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(30)見習い卒業〜アリサ〜(上)

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。


アリサが冒険者になって、半年がたった。父親のマテウスも怪我が治り、仕事に復帰している。エドワルドとアリサのパーティーも順調に仕事をこなしていた。アリサの取る糸は品質がいいと指名依頼も増えた。ローズスパーダー以外の糸も採取できないかと相談されるほどだ。


今日も森の奥でいつものようにローズスパーダーから糸をするすると取って、最後に止めをさす。


「よし、これで10巻なので終わりです…あれ?」


振り向くとエドワルドがいない。少し離れた場所で剣戟が聞こえた。そっと近づくと、エドワルドが大きな熊と戦っているのが見えた。ハニーベアだ。この森には大型の魔物はでないが、その代わり大きな獣は住み着いている。基本的に人は襲わないが、鉢合わせしてしまったのかもしれない。急いでアリサはエドワルドの所に向かった。


「気がつかなくてすみません!」


言うなりアリサはロージーの糸を飛ばす。糸の操り方もすっかり慣れた。最初は声に出して指示を出さないと通じなかったが、今はちょっとしたアリサの動きに反応して動いてくれる。糸はエドワルドに向けて振り上げられたハニーベアの右前足にくるりと絡み、さらに右へと引っ張った。不意をつかれ、右前足が大木にぶつかる。木がミリミリと音をたてた。


「グオオ!」


ハニーベアも声をあげ、アリサの方に敵意のこもった目を向けるが、その時にはエドワルドの剣がハニーベアの心臓に突き立っていた。ドサリとハニーベアが倒れる。生きていないことを確認してからエドワルドは剣を抜き、血を拭ってから剣をしまった。


「周りの様子にもう少し気を配ったほうがいいな。」


「はい。でもエドワルドさんがいるから大丈夫かなって。頼りになる人と組めて嬉しいです。パーティーっていいですね!」


エドワルドは嬉しそうなアリサの様子をしばらく見てからついと視線を外した。


「…そうか。さて、糸取りも終わったようだし、こいつを解体して帰るか。美味い肉をお父さんに持って帰ってあげるとするか。」


アリサの家では食べきれないほどの肉が取れるが、ハニーベアの肉は美味しいので良い値段で売れる。アリサは大きく頷いた。


「はい!」


エドワルドが小さくため息をついたことに、アリサは全く気づかなかった。



「おめでとうございます。これで昇格です。」


糸の納品をしに行くと、受付にいるリーズさんがにっこりしながらそう告げた。リーズさんも依頼受付がほとんどだったけれど、時々依頼終了受付を任されていることがある。隣に見ている人がいるので研修というやつかもしれない。


「本当ですか?ありがとうございます。」


返された登録証は今までの白い色から黄色に変化していた。Fランクの色だ。


「もう半年か。早かったな。」


エドワルドの言葉に嬉しく思いながらも少し不安が胸をよぎる。


エドワルドとのパーティーは、初心者のアリサを気遣ってものだった。半年経ち、Gランクを卒業したということは、もうギルドからの要請はなくなるだろう。それでもエドワルドは自分とパーティーを組んでくれるだろうか。アリサとしてはこのまま

ずっと組んでいたかった。


「さて、じゃあこっちは採取品買取に持ってくか。」


必要な部位ごとに解体したハニーベアをエドワルドは採取品買取受付に持っていく。


「お、ハニーベアの肉か。それ、職員価格で買い取れ…いてえ!」


目ざとく見つけた受付の男の人が声をかけてきたが、リーズに頭を叩かれる。


「今言うことじゃないでしょ!」


「いや、だってさ…。」


「だってじゃない!今仕事中!」


リーズさんも仕事を頑張っているようだ。さっきの不安も忘れ、アリサはエドワルドの後ろについていった。


エドワルドと冒険の後は、決まって家で父親と飲み会になる。むしろそれを楽しみにしているようで、アリサがでかけると知ると、いそいそと酒を準備していた。


ハニーベアの肉に軽く塩をふり、その後表面を焼いてからじっくりと中まで火を通し、野菜と強い酒でで作ったソースを絡める。受付にいたお兄さんがこっそり教えてくれたレシピだ。


