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(25)貴族とギルドの闇のつながり

「盗賊退治?盗賊は貴様らだろう!」


状況が掴めず固まってしまったネメスではなく、縛られている貴族が声をあげる。身動きできない状態で、まったく説得力はないが、ネメスはゆるゆると弓を構え直そうとする。


「今更この人たちに義理立てしてどうします?さらに罪が加わるだけですよ。」


イルの言葉にネメスはまた動けなくなる。


「貴族を冒険者ギルドが捕まえるなんてできるわけないだろう。貴様ら、王都に戻ったらすぐに騎士団に引き渡してやる。」

「ふふん。そしたらギルドをクビになるのは間違いないな。その時は私の下僕として買ってやろう。」

「…よく回る舌だね。ボクはおしゃべりな男は嫌いなんだ。動かないようにしてもいいかな?」


ペルーシャが懐から何かが入った袋を取り出すと、男達は黙り込んだ。ペルーシャの薬の怖さが身に沁みたらしい。血走った眼だけでネメスに助けろと合図を送っている。ネメスは迷った挙句弓を下ろした。リーズが近づくと、弓をリーズに預け、座り込む。イルが一歩進み出た。手にはあの赤い輝石をもっている。


「さて、これでお話ができそうだ。ホアルさん、アガートさん、ルオーさん、バダンさんでしたかね。落とし物には気をつけたほうが良いですよ。」


名前を呼ばれて男達はギョッとした顔でイルを見上げる。縛られている男が1人、掠れた声をあげた。赤い輝石をじっと見ている。


「ど、どこでそれを…。」


彼がホアルなのだろう。イルはその石の彼の目の前に持っていく。


「この前貴方達に殺された冒険者が握りしめていましたよ。1人名前が分かれば残りはすぐに分かりました。なにしろ、酒場であなた達のことを知らない人はいなかった。わざわざ家の名前をだしてツケにしていては、ね。」


イルはやれやれというように首をふる。


「王都でもやりたい放題だったらしいじゃないですか。騎士団に引き渡しますので、しっかり自分達のしたことを反省してくださいね。」


「…いいだろう。しかし、貴様達も侮辱罪で訴えさせてもらう。ただで済むと思うなよ?」


憎々しく言い放ち、男達はこちらを睨む。今までも似たようなことはあったのだろう。でも同じように言っては罪を逃れてきたに違いない。黙ってしまったイルを見て、男達はニヤニヤとしはじめる。ペルーシャではないが、何か投げつけてやりたくなるな、とリーズがおもったときだった。


「うん。貴族だったら大変だけどね。でも君たち、もう貴族じゃないから。」


今まで会話にも加わらず、剣を振り回して遊んでいたカルダンがふいっと振り返る。目は楽しい遊びを見つけた子供のようにキラキラとしている。イルが実は調査部の人間だったということは、シェリルさんから聞いていた。彼も同じ部署の人なのかどうなのかは聞いていなかった。一体何者なんだろうか。


「…どういうことだ?」


「なに、君たちの家に行ってちょっと相談してきたんだよ。息子さん達が盗賊まがいのことをしている。このままだと家名に傷がつくから、冒険者ギルドに任せてみませんかって。一も二もなく賛成してくれてね。君たちは冒険者になりました!よろしくね?」


カルダンは懐から書類を取り出した。


「縛られてるから、近くで見せてあげるね。ほーら、契約書だよ。」


男達はカルダンが目の前に差し出した書類を穴が開くほど見ている。イルがリーズの横まで下がってきたので、リーズは疑問に思ったことをこっそり尋ねた。


「あの、冒険者になるのって、本人の承諾なしでもできるんですか?」


ギルドの受付では、本人でないと冒険者登録ができないことになっている。例えば商人であれば、冒険者になった時点で店の所有権を失ってしまう。そうやって営業妨害を仕掛けようとすればできなくはないからである。イルはうんうんと頷いて口を開く。


「ああ、貴族は特別にそういう枠があるのですよ。昔から悪いことをする奴はどうしてもいますのでね。そういう時に冒険者ギルドで預かることで、うちの家とは関係ありません、と言い張れるわけです。ギルドとしても、貸しは多いほど何かあった時に助かりますからねえ。」


「なるほど…。」


王都で冒険者ギルドがずっと存在し続けられていたのにもそれ相応の理由があったということか。

穴が開くほど睨んだ書類におかしなところを見つけられなかったのか、血走った目でカルダンを見据える。


「くそ…。親父め俺を売りやがったのか。でも冒険者は自分で辞められるはずだ。王都に戻ったらすぐにやめてやるさ!」


「そう?じゃあ冒険者ギルドで肩代わりした借金を返してもらわないとなあ。大体1人100万ライヒはあるね。それに、今までの盗賊騒ぎの責任も取ってもらうから、その分の賠償金も必要だし。耳を揃えて返してもらおうかなあ?」


「なっ…。」


「悪役を楽しみすぎだ、あの馬鹿は。」


カルダンの言葉を聞いて、イルが珍しく乱暴な口調になった。そのままカルダンのところに行って頭をはたく。


「痛って!何するんだよう、イルは。」


大して痛くはないように見えるが、わざと頭をさすってみせるカルダンにイルは冷たく言い放つ。


「やりすぎですよ。払えないのは分かりきっているんですから。騎士団に捕まるにせよ、ギルドで拘束されるにせよ、収容所行きしか彼らの道はないんですよ。さあ、もう帰りましょう。この男達はまた馬車に放り込めばいい。」


「イルの言葉の方がストレートすぎると思うんだがなあ。」


ぼやくカルダンのいう通り、イルの言葉を聞いて、男達はもはや反論をする気もなくなってしまったらしい。


「あ、あの、私はどうすれば。」


後ろから声がする。ネメスのことをすっかり忘れていた。展開についていけないと彼の顔に書いてある。

彼も望んでいなかったとはいえ、盗賊に加担していたのは間違いない。それを考えるとこのまま何もなし、とは言えないのだ。カルダンが口を開きかけた時だった。ペルーシャがはっとしたように声をかける。


「御者はどこだ?さっき振り落とされていただろう?」


そういえば、馬を射られた時に馬車から放り出されていた。ペルーシャの言葉にリーズも御者が飛ばされた方向を見る。地面の上に黒い塊のように最初は見えていたと思ったが、今はいない。


ペルーシャが馬車に向かって駆け出した。リーズも一拍遅れて駆け出す。馬車の近くまで先にたどり着いたペルーシャを、陰から出てきた太い腕がグイッと引き寄せた。





またも遅くなりました。金曜日更新ではなく土曜日更新に変えたいと思います。

読んでくださりありがとうございます。

次は火曜日更新です。

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