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(33)薬の効果的な使い方〜ペルーシャの夢〜(上)

「中級ポーションが352本、毒消しが500本…。」


薬品の在庫数が書かれた紙を持って、薬品倉庫を見回るのは、ペルーシャの日課である。もともと救護課は医学や回復魔法を使える者が多く集まるため、薬を主に扱える人がいなかった。そこに薬に詳しいペルーシャがいれば、その仕事が回ってくるのはある程度仕方ないだろう。採用されてまだ1年だが、薬品倉庫の責任者に抜擢され、今に至る。


ペルーシャにとっても自分の知識を活かせるので、願ったり叶ったりである。最近はポーションだけでなく、色々な薬が必要だ、ということが少しずつ理解されてきているため、薬の種類も増やすことができている。


「…っと。『傷治し』が少なくなってるな。また発注書を作らないと。」


『傷治し』は最近開発された便利な薬である。布に薬が塗ってあり、その薬の部分を傷口に押し当てておくと傷が短い期間で治るのだ。小さい布なので瓶よりも運びやすく、値段も安価なため、冒険者だけでなくご家庭にも大人気である。同じように布に薬を浸すことで他の薬も持ち運びを楽にできないか、というのが最近のペルーシャの研究課題だ。


ペルーシャが発注書を書こうと倉庫を出ようとした時だった。バタバタバタっとギルド職員が倉庫への階段を降りてくる音がした。ここにはペルーシャしかいない。何かやらかしたか行き忘れた会議があっただろうか。ペルーシャが考えているとバタンと扉が開く。メガネをかけた細身の男が息を切らせながらペルーシャを見る。見たことのない男だ。


「何かあったの?」


男は必死で息を整え、切れ切れに話はじめた。


「ギ、ギルド諜報課より、連絡です。シクル村に、魔物の襲来あり。至急、薬品を届けたいのですすが、在庫はありますか?」


シクル村は、王都から馬車で北に3日ほどかかる場所にある小さな村である。リーズが進言したことで、ギルドは現在いくつかの地域ごとにギルド員を駐在させ、冒険者への依頼を取りまとめるという新しいシステムを試験的に始めていた。


今までであれば、襲来があって3日経って始めて連絡がくる、というように、タイムラグが大きかった。これが駐在していることで魔物の襲来と同時、あるいは事前に察知することでタイムラグが半減される。特に怪我の治療などは早ければ早いほどいい。ペルーシャは大きく頷いた。


「あるよ。どのくらい必要なんだい?」


規模によって持っていく薬品の量も変わってくる。とりあえずの数を聞いたが、メガネの男は首をひねった。


「さあ…。とりあえず救護課からは薬品と回復魔術士を至急送るようにと。」


「被害がどのくらいかわからないのに適当に薬を持っていけと…。」


一瞬頭を抱えたくなったが、システム自体がまた未熟なのだから仕方ないし、魔物が来る前に知らせが来てることだってあるかもしれないと思い直す。今後の対応を考えるにも良い機会だ。王都に襲撃があった時を想定した薬品一覧があったはずだ。その薬品をとりあえずは持っていくことにして、ペルーシャはメガネの男を見た。


「分かった。薬は準備する。その代わりボクも一緒に行くから。あ、馬に乗っていくからそれだけ準備

して。荷物は後で馬車で運んで!」


「ええ?」


「薬を渡すにも知識がある人がいないと困るだろ?ギルド長にもそう伝えて。次の鐘には出発できるように準備するから。」


それだけいうと、返事も聞かずにペルーシャは倉庫の奥にむかって駆けだした。





馬車なら3日はかかるが、馬を飛ばせば2日で済む。ペルーシャは自分で持てるだけの薬品を持って、シクル村へと向かっていた。1人ではなく何人かの冒険者と一緒である。その中には以前盗賊退治で一緒だったイルの姿もあった。彼ならかなり強いから安心だ。

偵察は任せ、ペルーシャは少し後方を進む。村が近くなり周りを見渡すが、街道とその周りの草原には魔物の襲来を思わせるような痕もない。


「一体どこからわいてきたんだろ…。」


魔物は、魔力が溜まったところから湧き出してくる、と言われている。魔力が溜まりやすいのは、洞窟、沼や池、人の手の入っていない森などである。冒険者がそこで魔物の討伐をする、あるいは森に手を入れることで、魔物の襲来は防げる。


今魔物が多いのはクーラン王国に面している海の周りだ。クーラン王国の中を暴走している魔力は、王国を囲む海の中に魔物を生み出している。そのため海の中は魔物が多すぎて、船が通ることすらできなない。


しかし、シクル村は海沿いではなく、むしろ王都よりも海から遠ざかる位置だ。この辺に洞窟はあっただろうか、とペルーシャは首をひねる。



「この辺には危険な地区はなかったはずんなんですよねえ。あるとすれば、魔道具の暴走ですかね。」


ペルーシャの様子に気づいたのか、イルがペルーシャの隣に並んで話しかけてくる。


「時々あるよね、古い魔道具の暴走。」


魔道具は魔力が少ない人でも使える便利な道具が多い。魔石を入れるだけで人よりも大きな力を出すことができるので、小さい村でも大抵ある。農作業用の魔道具を村で購入し、皆で使うのだ。


ただ、調子が悪くなったものをそのまま放置していると、稀に暴走する。周りの魔力を吸い込み出し、魔物を引き寄せ、生み出すことがあるのだ。力の強い魔道具ほど危険がある。


「まあ、村にある魔道具じゃ、それほど危険な魔物は出てこないかな。」


「ですねえ。その方向に期待しましょう。」


話しているうちに、前方に何やら黒いもやが見えてきた。


偵察のためかなり先に進んでいた冒険者が馬を飛ばしてこちらに戻ってくる。


「村にいる魔物を確認!屍食鬼です!」


「屍食鬼?また面倒な…。」


イルが思わず声を出す。

屍食鬼は毒を出す。その毒に触れたものは屍食鬼になってしまう。感染してから屍食鬼になるまでの時間は約二日。村人が襲われているなら、そのまま屍食鬼になってしまう可能性がある。


「急ごう!」


ペルーシャ達は馬に鞭を入れ、一気に速度を上げた。

読んでくださりありがとうございます。

次回も日曜日投稿予定です。

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