「いやあ、これは美味いな。アリサもこんな大きな獲物を取れるようになったんだなあ。」


舌鼓をうちながらマテウスが話すと、アリサは首を振る。


「エドワルドさんがいたから倒せたんだよ。私1人じゃまだ無理だと思う。」


自信のなさげなアリサの様子に、マテウスは首をかしげる。


「でもランクアップもしたんだろう?アリサの実力が認められたってことじゃないか。」


「そうなんだけど、1人だとまだ不安で…。」


言いながらアリサはチラリとエドワルドを見やる。いつもはもっとしゃべるエドワルドが今日は寡黙だった。そんな様子にマテウスも気づくと、思い出した

というように手をうつ。


「そうそう!お酒が足りなくてね。注文していたのを取りに行くのを忘れてたよ。アリサ、すまないがローグさんとこに行って、取ってきてくれないか?」


「ええ?今からなの?」


「エドワルドに飲んで欲しいお酒があってね。俺の名前を出せば分かるから。頼んだよ。」


ローグさんは居酒屋を営んでいるが、美味しい酒の販売もしてくれる。父親はいつもそこで酒を買っていた。


エドワルドの様子も気になるが、父親の頼みも断れない。アリサはしぶしぶ席を立った。



「父さん、お酒もらってきたよ…ってあれ?エドワルドさんは?」


家に帰るとエドワルドの姿はなく、父親が1人で肉を肴に酒を飲んでいた。


「ああ、今日は疲れたってさっき帰ったよ。悪かったな。せっかく取りに行ってもらったのに。」


「そうなんだ…。」


アリサは父親の隣に座る。もらってきたお酒をトンと机の上に置いた。


「はい、これ。」


「ああ、ありがとう。」


父親は何かを考えながらお酒をちびりちびりと飲んでいる。いつもよりピッチが速いように感じて、アリサが声をかけようとしたときだった。


「…アリサ。依頼で魔物を倒すのは怖いかい?」


不意の父親からの問いに、アリサは戸惑う。でもアリサに向けた視線は真剣だった。ひょっとして冒険者をやめた方がいいと思われているのだろうか。アリサは正直に考えていることを話す。


「最初はものすごく怖かった。最近は慣れてきたからそれほどじゃない。エドワルドさんもいるし。2人でいれば、ハニーベアも倒せる。だからできればずっとエドワルドさんと組みたいなって思ってる。」


「…そうか。」


アリサの父親はそれだけ言って、グラスの酒をまた飲んだ。飲みながら顔をしかめるのを見て、アリサは心配になってきた。


「お父さん、今日ちょっと飲み過ぎじゃないの?大丈夫?」


アリサの言葉に、マテウスは表情を緩める。グラスを机の上に置いた。


「ああ。これでおしまいにしておこう。明日も仕事だしな。アリサは明日は休みかい?」


依頼品は今日全部出してきたので、とりあえず仕事はない。かといって家にずっといるのも退屈だ。


「仕事はないけど、ギルドに顔を出してくる。新しい依頼が入っているかもしれないから。」


「そうだな。今日は疲れているだろうから、おやすみ。片付けは俺がしておくから。」


「はい…おやすみなさい。」


マテウスは飲んでいたグラスやお皿を台所に運んでいく。その背中がなんだか少し落ち込んでいるように見えた。





読んでいただきありがとうございます。

途中から出番が少なくなってしまったアリサとエドワルドです。本当はもっと出番が多かったはずなのですが、他のキャラの出たい要求に負けてしまいました。

次は土曜の予定ですが、少し間隔が空いてしまうかもしれません。それでも長くお付き合いいただけたらと思います。


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