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(37)目に見えぬもの(中)

 黒い扉の向こうは地下へと階段が伸びていた。何段か降りるとギギッと後ろで扉が閉じる。アイネはその音に振り向きかけたが、前を向いたまま階段を降り続けた。明かりがところどころにあって暗くはない。暗くはないのだが、昔聞いた怖い話をつい思い出してしまう。アイネは怖い話が大の苦手だった。


 そもそもカツンカツンと音はするし、階段しかない通路だし、後ろから何かに襲われても逃げ場所もない。今後ろで物音がしたら、駆け出してしまうかもしれない。


 だから、目の前に扉が見えた時にはホッとした。


「まさか、この扉を開けたら襲われる……なんてことはありませんわよね。」


 自分で言って後悔する。ここはギルドの中だ。幽霊屋敷でも廃墟でもない。そう自分に言い聞かせて扉を開けた。




 扉の向こうは妙に広くて明るい空間だった。真ん中に大きな机が一つ。壁際は棚が並んでおり、色々な道具が置いてある。黒くて長いコートのようなものを着た人物がこちらに背をむけて机に向かって何かをしている。


 声をかけるか肩を叩くか。考えてアイネは離れてできる方を選んだ。


「し、失礼いたしますわ。」


 広い空間に思ったよりも自分の声が響いてアイネはビクリとする。しかし、それよりも前にいた人物が大きく体を揺らし、そのまま尻もちをついた。


「きゃあああ!」


「だ、大丈夫ですの?」


 自分が怖がっていたことも忘れ、アイネが近づくと、その人物はアイネの方を振り向いた。よほど怖かったのか、青い瞳には少し涙が滲んでいる。黒い髪は短く整えられていて、後ろからでは男か女か分からないほどだ。


「すみません。作業に没頭していたら突然声が聞こえたので驚いて……。」


「ごめんなさい。ノックをすべきでしたわね。」

「いえ、ノックをしても聞こえなかったと思います。ここには基本的に1人しか入れないので。」


 彼女は立ち上がり、尻を軽くはたく。そのままアイネの方を向いた。


「それで貴方は……?」


「失礼。自己紹介がまだでしたわね。私はアイネ。魔力課職員です。こちらで魔力を吸い取る魔道具を作っている方がいるとガトーさんに聞いてお話を伺いに来ましたの。貴女のことでしょうか?」



「ガトーさん……。ああ、話は伺ってます。でもそれって明日のお話では……。」


 彼女は首を傾げていたが、はっと気づく。


「まさか、今は朝ですか?」


「え、ええ。まだ昼ではありません。」


 アイネの言葉に彼女は頭を抱える。


「またやってしまった……。ちょっと失礼します。」


 彼女は奥の棚へと向かう。そこに自分の身分証をかざし、何事かやっているようだったがしばらくして戻ってきた。何やらほっとした顔だ。


「失礼しました。日にちをまたいでしまうとここの施設を使えなくなってしまうんです。でも今朝ここに来たことにできたので、多分大丈夫です。」


 それは私が聞いても良かったことなのだろうか。アイネはそう思ったが沈黙を守った。


「ええっと。魔力を吸い取る魔道具についてでしたよね。」


「ええ。でもその前にお名前を伺っても……?」


 名乗るのを忘れていたことに初めて気付いたのか、彼女はうっすらとそばかすのある顔を赤らめた。


「す、すみません。リスタと言います。ここで魔道具の管理や研究をしています。」


 アイネはリスタにクーラン王国に入る方法を探していること、そしてその為には王国を取り巻いている魔力に影響されない方法を考えなければならないことを話した。


「今まで私は自分の体を魔力から守る方法を考えていたのです。ですけれど、魔力は目に見えず、守れているかも分からない。そんな中、魔力を吸い取る方法があるとお聞きして、ぜひその方法を教えていただきたいと思ったのです。」


「なるほど。魔力感知、それを数値化することができれば実験の効果も分かりやすくなる!これができえたら画期的だわ。でもどうやったら数値化できるかしら。何で数える?そんな単位は今までなかった。」


