(27)自白
ギルドに行ってシェリルに報告をし、アリサのお父さんにも念の為来てもらったほうがいいだろうと言うことで、アリサの家に行き、マテウスさんを連れて騎士団本部にリーズがついたのは、日もとっぷりと暮れた頃だった。
「冒険者ギルドのリーズです。盗賊の件で伺いました。」
リーズが受付で声をかけると、すぐに別の部屋に通される。
広い部屋だった。真ん中に捕まった貴族達と、ネメス、リゲルが縛られたまま座らされている。周りを取り囲むように、冒険者ギルドのメンバー、そして前には騎士団の鎧を着た男が3人立っていた。
「…だから、ギルドの勘違いだ。我々は盗賊などやっていない。そもそも証拠もないじゃないか。」
「証拠ならさっき見せたじゃないですか。この石はホアルさんのものでしょう?」
「その死んだギルドの男が、どこかで拾って持っていただけかもしれん。それでは我々がやったということにはならないではないか。」
どうやら往生際悪く、自分達は無実だと言い張っているようだ。騎士団の1人が口を開く。
「実は盗賊に手引きをしている人間がいるということで、そちらのアガートさんから騎士団に密告があったのだが。なぜそのことを知っていたのか教えてもらおうか。」
アガートと呼ばれた男はビクリとして騎士団の男の方を見る。4人の中ではやせてひょろっとした男だ。
「そ、その、酒場でその男が他の男と話をしているのを聞いたのだ。隣町に行く商人の名前と日付を教えていた。そうだ、金のようなものももらっていた。」
「なるほど。では、その男の名前をどこで知ったのですかな?」
密告があった時は貴族という身分もあって、あまり根掘り葉掘り聞くのをためらっていたのだろう。しかし、今はただの冒険者である。次から次へと質問が飛び出してくる。
「話の中で名前を言っていたのを覚えていただけだ。それ以上のことは知らない!」
追及から逃れるように、大きな声で答えて横を向くアガートを冷ややかな目で眺めたあと、騎士団の男はマテウスさんの方を向く。
そうですか。ではネメシスさんにも聞いてみましょうか。」
騎士団の男の声に、男達ははっと顔をあげ、初めてマテウスがいることに気づいた。
「そ、そうだ、この男だ!この男が盗賊の一味なんだ!我々ではない!」
「…この男達がそのように言っていますが、どうですか?」
マテウスは首を横にふる。そしてリーズと打ち合わせた通りに話をする。
「そもそも私は酒をのみませんから酒場にはいきません。娘もいますから。でもこの男達のことは知っています。私のことを街道で襲ってきたのはこの人達です。馬に乗って、5人でした。」
男達の顔が真っ赤になる。
「でたらめを言うな!顔なんて見えなかったはずだ!」
「ええ、変な仮面をかぶっていましたからね。でもなぜそのことを皆さんは知っているんです?」
「…!!」
反論の言葉もなく黙り込んでしまったところで、マテウスさんはネメスの方を見る。
「あなたのことは店でも見かけました。弓で私の馬を射たのもあなたでしたね?あなたは仮面をかぶっていなかった。」
「ええ。その通りです。私は隊商の勧誘をしながら、隊商に加わらなかった商人が街から出る日をこの人達に教えていました。」
ネメスは無実だと言い張ることもせず、事実を認めた。
「そもそも私が隊商の護衛を募ることを思いついたのです。隊商を組む手数料を少しいただいて、この人たちの使えるお金にする。それが私の最初の目的でした。最初は上手くいっていました。でも、盗賊が出ないから、という理由で隊商を断る人が増えてきて、それなら盗賊に襲われたらいいんじゃないかと…。」
「お前は余計なことをしゃべるんじゃない!ここまで誰が養ってきたと…!」
貴族達が縛られたままネメスに近づこうとするので、ペルーシャがずるずるとロープを引っ張る。
「静かにしてなさい。」
カルダンが貴族達の頭を剣の鞘でペシペシ叩くと男達は黙った。痛かったようだ。
ネメスは少し間を置いてまた話をはじめる。
「脅かすだけだと思っていたのです。馬車にむかって弓を射かけるだけ…そのまま逃げてくれればと思った。でも、馬に当たってしまって。馬車が横転して、近くに行ったら皆気絶していて。積荷がたくさんあるのを見て、それを売れば金になると…。馬車から運び出そうとしていたら、気づいた商人が騒ぎはじめたんです。そしたらこ、殺してしまえって。積荷は隣町で売り払いました。それからは、隊商に加わらなかった商人を教えろ、と。それから、リゲルは、この仕事には手を貸していません。」
ネメスの話を聞いて、騎士団の男がまた男達の方を見る。
「まだ、言いたいことはあるか。」
男達は諦めたのか黙り込んでしまった。騎士団の男は、自分の隣にいる、一番身分が上そうな、真ん中に立っている男をちらりと見る。視線を感じ取ったのか、男が口を開いた。
「どうやらこの冒険者どもが盗賊だったことは間違いのないようだ。しかし、冒険者はこの国の者ではない。冒険者ギルドでしかるべき措置を取っていただきたいと思うがどうか。」
リッテルが男の方を向いて頭を下げる。
「こちらの冒険者がご迷惑をおかけし、申し訳ありません。この4人については、こちらでしっかりと処分をしたいと思います。ただ、ネメス、リゲル両名はサイラスの市民であります。2名の処分についてはお願いしてもよろしいでしょうか。」
「もちろんだ。盗賊捕縛については、騎士団から通知を出す。これで商人達も安心して他の街へと行けるだろう。…マテウス殿、疑いをかけて申し訳なかった。騎士団を代表して、このロイドが謝罪する。」
ロイドが頭を下げると、両隣の騎士団の男達も頭を下げる。
「頭を上げてください。別に何もされていないので大丈夫です。ただ、私を庇ったアイネさんは悪くありませんので、そこだけなんとかしていただければ…。」
ロイドは重々しく頷く。
「アイネ殿に危害を加える気はない。私からも書状を出そう。では、この2人の身柄は預かっていこう。」
ネメスとリゲルは、騎士団の男達に連れられて、奥の扉から出て行った。それを見送った後、リッテルは皆の方を振り返る。
「それじゃ俺たちもギルドに帰るか。…お前ら、自分で歩くか、引きずられるか、好きな方を選びな。」
男達はペルーシャがロープを握ったままなのを見て、しぶしぶ立ち上がった。
「リーズはマテウスさんを家まで送って、アイネも連れてギルドに戻ってこい。エドワルドだけは念の為残せ。いいな?」
「分かりました。」
今日はなんだか走り回ってばかりだ。そう思いながら、リーズはマテウスと一緒に騎士団本部を出た。話を聞いたらアリサも喜ぶだろう。
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