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(58)魔物はいたんです

時間が空いてしまいました。

少しずつ更新していきます。

 魔物を倒した次の日。リーズたちは村長の家に軟禁されていた。

 炎が上がった後、様子を見に来た村の男たちが砂浜にぐったりと座り込んでいるリーズ達を見つけ、あろうことかリーズ達が蔦に火を点けたと誤解したのだ。

 そのまま村長の家に連れてこられて今に至る。縛られてはいないが、椅子に座らせてももらえない。突き刺さるような視線だけが降ってくる。アマトリーさんはリーズ達の疲れた様子を見て、

「温かい物を用意してくるよ。あんたらはちゃんと話を聞いてやんな。」

 と戻って行った。いい人だ。


 アマトリーさんの忠告もどこへやら、村の男達はリーズ達が悪いと決めつけているようだ。魔物がいたのだと話をしても信じてくれない。


「冒険者ギルドなんて、信用ならん。村長、さっさと追い出してしまえ。」

「いい大人が遊んで火を付けるなんてどうかしてるだろう。冒険者なんてそんな奴らばかりだ。」



「遊んでばかりはそっちじゃないか。仕事もしないで飲んだくれてる奴しかここにいないだろ。別にこの村じゃなきゃいけない理由はないからなあ。ボクたちの言葉を信用しないんだったらこの村にいる必要はないし。」


「なんだと!」


「べルーシャ、言い方……」


 ペルーシャも不貞腐れてきたのか、言葉が投げやりになっている。

 アイネは疲れきっているのか話す気にもならないらしい。リーズもどうにかしなきゃと思いながらも、身体のだるさにどうにも考えがまとまらない。

 何度目か分からないが、説得を試みる。


「魔物がいたのは本当なんです。」


「は!確かに魔物の噂はあるが、誰も見ちゃいない。もう少しマトモな嘘をついたらどうだ。村長、もういいだろ!コイツら村から追い出そう!」


 一蹴された。


 頼みの綱のイグルー村長はオロオロと視線をさ迷わせている。ギルドからのお金も受けとっている手前、追い出すには抵抗があるが、男達を説得する力はないらしい。情けない。


 リーズがため息をつくと、後ろからつんつんと服を引っ張られた。誰かと見ると、アイネだった。


「ペルーシャ……箱……。」

「箱……?」


 リーズのつぶやきで、ペルーシャは急に立ち上がり、ポケットをゴソゴソと探し始める。


「忘れてたよ!これがいけないんだな!ほら、村長。この村に魔物がこない理由はこれだ。」


 ペルーシャがひょいっと投げた箱をイグルーは怪訝な顔をして受け取る。


「それは人魚の涙っていうらしいよ。それをすこーし魔物から遠ざけたら襲ってきたんだ。」


 本当は村まで持ってきていた訳だけど、ペルーシャもそこまで正直には話さない。


「人魚の涙?」


 顔色を変えたのはイグルーだった。驚いた拍子に箱を取り落とす。中から白い玉が出て、コロコロと部屋の隅に転がっていった。


「馬鹿な。本当にあるなんて……。」


「どうした、村長。」


 周りもイグルーの顔色が変わったのが分かったのだろう。


「とりあえずさ、それを拾って他の家に置いてきてくんない?魔力持ちはそれがあると具合が悪くなるらしいよ。」


「そういえばさっきから寒気が……」


「俺も……」


 何人かの男が玉から距離を取ろうと、じりじり後ずさる。


「……分かった。詳しく話を聞きたい。」



  それまでオロオロしていた村長が一転、男達の1人に箱を渡し、預かるように言うと、リーズ達を椅子に座らせた。


「どうしたんだよ、村長!」


「どうしたもこうしたも無い。」


 イグルーはそこで一息つくと、ぐっと手を強く握りしめる。


「あの砂浜に魔物を放ったのは私の先祖だ。まさかまだ生きているとは思わなかったが。お前らも人魚の話は知ってるだろう?あれは本当の話だったのさ。」


 男達は顔を見合わせる。そのうちの1人が叫んだ。


「じゃあなんで今になって出てきたんだよ。おかしいじゃないか!」


「何言ってんだい。前にも出たじゃないか。」


 扉を開けて入ってきたのはアマトリーだった。



 丁度よく戻ってきたアマトリーによって、リーズ達の前には、温かな食事がおかれている。部屋にいた男達も食事の邪魔だと追い払われていた。残っているのは村長のイグルーだけだ。


「ああ、やっとまともな食事が取れるんですのね。」


 人魚の涙が遠ざけられたお陰で、アイネの顔色が戻ってきた。多少の嫌味も言えるくらいには復活したようだ。


「ほんとだよね。大変な思いをして魔物を倒したっていうのに。これは職員としてギルドに報告しないと。」


 アイネとペルーシャの言葉を聞き、村長のイグルーは頭を下げる。


「済まなかった。」


「まあ、とりあえず食事が冷めないうちに食べちゃくれないかい? 腹が減ってるとろくなことは考えないからね。村長、あんたも少し休んできた方がいい。」


 今までずっと黙っていたアマトリーが口を開いた。


「そうですね。いただきます。」


「そ、そうだな。私がいると落ち着いて食べられないだろう。食べ終わった頃、今後の話をしよう。」


 村長が部屋を出ていくのを見届けると、リーズ達はとりあえず食べることに専念することにした。


「アマトリーさんの魚貝のスープはいつ食べても美味しいです。」


「そうかい?嬉しいねえ。海岸で取れる貝やら魚やらで適当に作ってるだけなんだけどね。」


 リーズの言葉にアマトリーはにこりとする。ペルーシャもアイネも黙ってスープを食べている。野菜も魚もふんだんに入っているので、スープだけでもお腹にたまる。身体が温まると少し眠くなってきたが、まだ眠る訳にはいかない。


「ところで前にも魔物が出たって……」


 ペルーシャがアマトリーに聞こうとした時、イグルーが慌てた様子で入ってきた。


「冒険者ギルドの人が君たちを探している。心当たりはないか?」


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