 アイネの話を何度も頷きながら聞いていたリスタは、何事か興奮した様子でつぶやいている。


「あ、あのリスタさん?」


 アイネの声かけにリスタははっとして顔をあげた。


「あ、すみません。アイネさんのお話は今まで私が考えていたものとは方向性が違うので、新しい研究方法を思いついてしまい……。私がなぜ魔力を吸い取る方法を考えていたのか、それをお話しますね。」


 リスタは部屋の一画にある鉢植えを取りに行く。その鉢植えには透明な蓋が被せられており、うっすらとピンクが混じった花が咲いていた。アイネはその花を見たことがあったが、アイネの記憶とは花の色が違う。


「この花をご存知ですか?」


「花びらの形はエマリアに似ていますが、色が違いますわよね。品種改良か何かですか?」


 エマリアはクーラン王国の国花だ。幼い頃、一面に咲いたエマリアを見に行ったことがあるのをおぼろげに覚えている。ただ、エマリアの花はかなり濃い紫色だったはずだ。人の手に触れられると花が枯れてしまうから触ってはいけないよ、と言われて残念に思ったのを覚えている。


「いえ、正真正銘エマリアです。実は最近エマリアには魔力を吸い取る力がある、ということを発見したんです。このケースは多少の魔力なら弾くようになっているんですが、これを取るとですね。」


 話しながらリスタは蓋を取る。するとエマリアの花びらはピンクから赤に変わる。


「色が変わった……。」


「ええ。アイネさん、花びらに触れていただけますか?」


「え?触れると枯れてしまうのでは?」


 驚いたようなアイネの声にリスタは目を丸くする。


「いえ、枯れることはありませんが……。確かにそう見えなくもないですね。触っていただければ分かります。」


 再度促され、アイネはそっと花びらに触れる。するとその花びらは黒く染まり、花からひらりと落ちた。


「まあ、黒に……。枯れたわけではありませんの?」


「花びらに魔力が溜まりすぎると、落ちるようになっているようです。」


「魔力が、溜まる?」


「ええ。エマリアは、魔力を吸い取る力を持っているのです。魔力を溜め込むほど花の色は変わる。そして黒になるとそれ以上は溜め込めなくなり、落ちる。このエマリアの力を使って魔力を吸い取る魔道具を作れないか、というのが私が今行っている研究なのです。」



 リスタは再びエマリアの鉢に蓋をする。


「問題はエマリアの吸い取る魔力があまり多くないこと。魔力が多いとすぐに黒くなって落ちてしまいます。試しの魔石も魔力を吸い取りますが、あれは魔力を持つ者が握るなどしないとなぜか魔力を吸収できません。」


「つまり、クーラン王国の魔力を薄めるのは難しいと。」



 アイネの言葉にリスタは頷く。


「ええ。ただ、エマリアが吸い取る魔力量を増やす方法を考えれば道は開けるのではないかと思います。それについては私も今研究中です。花びらを大量に集めるとか、乾燥させてみるとか、魔力を吸い取る成分だけを抽出してみるとか。ただ、どれも上手くいかなくて……。」


 しょんぼりうなだれるリスタに、アイネは気になっていたことを尋ねる。


「エマリアは吸い込んだ魔力を何に使っているのでしょう?」


「え?」


 意味が分からないという顔をするリスタにアイネは言葉を重ねる。


「植物が花を咲かせるのは、その後種を作るためですわよね?エマリアの種はどこに出来るのですか?」


「え、種、は見たことありません。花びらしか見てなくて……。」


 どうやらひとつの事が気になると他に目が行かなくなってしまうようだ。ふうっと息を吐くとアイネはにこりと笑う。


「ではまず種ができるかどうかを調べてみましょう。しばらく私も研究にご一緒させていただいてもよろしいですか?」


「は、はい。ただ、課長の許可がいるかと。」


「それは私がなんとかいたしますわ。」


 おそらく許可は出るだろう。エマリアの花についてもギルド本部で調べてみよう。


 一歩何かが進んだような気がした。

読んで下さりありがとうございます。

次回も日曜日更新予定です。

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