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(55)対決

  運よく引き潮だったようだ。まだ浅く水が残っている洞窟の中を、パシャパシャと水を跳ね上げながらリーズとアイネは走った。

 洞窟の出口まで来たところで二人は立ち止まる。中にあった木やツタが崖の上まで燃えて、空を赤く染めていた。暗い空を鳥たちが炎から逃げ惑うように飛んでいる。


「いったい何が。」


 アイネのつぶやきを聞きながら、リーズは探査スキルを使う。ほどなくツタの下の部分に赤い点を見つけた。魔物がいる。


「アイネさん、魔物がツタの下にいます。」


 リーズは持っていた短剣を構え、用心しながらツタに近づいて行った。下の方はもう炭のようになった茎のようなものだけが残っている。短剣でその茎を切ると中からぼんやりとした黒いものがずるずると這い出してきた。少し大きめの鼠くらいの大きさで、目の部分だけ炎のように赤い。アイネが呆然としている。


「まさか、なぜこんなところにシャドウ・フレアが。」


「シャドウ・フレア?」


 リーズは聞いたことのない名前に首をかしげた。


「ゴーストの一種よ。火を操るわ。魔力をためて強くなると実体化する厄介な魔物。今のうちに倒さないと。」


「弱点は?」


「浄化スキルだけど、私もさすがに持っていないわ。」


「私もありません!」


 しゅっととびかかるように向かってきた影をリーズはかわし、切りかかる。が、手ごたえはない。


「火を操るんなら水は効かないですか?」


「やってみるわ!」


 アイネが片手を突き出し、小さく何事かつぶやくと、水の束が手のひらに現れ、シャドウ・フレアに向かう。


「オオオオ……。」


 聞いたことのないような声をあげ、シャドウ・フレアの輪郭は少し小さくなったように見えた。


「効きましたね!」


「ええ。でもこれでは倒せない……。来ますわよ!」


 シャドウ・フレアの目が怪しく光るとぶわっと輪郭が大きくなる。アイネはリーズの前に出ると急いで魔法障壁をはる。シャドウ・フレアから放たれた炎がいくつも障壁にぶつかりぱっと火花をあげる。


「おそらくこの魔物は魔道具から生み出されたものです。人魚の話にも出てきていました。」


「なるほど。それがまだ生き残っていたのですね。しぶといこと。それならどこかに魔道具があるはずですわね。それを壊せば倒せるはず。」


「怪しいのは、あの辺りですけど……。近づけませんね。」


 リーズが指さしたのはツタの真下辺り。そこにシャドウ・フレアが陣取っているため、近づこうにも近づけない。


 不意に何かが引っ張られるような感覚がリーズを襲う。それはリーズだけではなかった。アイネも障壁を思わず外し、片膝をつく。後ろを振り向くとペルーシャがいた。手に持っているのは『人魚の涙』か。


「なっ……。なんで持ってきましたの!」


「いいから下がって。もともとこれがおさえてたんでしょ?」


 不満げなアイネの言葉をさらりとかわすと、ペルーシャは『人魚の涙』をもってシャドウ・フレアに近づく。シャドウ・フレアは逆にじりじりと下がっていく。やはり何かを吸い取られているのか、ますます体が小さくなっているようだ。


「リーズ、動ける?」


「大丈夫。魔道具を探せばいいのね。」


 身体のだるい感じは消えないが、動けないほどではない。逆にアイネは動くのも辛そうだ。何歩かゆっくりと下がるとその場に座り込んでしまった。リーズがゆっくりとツタの残骸に近づくが、シャドウ・フレアは攻撃することもできないようだ。

 砂の上には黒い燃えかすが降り積もっていた。それを払っていくと、ほどなく指に硬いものが当たる。拾い上げてみれば、それは小さな木でできた箱だった。開けると小さな炎が飛び出す。火を点ける魔道具だったのだろうか。リーズは砂浜に箱を置くと短剣を思い切り振り下ろした。古い木の箱はもろくなっていて、刃を当てたところからぼろぼろと崩れ落ちた。


 その直後、恐ろしい声がして、シャドウ・フレアは空へと飛びあがった。そのままぐるぐると旋回すると、一直線に砂浜に座り込むアイネに向かっていく。


「アイネ!」「アイネさん!」


 二人の悲鳴にも似た声が響き渡る。アイネはゆっくりと片手をシャドウ・フレアへと向けた。唇が何かを唱えると手から放たれた水がシャドウ・フレアを覆い、小さな球になる。水の球はアイネの方へとふよふよと近づき、アイネが両手で握りつぶすようにするとじゅっという音とともに消えた。


「ふう。」


 力を使い果たしたのか、アイネがごろんと砂浜に横になる。アイネにしては珍しい。


「砂だらけになっちゃいますよ。」


「洗えばすむことですわ。休めばそのくらいの水魔法は使えます。」


 軽口の後、アイネの隣にリーズもごろんと横になる。崖の上の方はまだぷすぷすと煙が上がっているが、燃えるものがなくなれば火は消えそうだ。ペルーシャも近づいて来ようとするが、アイネが手をあげて止める。


「これ以上それを近づけないで。おぶって帰っていただきますわよ。」


「そのくらいはお安い御用だけどね。立てるようになったら帰ろうか。」


 3人はそのまま火が消える様子を黙って見守っていた。

読んでいただきありがとうございます。


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