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(69) ジュドー

 いつ冒険者が来てもいいようにコルダが部屋を整えてくれていたおかげで、3人の部屋はすぐに決まった。2階にセレネとジェーン、1階にジュドーだ。2階の客室はあと1つしか空きがない。ジュドーの部屋は受付の奥だ。コルダが使っている手前の部屋からつながっているが、夜は家に戻るので問題はない。もともと宿屋を営んでいた家族の部屋で、少し広めになっている。


「他の冒険者が来た時のために、いくつか寝具を用意しておいた方がいいですね。コルダさん、ミルさんにお願いしてきてもらっていいですか?」

「分かりました。今日はそのまま上がらせてもらいますね。」


 リーズの言葉に頷くと、コルダは子どもを連れて宿を後にする。その後姿を見ながらセレネが満足げに頷く。


「いい人を見つけましたね。本部にお願いして正式に雇ってもいいかもしれません。」

「そんなことできるんですか?ギルド職員になれるのは冒険者だけだと……」


 驚くリーズをちらりとみてセレネが首をふった。


「私も冒険者資格はありませんよ。契約職員と言えば良いのでしょうかね。むしろ職員になるために冒険者になってくれと言っていたら、働ける人が減ります。特に家族がいる人は。」


 冒険者になることで、国の籍から外れてしまうと、婚姻関係も親子関係も戸籍上は一旦解消されてしまう。冒険者同士の間で生まれた子どもは、籍がない状態で登録できる年齢まで待たなければならない。そのため、結婚したい場合は、生活を行う国で籍を取得する手続きを行う必要がでてくる。手続きにはお金がかかるので、結婚だけなら事実婚で済ませることも多い。



 部屋の確認が済んだのか、ジュドーとジェーンが部屋から出てくる。ジェーンは少し顔色が悪いようだ。


「ジェーンさんは疲れていると思うので、部屋で少し休んでいていいですよ。後で色々と説明しますね。」


 セレネの一言にジェーンはほっとした顔をすると一礼して階段を上っていった。パタンと扉の閉まる音がする。

 ジュドーはリーズに近づくと、ポケットからごそごそと折りたたまれた紙を取り出す。少しくしゃっとしていたので手で直してから、リーズに差し出した。


「リーズさんですよね。これ、アリサから預かりました。」

「アリサ……。あ!あなた、あの時の!」


 リーズはやっとジュドーが誰だったのか思い出した。アリサがFランクになったときに洞窟まで一緒に行った冒険者だ。リーズは手紙を受け取って開いてみる。



 『リーズさん お元気ですか?


 私もシプランに行きたかったけれど、お父さんの仕事が忙しいので無理でした。

 最近はお父さんと行商に、近くの町まで一緒に出かけています。指名依頼ですよ。

 リーズさんのいる村まで出かけられるように、がんばりますね。


 アリサ』


「アリサちゃん、頑張ってるんだ。」

 

見習いから知っている子が成長していることを知って、リーズは胸の中が温かくなるのを感じた。


「はい。色々なことを知りたいと言って勉強してます。」

「お父さん、指名依頼出してるの?」


 ジュドーは頭をかいた。


「なるべくアリサを男に近づけさせたくないって。パーティーを組む時も大変らしくって、良く喧嘩してます。」


 心配症のお父さんの様子が目に浮かぶようだ。リーズは笑って手紙をまた畳んだ。


「ありがとう。私も頑張らないとね。」


「いえ。無事に渡せてよかったです。そしたら俺、村の様子を見てきます。」


 ジュドーはそれだけ言って宿を出ていった。それを見送ると、セレネとリーズはカウンター前の大きな机に向かい合って座る。セレネが口を開いた。


「では仕事の話をしましょう。私がここに来た理由は二つあります。一つは、ここでの出納管理。思ったよりもお金の動きがあるので、今のうちに帳簿を作成したいと思います。」


