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(67) 探査スキル

 太陽が地平線に届くまで、あともう少しというところ。リーズは海岸を探査を使いながら歩いていた。

 あいかわらず小さな魔物の点はあるものの、危険な感じではない。村長とも話をして、網を引くのは7日に一度にし、自分たちで食べ切れない魚はアイネが氷漬けにしてカーセルに送ることにした。イルが商業ギルドと話をして、買い取ってもらうことになっている。

 今日はとりあえず10匹ほどあれば足りるだろうか、と考えた時、数日前のアマトリーとの話を思い出した。


「あ、そういえば瓶詰めを作るの忘れてた。」


 カーセル領主が来たことで、忘れてしまっていた。アマトリーもキャセリンドのために毎日食事を作らなければならなかったので忙しかったのだ。その分も魚を釣ろうとリーズは釣り竿を背負い直した。


「冒険者の姉ちゃん、今日も釣りかい?」


 からかうような声が背後から聞こえた。リーズが振り返るとがっしりした身体の男が同じように釣り竿を持って立っていた。ヤシオだ。もう帰るところだったのか、手に持っている桶には魚がたくさん入っている。


「私は冒険者じゃなくてギルド職員です。今は、まあ、冒険者も兼ねてますけど。」


 少し口をとがらせてリーズが答えると、ヤシオは豪快に笑う。笑い方がリーズの父親をふと思い出させた。


「そりゃ悪かった。違いが分からなくてな。今日は仕事かい?それとも趣味の方かい?」

「仕事ですね。保冷箱でどれだけ魚が保つのか調べたいので。あとは瓶詰めを作ってみようかと。」

「瓶詰めか。それはいいな。酒の肴にしても旨いしな。」


 ヤシオが味を思い出したのかぺろりと舌なめずりをする。同時に左手に持っていた桶がリーズの目の前に差し出された。


「これも持って行けよ。美味しい瓶詰めと交換でな。」

「まだ作ってもいないですよ? でもせっかくなのでいただきますね。出来たら味見をお願いします。」


 そういいながら、リーズは魚の入った桶を受け取る。これはヤシオなりのお礼なのだろうとなんとなく分かったのだ。

 そのまま海岸を歩くリーズにヤシオは不思議そうに声をかける。


「帰らないのか?」

「せっかく来たんだから、少し釣って帰ります。」


 貰ったものだけで依頼を済ませるのもなんだか後ろめたい。

 ヤシオはなぜかリーズと一緒に歩き始めた。


「帰らないんですか?」

「いや、せっかくだから付き合うよ。やることもないしな。」


 ざくざくと砂の音をさせながら歩いているとふいにヤシオが尋ねてきた。


「冒険者ってのはあちこち行ったりするのかい?」

「うーん。ランクが低い人は危ないのであまり移動はしないですね。街道にも魔物はでますから。ある

程度強くなると、護衛であちこち行く人もいますね。」


 シプランに来てしまえば、おそらくその冒険者はしばらくこの周辺の仕事だけになる。カーセルが近いので、そちらの仕事も入るようになれば、生活には困らないだろう。


「なるほどなあ。海に出る仕事はないのかい?」

「魔物が多すぎて、冒険者でも禁止されてますよ。ただ、ここで漁ができることが分かったので、そういう調査の仕事は来るのかな……。」


 釣り程度であれば、できる場所があるのではないか。ひょとするとリーズのいた村でも。最後は半分独り言だったが、ヤシオが聞きとがめる。


「あちこちで魚を釣る仕事があるのか?」

「いや、できるかもしれないって話ですよ。うっかり魔物を釣り上げちゃったら大変じゃないですか。」

「うっかりって、この前の地引網でも小さい魔物はいただろう?」

「大物がかかっちゃったら大変じゃないですか!それこそ『探査』スキルでもないと頼めませんよ。」


 ヤシオは少しがっかりした顔をしている。ひょっとして魚を釣る仕事に興味があったのだろうか。

 やがてリーズはある場所で足を止めた。


「ここがよさそうですね。」

「なんで分かった?ああ、『探査』スキルか。便利だな。」

「父が教えてくれたんですよ。よく一緒に漁に連れて行ってくれて、その時に。」


 あの頃はスキルだということは知らなかった。どこに魚がいるのか分かって便利だなと思っていただけだ。


「それで船に慣れていたんだな。待てよ。父親に教わったってことは、俺でもスキルを覚えられるってことか?」


 ヤシオの顔がぱっと明るくなった。スキルは誰でも覚えられるものなのだが、冒険者しか覚えられないと誤解している人も多い。スキルだと気づかず使っていることもあるのだ。


「私が5歳で覚えられたから、大丈夫だと思いますよ。やってみますか?」

「ああ!」


 今までの経験でヤシオはどのあたりに魚がいるのかは分かっているはずだ。


「魚がいる場所は大体分かると思うので、まずはその辺りにいる魚を見ようと思ってください。」

「それだけか?」

「最初はそれだけです。父には『目と耳を使え』と言われました。そしたらそのうち海の中に点が見えるようになったんです。」

「なるほどなあ。」


 ヤシオはじっと海を睨んでいる。これで上手くいかなければ、ペルーシャのスキルを上げる薬を買ってもらおう。後が大変だけれども。


 リーズが3匹ほど魚を釣り上げたころだった。


「ん?」


 急にヤシオが目を細めた。


「何か見えましたか?」

「何かちらちらちらっと動くものが見えた気がしてなあ。波のせいかな。」


 陽が落ちてきて、海の色が橙に変わりつつある。光の加減でそう見えたのかもしれない。またヤシオが黙って海を見始めたので、リーズは餌をつけて釣り糸を垂らす。


「……もうちょっと右にしてみたらどうだ?」

「右ですか?」


 リーズが竿を動かして、仕掛けを右にずらした時だった。ぐいっと釣り竿を持っていかれる感覚に、リーズは足を踏ん張った。


「かかりました!この大きさはマクレットじゃなさそうです。」

「ロジャームだ。引っ張られるぞ!」


 右へ左へと動く釣り糸が切れないよう、必死で釣り竿を操る。動きが鈍り、ヤシオの手を借りて引き上げた時には、腕が痛くなっていた。


「なかなか立派なのが釣れたじゃないか。まだここでも生きていたんだな。」


 ビチビチとヤシオの両手の中で跳ねる魚は、マクレットとは比較にならないほど大きい。夕日を反射して鱗がキラキラと光っている。リーズの持っていた桶になんとか入る大きさだ。

 ヤシオは手早く血抜きをすると、リーズの桶に放り込んだ。


「昔は良く釣れたんだよ。焼いても煮てもうまいんだ。アマトリーに調理してもらえばいい。」

「ひょっとして、探査が使えるようになりましたか?」


 魚がかかる前に、ヤシオは釣り竿を動かすように言ってきていた。魚の名前も分かっていた。案の定、ヤシオは頷く。


「多分。あのあたりに大きな魚がいるってなんとなく感じたんだよ。ああやって逃げるのはロジャームの習性なんだ。」


 スキルは何度も続けることで習得することがある。今までの釣りの経験と意識することでスキルとして使えるようになったのだろう。


「続けていけば、もっとよく分かるようになると思いますよ。」

「ああ。楽しみだ。」


 ヤシオは日に灼けた顔をほころばせた。

事件の後、船で海に出て戻ってこないことが多かったため、国から船で海に出ることは禁止されています。

冒険者に関してはギルドの方針として、許可がない者は海に出られません。

自分の楽しみとして密かに陸から釣りをしてる人はいますが、自分用なので、魚が流通していない状況です。

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