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(51)若者との出会い

「おじさんとの出会いに乾杯〜」


 結局あれからも何度かジョッキを運ぶうち、イルは若者達の輪に招かれ、一緒に飲みはじめていた。王都から来た商人、と言うのが、若い男達の冒険心をくすぐったようだ。王都の様子や旅での色々を目を輝かせて聞いていた。話が落ち着いたところで、イルは若者達に話を振ってみる。


「ところでみなさんのお仕事は何なんです?職人さんではないようですが。」


「僕たちは自警団です。領主様に雇われて護衛のようなことをしているんですよ。」


 イルの一番近くで身を乗り出すようにして話を聞いていた男が肩をすくめる。


「それは大変なお仕事ですね。領主様の外出に付き合うこともあるのですか?」


「そういうのはもっと腕の立つ人たちがやりますね。僕たちは、他の村からこの町に働きに来る女性達の護衛をしています。とはいえ近いので、今まで何もありませんけどね。こんな辺鄙なところじゃ盗賊もでませんし。」


 イルの話を聞いた後では自分たちの仕事に物足りなさを感じるのだろう。


「いやいや、護衛は気を使う仕事だと思いますよ。特に女性は大変ですね。私なんて一人で商売ですから、気楽なものですよ。」


「大変なんですよ。自警団の仕事だって言うからやりますけどね?どうして遠い村の人の警護をしなくちゃいけないんだか。よくわからないんですよう。」


 お酒が回ってきているのか、口も軽くなってきているようだ。周りもそれを止める様子もない。それどころか一緒に頷いている者さえいる。


「木工所で人手が足りないからではないのですか?保冷箱があちこちから引っ張りだこだと聞きましたよ。私も今予約してますが、しばらくかかると言われましたからねえ。」


 いくつか王都へ持ち帰ろうと思ったのだが、一月ほどかかると言われてしまった。もう少し早く帰るつもりだったが、仕方がない。商品がなくなりそうなので、それの補充だけはギルドに頼んだ。


「でも不思議ですよねえ。女の人ばかりが雇われていますよね。私の仕事としてはありがたいんですが、木工なんて力のある男の方が必要なんじゃないんですかね?」


「町にいる男の木工職人は一緒にやっているらしいんですけどね。他の場所から連れてくるときは女だけだって言うんですよ……何でだか知ってるか?」


 若者は周りをぐるりと見渡したが、ほとんどは首を捻るばかりだった。しかし、そのうちの一人が首を傾げながら口を開いた。


「俺ちょっと聞いたことがある気がする。どう考えても女の護衛の方が手がかかるじゃないか。だから隊長が領主様に質問してたんだよね。そしたら昔からの取り決めだとか、村から女がいなくなるようにするんだとか良くわかんないことを領主様が言ってて。隊長も面倒になったのか、途中で話を切り上げてた。」


「村から女をいなくなるようにして、どうすんだ?」


「俺に聞くなよ。でも女達が喜んで町に来るように、俺達が迎えに行ってるんだろ?いい相手がいたら、町に残るように言えって言われたじゃないか。」


「ああ、確かにな。で、いたのか?」


「いやだなあ。いたらこんなところで飲んでませんて。」


「それもそうだな。」


 笑い声が起こる。


「そういうお相手ができたら、ぜひうちの商品を買ってくださいね。お安くしますよ。あと一月ばかりはいますのでね。」


「一月かあ。見つかるかなあ。」


 若い男達は好みの女性の話をはじめる。イルはそれを聞きながら考えをめぐらせる。


 村から女性を集めるようにしているのはどうやら領主らしい。どうあっても領主と接触をはからなければならないようだ。ついでにこの町の歴史についてもう少し調べたほうが良さそうだ。商業ギルドに聞くのは勘ぐられそうだしな、と思った時、ふとこの町で最初にあった屋台の女を思い出した。お礼もかねて顔を出してみようか。