「ペルーシャが一応作ってくれています。今出かけているので、戻ってきたらお見せできると思います。」


 ペルーシャの家は商会だ。帳簿関係も当然叩きこまれているので、リーズの作った出納帳をしばらく黙って眺めた後、作り替えていた。しかし、リーズの作った帳簿もこの村の帳簿と見比べたら、変わらないと思うのだ。何しろ自分の村で教わった通りに作ったのだから。


「ペルーシャさん。ああ、実家が商会でしたね。それならば私の仕事も早く終わりそうです。」


 セレネは少し安心した顔をする。


「それから、毎回王都から現金を持ち運ぶのも危険なので、カーセルの商業ギルドに冒険者ギルドの口座を作ります。リーズさん達のお給料もそちらから出せるようにしますので。一度カーセルまで一緒に向かいたいと思います」


「お給料!忘れてました。」


 シプランでの宿代や食費は必要経費として最初に村長に渡したので、実は生活に全くお金がかからない。店もないので使うこともできないが。


「王都の宿代はこちらで代わりに払ってありますので、その分は差し引いてあります。」

「あ、ありがとうございます。」


 1年間だけだからと荷物はほとんど王都に置いてきてしまったので、宿は借り続けている状態だ。アイネの荷物はセバスチャンが王都で引き受けているらしい。


「できればカーセルに行くときに魚を一緒に運びたいのですが、この村、馬車がないんです。」


セレネは目を見開いた。


「馬車がない?他の町に行くときはどうしているのですか?」


「カーセルまでの乗合馬車が朝と夕方ありますけど、それだけです。セレネさん達はここまではどうやって来たんですか?」


「カーセルまで行商にくる馬車があったので、それに乗せてもらいました。親切な方で、近くまで来てくださったのであまり歩かず済みましたけれど……。ギルドの馬車を借りてくれば良かったですね。」


セレネはしばらく考えている様子だったが、カーセルで借りるのが一番早いと判断したようだった。


「とりあえず、明日カーセルの商業ギルドに行きますから、その時馬車を借りましょう。魚はその次の日にできますか?私もどの程度の魚がとれるのか確認したいので。」

「分かりました。魚をとる日をずらしてもらえるか聞いてみます。」


一緒にカーセルにいくのであれば、明日の漁は不可能だ。


「もう一つは、冒険者の派遣です。今回はジュドーとジェーンの二人となります。やはりなかなか遠くまで行きたいと言ってくれる冒険者が少なくて。」


「ジュドーは護衛として来てもらっています。カーセルまでの道を護衛してもらうのが役目です。護衛がない時は、村での依頼を引き受けてもらって構いません。」

「ランクはいくつなんですか?」


 前に会った時はFになったばかりだった。


「もうすぐDになるといったところですね。どこでも働けるようになりたいと、近くの町にもよく行っています。今回は本人が遠くにも行ってみたいという希望だったので連れてきました。」

 

アリサが手紙を預けるくらいだから、一緒にアリサの父親の護衛仕事をしているのかもしれない。

「なるほど。海の魔物は危険なので、あまりランクが低いと心配だったのですが、もうすぐDなら大丈夫ですかね。」

 当然地引網の警護にも参加してもらう予定である。

「今のところ遭遇はしていないのでしょう?リスクを考えても丁度良い位だと思います。残念ながら探査スキルはないようですね」

 低すぎれば急な遭遇に対処できない。もうすぐDということは、欲張らず危険な時は引ける程度には強いということだ。

「分かりました。それは私の方で対応します。ところでもう一人のジェーンさんは一体……」

 セレネはちらりと階段を見やる。声のトーンもやや下げた。

「ジェーンはなりたての冒険者です。王都にはいられなくなってしまったので連れてきました。こちらで仕事を教えながら冒険者になるか職員になるか決めてもらおうと思っています。」

「いられなくなった?」

「ええ。婚約破棄をされて、実家を追い出されてしまったのです。」

読んでくださってありがとうございます。

13歳だったアリサちゃんも16歳。お父さんはやきもきしています。

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