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(5)依頼料の不思議と鑑定スキル

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

次は火曜日に更新です。

評価、感想など寄せていただけるとなお嬉しいです

 

「お、終わった…。」

 隣でアンドルーがカウンターに突っ伏している。昼を過ぎ、やっと行列から解放されたところだった。

 あの後は特に揉め事もなかったが、次から次へと来る依頼の処理で、お互いの様子を見る余裕もなかった。


「お疲れ様。でも二人で回せたんだから頑張ったよ。」


 隣の窓口にいるメイサがにこにこしながら声をかけてくる。リーズ達より3年ほど先輩で、浅黒い肌とキラキラ銀色に光るショートカットが眩しい人だ。


「ホントですか?フォローなしでの仕事初めてだったんで緊張しました。」


 嬉しそうにアンドルーが顔を上げる。その顔を見て、メイサのにこにこが怖い方向にパワーアップした。


「フォローなら、マリンさんがしてくれたでしょ? 今度会ったらちゃんとお礼言っとくのよ。そういう事こだわらない人だけど。」


 やっぱりあれはフォローを入れてくれていたのか。あの依頼書はちゃんとランクFの人が受けていった。


「ああいう事言ってくる人にどう対応するかも考えていかないとね。リーズもフォローの方法を考えて。二人でいるのは意味があるのよ。今のうちに交代で休憩に行ってね。」


「…はい。」


 二人一緒に忠告されてしまった。素直に頭を下げる。どうしたらいいのかはまだわからないけれど。


 メイサが仕事に戻ると、リーズとアンドルーは顔を見合わせた。


「どうする?先に休憩入る?」


「いいのか?」


 リーズの言葉にアンドルーがぱっと嬉しそうな顔をする。


「私はそんなに大変な案件なかったし。依頼の貼り出ししておくよ。」


 朝のうちに貼り出した依頼はほとんどがなくなっている。午前中にギルドで受けた依頼を今のうちに貼るのだ。


 ギルドに依頼をするための窓口は別にあり、立派な応接室で営業課が応対をする。マリンはいつも依頼受付で適当に相手を選ぶので、特別待遇だ。

 依頼に来る人は大抵午後から夕方にかけてくる。それから依頼書にまとめるので、依頼書が受付に届くのは次の日の朝になる。それをわかっているので冒険者も午前中に殺到する。

 アンドルーはカウンターの書類を片付けるといそいそと休憩室に向かった。その後ろ姿を見送ると、リーズはシェリルのところに向かった。依頼書の束だろうか。机の前に積み上げられた書類を眉をひそめて読んでいる。リーズが近づいてきたのにも気づいていないようだった。


「午後の分の依頼書を取りに来ました。」


 声をかけるとはっとした顔でリーズを見る。


「ああ、ご苦労様。じゃあ、これをお願いできるかしら。」


 机の上の依頼書の束をごそっと渡される。リーズはぱらぱらとめくりながら内容を簡単に確認した。


「昼なのに依頼多いですね。最近なんだか護衛依頼が増えてるような気がします。」


 リーズの言葉にシェリルは目をちょっと見開いた。

「よく気がついたわね。そうなのよ。街道に強盗が出るみたいでね。隊商が何度も襲われてる。命を取られてないのが幸いだけど、あまり続くと冒険者ギルドの威信にもかかわるわ。そのうち上位ランクの冒険者に討伐を依頼しないといけないわね。」


 治安を守るのも冒険者ギルドの役目である。魔物の襲来や強盗などにはギルド自身が依頼主として対応することもある。その場合、ギルドに所属する冒険者はよっぽどのことがない限り依頼を断ることができない。