「で、おじさんはどんな女の人が好みなの?結婚は?」


「私ですか?こんな仕事をしていると身を固めるのはなかなか……。でもそうですねえ。仕事の手伝いをしてくれる女性がいいですねえ。」


「おじさん、仕事のことしか頭にないの?」


 からかうような若者の声に、イルは真面目に答える。


「それはもちろん。この仕事が天職だと思っていますからね。」







 次の日イルが起きたのは、日がすでに昇った後だった。軽く頭痛がする。


「少し飲み過ぎましたかね。でもちょうど良いですね。」


 朝食は取らずに身支度だけ整えると、イルは最初に果実水を飲んだ屋台へと向かった。日によってはいないかもしれないと思ったが、どうやら毎日働いているようだ。彼女はイルをおぼえていたようだった。


「おや、お兄さん。ちょっとくたびれた顔をしているね。二日酔いかい?」


「さすがですね。スッキリしたいと思った時にこの店を思い出しまして。今日も一杯もらえますか?」


「はいよ。そこの椅子に座ってちょっと待ってな。」


 屋台の前にいくつかある椅子を指さすと、彼女は後ろを向いて準備をはじめた。イルは言われるままに座り、周りを見回す。かなり暑いせいか、人通りも

少なめだ。


「ほら。今日は果物入りだ。これなら少しは食べられるだろう?」


 この前はただの冷たい水にしか見えなかったが、今日は中に果物が入っている。食べやすいように串もさしてあった。


「これはどうも。」


「なに、中の果物は出さないで捨てちまうからね。おまけだよ。」


「捨ててしまうんですか。ちょっともったいない気もしますね。」


 果物は少し水っぽく感じたが、二日酔いの胃にはちょうどよかった。


「どうだい、商売は。上手くいってんのかい?」


 客も来ないので休憩にしたのか、彼女が話しかけてくる。昼食の代わりなのか、果物を皿一杯に乗せていた。


「ええ、おかげさまで。あ、私イルといいます。」


「アマンダだ。上手くいったようで何よりだ。いつまでこの町にいるんだい?」


「それが実は……。」


 保冷箱を買おうと思ったら一月待つように言われた話をイルがすると、アマンダは大きく目を見開いた。


「そんなに売れてるのかい。早目に買って正解だったよ。商売に障りはないのかい?」


「王都から商品を送ってもらう手筈はつけられたので、のんびり待ちますよ。ただ、ちょっと時間もできそうなのでね。何か面白い話がないか探そうかと思っているんですよ。」


「面白い話ねえ。商売のことならギルドじゃないか

 ?」


 金になる話をイルが探しているのだと思ったのだろう。アマンダが真っ先にあげたのはギルドだった。



「ああ、商売は抜きで。実は私、昔話が大好きでしてね。この辺に昔から伝わる話とか、聞いてみたいんですよ。場所によって似たような話があって実に面白い。」


「へえ。そんなもんが好きなんて、結構子供っぽいところがあるんだね。昔話ねえ。」


 果物を食べながら、アマンダは夏空を見上げて何やら考えている。


「冬はね、吟遊詩人が来るんだよ。それで色々な話をしてくれるんだけどねえ……。ん?吟遊詩人か。」


 何かをおもいついたのか、アマンダは綺麗に平らげた皿を屋台に置くと、ふいとどこかに出かけてしまう。どうやら思いつくと動いてしまう人だったようだ。


「店、このままでいいんですかねえ。」


 多少責任を感じたイルは、しばらく待つことにした。しかし、それほど長い時間ではなかった。バタバタと走ってきたアマンダは、若い男を連れてきた。イルはその顔に見覚えがあった。昨日飲み屋でイルの近くにいた若者だ。若者も覚えていたのか、不思議そうにイルをみている。


「え、おじさん、なんでここに?アマンダおばさんの知り合いだったの?」


「え、なんで君がここに?」


 アマンダは若者の手を離すと、イルをみる。


「こいつは私の甥っ子でね。吟遊詩人になりたいって言ってる困ったやつなんだよ。」



読んでくださりありがとうございます。

長くなってきたので、そのうち章を分けたいと思っています。

ブックマーク、評価が増えるのを見るたび、喜んでおります。

次回も週末更新予定です。

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