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(77)夜釣り

 篝火をいくつも焚いた海岸は、明るくなっている。波はいつもより高く、時折篝火の足元に近づきそうになっている。


「急いだ方が良さそうだな!」


 ペルーシャの言葉にリーズは頷くと、探査スキルで波の奥を確認する。


 波の下には黄色い点と一緒に普段より多い赤い点。いつもより大きな点もある。投網を投げたら魔物も間違いなく一緒にかかる。


「いつもより大きな魔物がかかる可能性が高いです。」


 傍らに控えるジュドーとアイネを見た。アイネは予想がついていたのか、落ち着いて頷く。


「いつ始めてもいいですわよ。」


 ジュドーはきゅっと剣の柄を握りしめた。

「網を投げて引っ張ります。ジュドーさんは網を引っ張るのも手伝って下さい。」

「あ、ああ。分かった。」

 リーズの言葉に戸惑ったように頷くと、ジュドーはリーズの隣にやってきた。


「じゃあ、行きますね。『投網!』」

 リーズが手に握りしめていた薔薇色の球を投げると、ぶわっと網状に広がり、篝火の炎でキラキラと光りながら海の方へと落ちていった。

 そのままでは波に浮いてしまうので、魔力を流して下へと落ちるようにする。底の砂に着いた頃、ぐっと網を引っ張る。

 手ごたえがほとんどない。たぐりよせてみるが、魚は入っていなかった。


「なるべく沖の方に投げた方がいいのかな。」


 もう一度握りなおすと、今度は前よりも遠くに投げてみる。引っ張った手に手ごたえがあった。

 ずるずると引っ張るとジュドーがおろおろと声をかけてくる。


「引っ張った方がいいのか?」

「いえ、このくらいなら一人でも大丈夫です……っと!」


 砂浜に上がった網の下には、小さめの魚がぴちぴちと跳ねている。ほとんどがマクレットだ。

 リーズは持ってきた箱に魚を入れると、網の様子を確かめる。破れたり、切れたりしている様子はなさそうだ。ローズスパーダーの糸はかなり丈夫らしい。

 ついていた海藻をとると、リーズはもう一度網を構えなおす。


「ちょっと待った!」


 急に声をかけてきたペルーシャを見ると、手になにやら瓶を持っている。絶対に何かの薬だ。嫌な予感がしてリーズは目を細めた。


「その瓶の中身は?」

「よくぞ聞いてくれました。これは”サカナトレール”くんだ!その網に試しにかけてみていいかね?」


 薬にくんをつけないでほしい。そして瓶を握ったまま笑顔でにじりよってくるのもやめてほしい。


「いつできた薬なの?」

「今日だ!そしてまだ試してない!」」


 いうなりペルーシャはその薬をリーズの手に向かってかけた。びしゃっと冷たい液体が手にかかり、そのまま手に持っている網にずるずるとしみこんでいく。

 生臭い匂いが漂ってきて、ジュドーは鼻をつまんで後ろに下がり、文句を言った。


「う、臭い!何が入ってるんだよ!」

「魚の撒き餌というのがあるのを聞いてね。それを液体にして網にひたしたらいいんじゃないかと思ったんだよ。ああもちろん、水で流れないように粘り気がついてる。」


 手を動かすとその液体はねばねばと糸を引いた。正直今すぐにでも手を洗いたい。


「……つまり手を洗ってもこの匂いは取れないってこと?」

「そこまで考えてなかった。魚をとり終わったらいろいろな薬品で匂いがとれるか試してみよう。」


 うんうんと頷くペルーシャ。頭の中はどの薬品なら匂いが取れるかで一杯になっているのが言わなくても分かる。


「とりあえず、試してみませんこと?」


 離れたところからアイネが声をかけてくる。いつの間にか手には扇子を持っており。顔の辺りをぱたぱたと扇いでいる。近づく気はないようだ。ジュドーを見ると、鼻を押さえたままだったが、リーズの視線に嫌そうに首を振る。


「捨ててもいい手袋とかある?なければ悪いけど素手でお願い。」


 しばらく考えたジュドーは、持っていた荷物から手袋を取り出す。素手で触るのは嫌なようだ。

 そんなことをしている間にも波は高くなってきている。時折波が足元にかかるようになってきた。あと2,3回が限界そうだ。

 試しに網を広げてみるが、それを邪魔するほどの粘りはない。リーズはもう一度網を構えると、遠くへと放り投げた

 波間に着いたとたん、ぐんと引っ張られる。


「うわ!」


 今までとは違う手ごたえに、リーズは思わず体勢を崩しそうになった。


「ジュドー!」


 リーズの声掛けに、ジュドーはリーズの手から伸びている糸を両手でつかんだ。そこから感じる手ごたえに足を踏ん張りなおすと、リーズが後ろに下がるのに合わせてぐっと引っ張ってくれた。砂浜に上がってきた網には大小様々な魚がぴちぴちと跳ねている。大漁だ。


「ふふふふふ!思った通りだ!毒のある魚があるといけないから、ボクが選別しよう。」

 不気味な笑いを抑えようともせず、ペルーシャは手袋をして網に近づいてきた。

「ペルーシャ!」


 アイネの制止する声と同時に、放たれた障壁がペルーシャの前に立ちふさがる。

 波の合間からでてきた何かが、その壁にガツンとぶつかり、後ずさりした。

 子ども位の大きさのトカゲのような身体に、鰓。大きな口からは長い舌がちょろりと出てきて壁をなめた。


「何ですの?これは。」

「見たことないけど、魔物かな?」

「何で足がついてますの?」

「知らないよ!」


 騒ぐアイネとペルーシャを尻目に、リーズはじっとその魔物を観察する。幸いなことにその魔物は魚にしか興味がないのか、ペルーシャとアイネの騒ぎを気にしていないようだった。あまり賢くもないようで、壁にぶつかっては下がるを繰り返している。


「ジュドー、見張っていて。魚を選んじゃうから。」


 リーズとペルーシャは網にもう一度近づくと、魚を選別しはじめた。

 リーズの鑑定は食用可が分かるので、それだけを見て振り分けていく。


「あ、それ食べられる。そっちはダメ。」

「はいはい。」


 ぽいぽいと食べられるだけ箱に入れると、ペルーシャは箱を持って素早く海岸から離れた。

 網をたぐりよせると、リーズとジュドーも警戒しながら後ろに下がる。壁の前には食用不可の魚が小さな山になっていた。


「いいよ!」


 リーズの声でアイネが魔法を解除すると、その魔物はどすどすと魚の山の前にやってきて、しゅるりと舌で魚を巻き取るとぱくりと丸のみした。

 毒があっても問題ないようで次々に食べていく。全てをたいらげると、魔物は辺りをぐるりと見回した。

 リーズのところで一旦目が留まったが、何かが違ったのか、そのまま海の方へと身体を向け、まだ波間へと潜っていった。

 後には長い尻尾を引きずった跡が残されたが、次の波で綺麗に消えていった。


大きなサンショウウオをイメージしていただければ。


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