「依頼料も護衛ランクも上がる一方…なんとかならないかしら。」


 リーズは首をかしげる。依頼料が上がるのはいいことなのではないだろうか。


「あの、依頼料が上がっちゃだめなんですか?」


 リーズの質問に、シェリルは顔を上げる。


「例えば、誰かが護衛を一日10万ライヒでお願いしたとするわね。そしたら同じ冒険者ランクの人を他の護衛につける時は、同じくらいの依頼料にしなくてはおかしいでしょう?」


 それはそうだ。リーズは頷く。


「そしたら、そのお金を払えない人はどうなるかしら。冒険者ランクを下げて依頼するか、護衛をつけずに出かけるしかなくなる。そして盗賊に襲われてしまう。あるいは依頼料を上乗せした金額で物を売る。そうすると物価が上がってしまうのよ。」


 シェリルはため息をつく。


「護衛ランクを落としたり、つけていない隊商が最近狙われているのよ。どうやって選別してるのかしら…。」


 最後の方は独り言に近くなっていた。リーズは一礼すると、受け取った依頼の束を壁に貼り出しに向かった。


 午後の受付は比較的時間に余裕がある。アンドルーと交代して休憩を取って戻ってみても、ギルドの中は両手で数えられるくらいの人しかいない。


 隣の依頼完了の窓口では、メイサが依頼料の査定を行なっていた。


「ん〜、アルラウネの根が五千ライヒ、オレガンの葉が二千ライヒってとこかしらね。」


「ええっ、そりゃ安すぎない?」


 どうやら採集依頼の査定のようだ。常連さんのようで、話し方もお互いくだけている。

 王都での冒険者の生活費は1日1000〜3000ライヒである。家を持つことができない冒険者は宿に入るしかなく、どうしてもその分お金がかかるのだ。


「だったらもうちょっと優しく扱ってきてよ…。ほらここ、葉っぱ潰れてるし。これじゃ薬師さんにこっちが文句言われちゃう。」


「アルラウネの根を探すのが大変なのは知ってるだろ? その分割増してくれよ。」


「うーん、どうしようかな…。」


 冒険者は高い依頼料が欲しい。ギルドとしては適正な依頼料を支払いたい。その間を上手く埋めるのが受付の腕の見せどころである。リーズにはまだ難しい。


「よしわかった!五百ライヒ追加でどうよ。」


 メイサがにこりと笑う。メイサの笑顔に釣られたのか、冒険者も苦笑して頷く。


「しょうがねえなあ。それで手を打つよ。ただ、また仕事回してくれよ。指名だともっといい。」


「それは私が決めることじゃないから。でも今回持ってきたのがガルさんだってことは伝えとくね。」


「ああ、頼むよ。」


 メイサが小さな袋に入れた依頼料と登録証をガルに渡す。ガルは小袋を大事そうに胸元に入れると依頼書を見ることなくにギルドを出て行った。


 入れ替わりに一人の男が入ってくる。イルだ。週に2、3日はやってくるのでリーズも顔と名前を覚えてしまった。思わずにこりとすると、壁の依頼を見るより前にリーズのところまでやってきた。


「やあ、リーズさん。俺あての指名依頼はあるかな。」


 イルは採集能力が高いのか、時々指名依頼が入る。そのせいか朝の混み合った時間には依頼を見にこないで、昼過ぎにくることが多い。物腰もやわらかいのでなんとなく仲良くなり、ちょっとした会話くらいはするようになっている。リーズは今日の指名依頼を確認してみたが、イルの名前はなかった。


「こんにちは、イルさん。今日はないみたいですよ。」

 イルは頭をかく。


「今日はないのかあ。残念。じゃあ、依頼を探すかな。」


「午後来た依頼の中にも採集依頼ありましたよ。イルさんならきっと大丈夫だと思います。」


「はは、ありがとう。探してみるよ。」


 手をひらひらとふりながらイルは依頼書を貼ってある壁にむかった。


「イルさんていつも午後来るよなあ。なんか余裕を感じる。」


 後ろにいるアンドルーがぼそっとつぶやく。


「指名依頼もあるし、安定してるんじゃない? 普通の依頼受けるのも、実入りの良しあしで選んでないし。」


「だよなあ。人気のない仕事も受けてくれるから助かる時あるよな。」


 依頼の中で人気があるのは、やはり討伐依頼である。なったばかりの冒険者が受けるのもたいていこれだ。討伐料とうまくいけば皮や肉などの素材を売ることもでき、実入りが期待できるからである。

