(42)村長さんの村案内
アマトリーさんに塩をもらい、宿屋に戻って干物を作り終わったあたりで、村長のイグルーがやってきた。若い女性を1人連れている。女性は小さな子供を抱きかかえていた。
「やあ、リーズさん。宿の管理をしてくださる方を連れてきましたよ。ただちょっとばかり条件がありまして。」
イグルーの話を遮るように子連れの女性が口を開く。髪の色と同じ茶色の瞳は、真っ直ぐにリーズを見ていた。
「はじめまして。コルダと言います。この子も一緒に連れてきて構わないでしょうか。その条件でしたらぜひ働きたいです。お部屋にはこの子を入れませんから。」
コルダの腕に抱かれてすやすやと眠る子はまだ乳飲み子のようだ。この子がいては町に働きにいくことは難しいだろう。ここでの仕事は部屋の管理だけだから、子どもがいてもそんなに問題はない。リーズは頷いた。
「私は冒険者ギルドから派遣されたリーズと言います。危険だと思うものは触らないようにしてもらえれば大丈夫です。引き受けてくださってありがとうございます。」
「あ、ありがとうございます!」
コルダは子どもをぎゅっと抱きしめたまま、ぴょこんとお辞儀をする。
「決まって良かったな、コルダ。今日はどうする?簡単な説明だけ聞いて、明日から働くことにするか?コリンを抱いたままでは動けないだろう。」
「働かせていただけるなら、今日からでも。必要な物だけ取りに帰らせてもらえれば。」
今日はこの後イグルーに村の周りを案内してもらうことになっている。イグルーもそれを考えたのか、首を横に振った。
「いや、明日からにしよう。簡単に中を見てもらって、必要そうなものを確認して、ミルに頼んでおいて欲しい。リーズさんの使っている部屋だけは入らない方がいいだろうから、教えてもらうといい。そのうち冒険者の皆さんも泊まりに来るようになる。それまでに部屋の準備をしてもらえば大丈夫だ。受付の奥にある部屋はコルダが使うといい。」
「私も部屋を使わせてもらっていいんですか?」
「たくさん余ってますので、使いやすいように使ってください。物を置く場所も必要しょうし。今は特に何も置いていないので、中を好きに見てもらっていいですよ。私は2階の一番奥の部屋を使わせてもらってます。今のところベッドしかありませんので、一緒にいろいろ揃えてもらえると助かります。私はこれからイグルーさんに村の周りを案内してもらいますので。」
「分かりました。そしたら中を見せてもらいますね。」
コルダが宿の方に向かうのを見送ってからリーズはイグルーを見る。
「では、案内をお願いできますか?」
「ああ。村の周りを一巡りする感じでいいだろうか。」
「ええ。よろしくお願いします。」
リーズとイグルーはまずは村の入り口へと向かう。入り口からまっすぐに道が伸びている。これを真っ直ぐ行くと王都へつながる街道に出ることができる。
道の両端は見渡すかぎり短い丈の草が一面に生えた草原になっている。東の方はなだらかに登っていて、崖のようになっているようだ。
「広い草原ですね。ここで取れる薬草などはありますか?」
海沿いでしかとれない薬草もある。イグルーは首を
ひねった。
「さて。なにしろ薬草が分かる者が村にいないのです。昔は婆さまのやってる薬屋があったんですがね。跡継ぎもいなかったんで何年か前に亡くなってからそのままです。家は残っているので、何か資料があるかも知れませんな。」
薬屋がないのはかなり深刻だ。病気や怪我は生きていればつきものなのだから。
「病気や怪我の時はみなさんどうしてるんです?」
「時々行商人が来るので、そこで買うようにしています。大体10日に一度ほど。あとは今町に働きに行った者たちが必要な物を買ってきて賄っております。」
「じゃあ、薬がいつでも手に入るとかなり楽ですね。」
言いながらリーズはしゃがみ込み、生えている草を確認する。茎が捻れながらまっすぐ伸びている草がある。リーズはそっとその草を摘みとって鑑定する。
「これはトール草ですね。海沿いには良く生えている薬草です。熱を下げるのに使えます。」
「ほほう。」
イグルーも一緒になってしゃがみ込む。更に遠くの方に、横に広がったギザギザの葉が群生しているのが見えた。
「これはダンダ草ですね。解毒作用があります。」
「そういえば、薬屋にも熱さましと腹痛に効く薬が売ってました。婆さまこの辺で薬草をとっていたんですかねえ。」
「そうですね。かなり手を入れていたんだと思います。」
今は他の草もはびこってしまっているが、おそらく薬草以外は抜くなどして手入れをしていたのだろう。でなければこんなに群生しているとは思えない。リーズは立ち上がり手についた砂を払った。
「他にもありそうですが、時間のある時にゆっくり探してみます。他の場所もお願いできますか?」
「他の場所、と言われてもほとんどがこんな草原ですからねえ……。」
イグルーが困ったように呟く。村の周りの囲いは申し訳程度の木の柵だけだ。魔物や獣もあまり出ないのかもしれない。リーズは周りを見渡す。北の方角にある山をリーズは指さした。
「たとえば、あの山とかはここからどのくらいかかります?」
「そうですなあ。一日あれば行って帰ってこられると思いますよ。右の方に建物があるのがわかりますか?あそこがカーセルですよ。」
カーセルの方が山に近いのであれば、この村に来る意味はない。山での探索は少し考えた方がいいだろう。リーズは質問の方向を変えてみた。
「この辺に魔物が出るような場所はありますか?」
「海にはたくさんいますがね。ああ、そうそう。村の反対側は崖になってましてね。その下に洞窟があるのですよ。そこに魔物がいるとかいないとか。何しろ私たちは近寄りませんからな。」
「崖下ですか。海岸から歩いて行けますか?」
「少し歩きにくいですが、行けると思いますよ。」
薬草以外あまりにもなさすぎる。リーズは期待を込めてその洞窟に何かないか確かめることにした。
読んでくださりありがとうございます。
次回も一応日曜日更新予定ですが、早くなるかもしれません。
 




