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(59)村の収入源

村長の家に現れたのは、イルだった。王都から来たにしては冒険者の装備もなく軽装だ。行商人と言われたら納得してしまうだろう。


イルは3人を見るとにこりと笑う。


「やあ。久しぶりですね。元気だったかい?」

「は、はい。イルさんもお元気そうで。」


イルの仕事は調査員である。リーズ達ギルド職員の査定もその仕事に含まれる。リーズは思わず笑顔が引きつった。村人に火を付けたと誤解されて、村長の家に軟禁されたと知られたらどんな査定がつくのだろうか。減給?それともクビ?とりあえず余計な話はしないとリーズが思った時だった。


「別に悪いことはしてないよ。」

「ペルーシャ!」

「喋っちゃ駄目!」


アイネとリーズの制止も間に合わなかった。ペルーシャはしまったという顔をしてそっぽを向く。イルは目を丸くした後苦笑する。


「それは悪いことをした子供のセリフですねえ。」


「いや、悪いことはしてないです。ただ、ちょっと行き違いが……。」


慌てて説明をしようとするリーズをイルが片手を上げて制止した。


「今回は皆さんの査定に来た訳ではないのですよ。カーセルの領主さんから頼まれ事をしましてね。とりあえず話を聞いてもらえませんか?村長さんも一緒に。」




イルの話が終わった頃には、アマトリーさんの入れてくれた薬草茶が冷たくなっていた。


「つまり、あの魔物がカーセルの領主の屋敷を丸焼けにしたということですわね。この村が責任を問われるかどうか、難しいところですが。」


アイネが問題点をさらっとまとめた。相手が領主である以上、責任を問われたら何もしないという訳にはいかないだろう。


イグルー村長ががくりと項垂れる。


「我々が何かをした訳ではないのだが……。言われたら従うしかないだろうな。それで、領主様はなんと?」


「いやいや、この村に責任をとってもらおうとかそんなことは考えてないですから。むしろ自分に対する報復なのかと心配しておられましたが。」


「報復?」


「ええ。この村をなくしてしまおうとした事への。」


村をなくす?どうやって?リーズが小首を傾げていると、アイネが納得したように頷いた。


「仕事がなく、村から町へ出稼ぎに行く。そのうち行き来が面倒になって、町に居着いてしまう。これを繰り返せばたしかに村の人数は減りますわね。そこで国にあの村は人が少ないからと訴えれば……」



「そう言えば、カッコいい人達が護衛についてた!あれも作戦だったわけね。」


「村はなくなって、領主は村の人を救った恩人になるわけだ。自分が悪者にならないところが貴族のやり方っぽいな!しかも今が1番いいタイミングじゃないか!」


「つまり、私達に村を捨てて町へ引っ越せと……」


村長の顔は青くなってしまった。


「違いますよ。そもそも計画に気づいてなかったのなら報復なんて無理でしょう。

ただ単に、魔物が悪さをしただけ。私はそう領主様に報告しますから。君たちも村長さんを困らせないでくださいね。」


イルさんに軽く睨まれてしまったリーズ達は、目を逸らして冷たくなったお茶を飲んだ。さっきまで散々に言われていたのだから少しは許して欲しい。


「それで、魔物はどうなったのですか?」


「私たちが倒しました。なので、もう火事は起こらないと思います。」


リーズ達の話を聞いて、イルも納得したようだった。


「では、領主様にはそのように伝えましょう。後は『人魚の涙』と町への出稼ぎをどうするか、ですね。」


「『人魚の涙』は領主様に渡した方が良いのですか?」


「その必要はないと思いますが、一応話はつけた方が良いでしょうね。」


領主の先祖の物であれば、領主に返すのが筋なのだが、『人魚の涙』があることで、この村も魔物から守られている可能性もある。人魚からしたら腹の立つことだろうが。


「問題は出稼ぎだよねえ。他に収入源がなさすぎる。」


ペルーシャがターバンの端をいじりながら言った言葉に、村長がまたも項垂れる。


計画を聞いて、そのまま仕事を続けることに抵抗がある人もいるだろう。けれども仕事を町に頼り切っている状況を考えると、簡単にやめる訳にも行かない。


「多少珍しい薬草があるとはいえ、それだけじゃやっていけないよ。海があるんだから、塩でも作る?」


ペルーシャの提案に、アイネが首を振る。


「塩作りは国の許可が必要ですわ。値が変動しないように量を調節していますから。自分達で使う分には許されるでしょうけど。」


「もったいないねえ。せっかく海があるのにさ。」


村長がうんうんと頷いている。


「もともと、15年前までは、魚を取って暮らしていたんだ。それ以外の仕事なんて、と考える男どもが多くてな。それでこの有り様だ。陸路で魚を運んだら腐ってしまう。仕方ないから自分達の食べる分だけしか取らん。」


魔力暴走はあちこちの村にも影響を与えていたのだ。海が魔物で溢れていなければ、この村ももっと栄えていたのかもしれない。村長の話にイルが首を傾げる。


「魚が取れるのですか?海の魔物が増えてから、魚は取れなくなったと聞いていますが。」


「船は出せんが、釣る分には困らんな。大きな魚は難しいが。」

「おそらく、『人魚の涙』の力でしょうね。魔物が近づかないから魚が戻ってきたのでしょう。」


「なるほど。どの国も海へは出られないので、魚はかなりの貴重品です。王都で売れば高値が付くでしょうね。」

イルの言葉にアイネ達は顔を見合わせる。


「なんとか魚は売れないかな?」

「干物にする?そしたら王都まで運べるかも。」

「そもそも、どの辺まで魔物がいないのか調べてみるのも良さそうですわ。少し沖合に出られるのであれば、網で取れるのではなくて?」


地引網で魚が取れれば、量も増えるだろうし、収入も増える。問題は、王都までどうやって運ぶかだ。


「氷魔法を使える冒険者を連れてきて、ここで氷漬けにしてもらうのはどうかな。」

「七日間も氷は持ちませんわ。運ぶ時も一緒についてもらわなければ。」

「運ぶ方法については、僕にも当てがあるよ。それより、村長さんが困っているから、少し話を整理しようか。」


リーズ達の話を聞いていたイルが口を挟んだ。イグルー村長は口を開けたまま、固まっている。


「王都まで魚が運べるのかね?」



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