 逆に採集依頼は敬遠されがちだ。採集するものを見分ける鑑定スキルが必須になるし、採集してきたものの品質が悪いと依頼料を下げられることがある。もちろん品質が良いものであれば依頼料も上がるが、その辺は腕が必要になってくるのだ。

 依頼を決めたのか、イルが二つばかり依頼書を持ってくる。


「この二つ、採集地が近いから一緒に受けてもいいかい?」


「そうですね。ちょっと聞いてみます。」


 基本的に依頼は一回につき一つだ。ただ、イルは今までも依頼を失敗したことはなかったし、言っていることももっともだ。リーズは立ち上がり、リーダーのところに行った。


「リーダー、イルさんがこの二つを一緒に受けてもいいかということなんですけど。」


 リーダーは読んでいた書類から顔を上げてイルをチラッと見た。その後依頼書をじっと見る。


「確かにどっちも花咲く丘で取れる素材ね。依頼料も少ないから二つ同時でいいところね。いいわよ。」


「わかりました。ありがとうございます。」


 戻ってイルにOKを伝えると、うれしそうに手続きをして帰っていった。


「『鑑定』スキル…上げたいなあ。」


 リーズの言葉にアンドルーがうなずく。


「できる仕事が増えるもんな。」


 人はそれぞれスキルというものを持っている。スキルには3つの種類があるらしい。生まれた赤ん坊が言葉を覚えていくように、経験して身についたものがスキルになる。これが自然習得スキル。仕事などのために、技術を磨いて身につける。これが技術スキル。そしてもう一つが相続スキル。親や師などから受け継ぐ形で身につける、あるいは生まれた時から持っている…と言われている。スキルの種類は無限とも言われているが、意外と生きていくために必要なスキルは限られてくる。スキルが目に見える形で知られるようになったのはまだ100年くらいなので、わからないことも多いのだ。


 『鑑定』スキルは、名前通りいろいろなものの状態を見ることができる技術スキルである。初期状態では自分が知っているものに関してしか発動しない。そのためまずは知っているものに対してひたすら『鑑定』を繰り返す。続けているとそのうちそのものの状態や品質が見えてくることがある。


 例えば「カミーレ草」を鑑定すると、「カミーレ草 品質レベル 3 特性 怪我に効果あり」といった感じだ。さらに『鑑定』を極めると、自分の知らないものや、スキルまでもが見えるようになるらしい。


 冒険者ギルドに就職する際に必要なスキルは習得方法を教えてもらえる。後はそれぞれで練習して習得する。早い話が努力しないといつまでも依頼受付にしかいられない。ギルドで働くのも楽ではないのだ。


「とりあえず薬草関係から極めようと思ってるんだけどね。少しは進んでるし。」


 リーズの言葉にアンドルーは腕を組んで頷く。


「依頼も多いしな。俺は食べ物関係だな。魔物の肉とか。」


「さ、さすが飯屋の息子だね…。今度どこにあるか教えてよ。食べに行くから。」


「来てくれるなら安くするよ。客はオヤジばっかりだけどな。」


 場所を聞くと、どうやら屋台が立ち並んでる一画にあるようだ。ペルーシャはともかく、アンネを誘っていいものか迷う。


「喋ってる暇があったらスキルの練習でもしなさい。」


 後ろから声が飛ぶ。振り向かなくても誰の声かは分かっていた。

 リーズとアンドルーは首をすくめると、鑑定練習用の素材を取り出した。


 練習あるのみだ。









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