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(31)見習い卒業~アリサ(中)

「ランクアップ研修?」


 アリサが昼過ぎに冒険者ギルドに顔を出すと、今日も働いていたリーズに話があると声をかけられ、奥に通された。エドワルドのことかと身構えていると、聞いたことのない言葉が飛び出してきた。


「アリサさんは見習いであるGランクを卒業しましたので、一人で依頼を受けられるようになります。ただ、ここでやっと一人で受けられる、とソロで飛び出して怪我をする方が多いんです。」


 何かを思い出したのか眉をひそめた顔のリーズを見ながら、アリサは頷く。アリサ一人では依頼を受けられる自信はない。が、ある程度強くなっていれば自分の力を試したいと思ってしまう人も多いのだろう。


「なので、同じFランクの方同士で組んでもらって、ギルドからの依頼を受けていただきます。それで依頼が達成できれば、正式にFランク冒険者として認定されます。」


「達成できないとどうなるんですか?」


 アリサが念のため聞いた質問は、にっこりとした笑顔だけしか返ってこなかった。達成できるまでひたすら研修を受けるのか、冒険者をやめるよう言われるのか。どちらにせよあまり良い方向にはいかないだろう。受けるしかない、とアリサは腹をくくった。


「分かりました。それ、受けます。どうしたらいいですか?」


 リーズは一枚の依頼書を差し出す。アリサはそれを受け取り中身を確認する。


「マルグの洞窟でのヤミタケ採取ですか。行ったことがない場所です…。」


 アリサはほとんど森での依頼しか受けていなかった。洞窟、というからには暗い場所なのだろう。明りになる何かを用意しないといけない。迷ったりしないために必要なものはなんだろう? 知らないことが多いことに、アリサは今更ながら愕然とした。


「ええ。色々な場所に対応できるように、というのも今回の目的です。マルグの洞窟は王都を出て北側、マルグ山のふもとにある小さな洞窟です。そうですね、歩いて鐘2つといったところでしょうか。あまり強い魔物もいないので、Fランク対象ですが、最近ゴブリンが中に住み着いているという噂もあります。危険だと思ったら無理せず戻ってきてください。」


「ゴブリンですか…。」


 アリサはゴブリンも見たことがなかった。人のような姿をしているが、人よりも小さく、ひっそりと暮らしているとは聞いている。それでも人と鉢合わせると襲ってくるので、討伐対象になっているのは知っていた。集団で襲ってきたりするのだろうか。


「場合によっては野営になりますので、野営の準備もお願いします。出発は明日の朝になります。」


「はい。って明日?」


 あまりにもさらりと言われたのでそのまま通り過ぎてしまうところだった。今日聞いて明日、とはずいぶん早い。


「あの、一緒に行く人たちとはいく前に顔合わせとかしないんですか?」


「しないです。明日会ってからおいおい自己紹介してください。急に魔物が襲ってきたとき、事前に挨拶とかします?しませんよね?護衛任務でも同じです。」


 見習いを卒業したとたん、なんだか状況が厳しくなってきたのは気のせいだろうか。アリサは不安を抱えながら、明日に向けての支度をするためにギルドを離れた。



「…って、こんな感じでいいですかね?エドワルドさん。」


 アリサが帰ったのを見計らってリーズは隣の部屋にいたエドワルドに声をかける。エドワルドは鳶色の瞳をまっすぐリーズに向ける。


「ああ。すまないな。わがままを言って。」


 ギルドにランクアップ研修という制度があるというのは嘘である。エドワルドから相談をうけたシェリルとリーズが試しにやってみようとでっちあげたものだ。もちろん成果が出れば、他の冒険者にも適用するつもりである。ギルド長の許可も出た。


「いえいえ。アリサさんにも話しましたけど、Fランクに上がったばかりでの事故は本当に多いんです。その原因がほとんど『油断』なんですよね。今まで守られていたから、そのことにすっかり慣れて、周りを見るのを忘れていた、このくらいなら大丈夫だろうと思った…。そんな話ばっかりです。まあ、痛い目を見た人はそのあと慎重になるので、軽いけがならむしろ授業料くらいですむんですけど。」


「薬がききすぎてそこで引退されても困るからな。ところでアリサと一緒に行くメンバーは一体…。」


 なんだかんだ言ってもエドワルドはアリサが心配なのだ。訓練場でもアリサに声をかけようとする男たちには睨みをきかせていた。おかげでアリサに冒険者の友達はいまだにいない。


「13歳はさすがにいないので、17歳くらいのFランクなりたての人2人です。男性と女性と一人ずついますので、大丈夫ですよ。なんならついていきますか?」


 からかうようにリーズがいうと、エドワルドは考えはじめる。


「探査スキルを上げておくべきだったか…。俺の尾行じゃ気が付かれてしまいそうな気がする。」


「本当についていく気だったんですね…。」


 そもそも冒険者には危険がつきものではないか。呆れたようなリーズの言葉に、エドワルドは苦笑する。


「そりゃ、お父さんからも頼まれてるし、大きな怪我はしてほしくないしね。でも、『かわいい子には旅をさせよ』っていうし。ちょっと離れた場所から見守ることにするよ。」


 やっぱり行くのかと思ったが、リーズはもう何も言わなかった。もともとこっそりリーズも行くはずだったので、任せてしまった方がいいだろう。


「明日の朝には王都を出ますので、先回りしてはどうですか?」


「そうだな。危険な場所がないかチェックをしておこう。」


 立ち上がって出ていくエドワルドを見送って、リーズは大きくため息をついた。


「過保護にもほどがある…。」


遅くなって申し訳ありません。

読んでくださりありがとうございます。

エドワルドが過保護に暴走してしまいました。なぜだ。

しばらく週一更新になるかとおもいます。よろしくお願いいたします。


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