスパーダーに近づき、教えてもらった場所に向かって剣を振り下ろした。剣はスパーダーの首を手応えも感じないほど簡単に切断した。しばらくすると切断したところからコロンと石のようなものが転がり出る。リーズさんはそれを拾うと布で拭ってアリサに差し出した。


「これは魔石。魔物を倒すと体から出てくる。これと糸があれば討伐した証明になるから、かならず取ってきてね。」


「はい。」


「じゃあ、まだ時間があるからあと何体か探すか。」


 エドワルドさんの言葉にリーズさんは頷くと、またじっと動かなくなる。そしてまた同じような木のウロに隠れていたスパーダーを釣って動きを止めて糸を取り、とどめをさすというのをあと2回繰り返したところでエドワルドさんが空を見上げる。日が暮れるにはまだ早い時間だ。


「そろそろ終わりにするか…。初日にしては上出来だ。少し休憩してから帰ろう。」


「え?いいんですか?」


 もっと戦うのかと思っていたのに。アリサの思いが分かったのか、エドワルドが苦笑する。


「初日から危険なことはしないよ。まずは魔物の種類や危険な場所を覚えるところからだな。今日は運良く他の魔物が出なかったが、糸を取っている時に他の魔物が来たら困るだろう?糸を取るのにどのくらい時間がかかるかが分かれば、魔物除けの香を炊いたりする方法もある。」


 エドワルドさんが腰の袋から黒くて丸いものを取り出す。


「ほら、こういうのを火にくべるんだ。そんなに高くないから、店で探してみるといいよ。」


「今はやめてくださいね。結構匂いますから…。」


 リーズさんがさっきまで糸を取るのに使っていた火を使って、何かを作っていた。スープだろうか。固まったものを鍋に入れてかき混ぜている。


「キャンプの仕方もおいおい覚えていきましょう。火をおこすのは問題なさそうなので、次からは料理も練習したほうがいいですね。といっても水を沸かしてスープを作るくらいですけど。」

 

 今日の昼食は、丸パンとチーズ、リーズさんが作ってくれたスープだ。


「ケッコーでも出てくりゃあ肉も食べられたんだが…」

「ケッコー?」


聞いたことのない名前だ。


「鳥型の魔物でね。森にもいるんだけど肉も美味しいの。」


 リーズさんが荷物から小さな冊子をだす。


「これを貸してあげる。この辺にでる魔物の絵と名前が書いてあるから。これがケッコーね。」


 指で示されたところをみると、大きく羽を広げた鳥の絵があった。クチバシと足の爪が尖っていて痛そうだ。紙をめくると他の魔物の絵もでている。ローズスパーダーの絵もあった。角の生えたウサギもいて、ちょっとかわいい。バシュピットという名前のようだ。


「へえ。これひょっとしてリーズさんが描いたの?わかりやすいな。たくさん作って初心者に売ったら?」


エドワルドさんの言葉にリーズさんが慌てたように手を振る。


「紙代がバカにならないですよ…。この紙も捨てるはずのものをもらったんです。あ、大事なとこは塗りつぶしてますけど」


 どうやらいらなくなった書類の裏を使っているらしい。見てみるとあちこち確かに黒く塗りつぶされていた。


「刺繍するとか、端切れで作るとか…おもしろそう。」

 

 麻布なら紙より安いし、端切れならお父さんの仕事場でも安く売ってくれる。エドワルドさんがアリサの言葉を聞いて目を丸くする。


「魔物の刺繍なんてみたことないな。逆に魔除けとかいってみんな欲しがるかも。面白いこと考えるねえ。」


「なるほど。布は思いつかなかった。面白いかもしれませんね。」


 ほめられている、ような気がする。アリサはどんな顔をしていいか分からなくなってスープを飲んでごまかした。

読んでいただきありがとうございます。

次回は火曜日更新です。

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よろしくお願いします。

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