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(24)盗賊退治です。

 王都から馬で鐘半分くらい走ったころだろうか。前に一台の馬車が見えてきた。馬車はまるで何かから逃げるかのようにスピードを出して走っていたので、王都から出る頃はたくさんあった馬車もほとんどいなくなっている。手綱を引いて速度を落とすと、リーズはネメスを振り返った。ネメスは一番後ろからついてきている。


 今日の作戦を頭の前でもう一度確認する。ネメスの言うとおり、馬車を止める。中に乗っているのはホアル達4名。護衛が見つからなかったので、隊商を組むのは諦めたようだ。彼らと戦闘になるのは分かっていたが、条件があった。


「彼らを生かして捕らえてちょうだい。多少の怪我はしかたないけれど。」


 シェリルの言葉には逆らえないが、向こうはこっちを倒す気でいる。ペルーシャから、いざと言うときの道具はもらっているが、警戒しておかないとこちらがやられてしまう。リーズは自分があまり強くないことは知っているので無理はできない。さらに、ネメスの背中には弓があった。おそらくいつも馬を射ていたのはネメスだ。戦っている間に背中から襲われるのもごめん被りたかった。


「あれ、王都で見た馬車だよな?」

 リーズの問いに、ネメスが頷く。

「ええ。もう少し行くと片方が川、急斜面になっている道になります。そこで馬車を止めましょう。」

「それなら二手に分かれますかね。私とカルダンが前、エラシオさんとペルーシャさんが後ろでどうです?」

 イルの作戦を確認すると、リーズは探査スキルを使う。馬車の中にいるのは4人。あとは御者だ。

「馬車の中には4人だけ。」

「了解。」

 リーズの言葉を聞いて、イル達は馬の腹を蹴って速度を上げる。土煙を上げながらあっという間に馬車を追い抜き、見えなくなった。あまり馬車に近づきすぎないよう、逆にリーズ達は馬のスピードを緩めた。

「それにしてもペルーシャも乗馬ができるとは思わなかった。」

 あの後依頼課のメンバーで馬に乗れる人を募集したのだが、全員乗れないことが判明した。困っていたところにひょっこり顔を出したのがペルーシャだ。

「え?馬?乗れるけど。」

 念の為聞いてみたリーズの言葉にあっさり頷いたペルーシャは、そのままシェリルに捕まり、今に至る。戦闘要員としては未知数すぎて正直怖い。


「え。みんな乗れるだろう?」

 乗れないやつなんていないだろうと言わんばかりのペルーシャの言葉を、ネメスが補う。

「イルーファンでは幼い頃より全員が馬に乗れるよう教育されると聞いたことがありますね。」

 イルーファンは砂漠が多い国だ。点在するオアシスに町ができるので、移動には馬や駱駝が必要になる。馬に乗れないのは死活問題なのだ。


「ああ、なるほど。ペルーシャにとっては馬に乗れるのは当たり前なんだ。」

「ネメスさんは博学だな!他の国のことなんてあまりしっている人はいないぞ。」

 感心したように言うペルーシャから顔を背けるように、ネメスは空を見上げる。

「両親が行商人で他の国にもよく出かけましたので。イルーファンにも行ったことがありますよ。織物がとても素敵だった。」

「そうか。機会があったらうちの店に来るといい!」

「そうですね。機会があれば…。」


 ふと言葉をきったネメスの視線を辿ると、馬車があきらかに速度を落としている。見ればリーズ達のかなり西側にあった川が、すぐそばまで見えるようになっていた。


「ペルーシャ。そろそろみたい。」

「いつでも準備はOKだよ!」


 なんだか嬉しそうなペルーシャがむしろ心配になりながら、馬車との距離をつめる。


「馬を狙います。気をつけて。」


 馬を止めたネメスの手から銀の糸のような軌跡が見えた。その糸は馬車を通り越し、馬の胴に突き刺さった。

 馬が身を捩り、御者が弾き飛ばされる。馬はそのまま前方にむかって駆け出すが、数歩走ったあと、足が止まった。足を折るようにして倒れる。傾きかけた馬車の後ろから、4人の貴族達が飛び出してきた。鎧を身につけ、すでに抜刀している。


「お前ら、最近この辺りを騒がせている盗賊だな?我々に関わったのが運の尽き、騎士団に突き出してくれよう。」


「いや、盗賊じゃないけど。」


 ペルーシャが呆れた声で呟くが、貴族達は聞いていない。ネメスが後ろから叫ぶ。


「さあ、あいつらの持っている物を取り返してください!」


 言いながら弓を引き絞り、ネメスは貴族達に向かって矢を放った。慌てて矢を避けながら、その中の1人がネメスを睨みつける。


「どういうつもりだ!」


「どういうつもりも何も、私はただ積み荷を返していただきたいだけですよ。」


「おい、後ろからも来たぞ。気をつけろ!」


 後方にいた2人が声をかける。馬に乗ったイルとカルダンがその2人にむけて剣を振り下ろした。男達は頭の上で構えた剣でその斬撃を受けるが、上からの攻撃は激しく、2人はそのまま剣を弾き飛ばされた。


「あれ、もうちょっと頑張ってほしいなあ。」


 つまらなそうなカルダンの声を聞きながら、リーズと

 ペルシャも馬を走らせる。急がないとネメスが貴族達を倒してしまいそうだ。


「女か?ふふん、そんな細腕で私とやり合えるのかな?」

 にやりと笑いながら剣を構える貴族に向かって、ペルーシャは袋を投げつける。あっさりと剣はその袋を切り裂

 くが、その途端黄色い粉があたりに飛び散った。


「な、なんだこれは!」

 慌てて後ずさりする様子を見て、ペルーシャはニヤリと笑う。

「一度人体実験をしてみたいと思ってたんだ。どのくらいで効いてくるかな…。」


「…死なないよね?」


 なんとなく不安になって聞いてみるとペルーシャは大きく頷く。


「そんな間違いはしない!ただ吸い込みすぎて心臓まで麻痺するとわかんないけど!」


「十分危険だよね、それ…。」


 粉を吸った男は戦意を喪失したのか、それとも薬が効いたのか、その場に崩れ落ちる。その横をもう1人が走り抜けてきた。ペルーシャの言葉が聞こえていたのか、口を左腕でふさぎ、粉を吸わないようにしている。その勢いのまま、リーズ達の所まで来て剣を横に薙ぐ。リーズもペルーシャも馬を操り、その剣撃から余裕で逃れる。


「危ないなあ、もう…ほいっと。」

 剣の代わりに先程から用意していた薔薇色の塊を投げつける。それは大きく広がると、網状になり、男を絡め取ってしまった。慌てた男が剣でその網を切ろうとするが、粘り気のある糸は逆に剣を動けなくする。リーズが手元の網を引っ張ると、男はもんどりうって倒れた。


 小さい頃から父親と海に出ていたリーズが手に入れたスキルの一つが『投網』だった。投げた後、右手で網を引っ張っていなければいけないので戦闘には向かないが、こういう時には便利である。


「うん、ローズスパーダーの糸は便利ですね。アリサちゃんからもらっておいてよかったわ。」


「ここでどうして網なのか理解に苦しむね。」


「いいじゃない、剣で戦うより安全だし。」


 リーズ達がおしゃべりをしていると、イル達も先ほど剣を弾き飛ばした男達を連れてくる。こちらも既に縄で巻かれていた。薬を吸い込んだ男は地面で伸びている。


「無事に全員生捕りにできましたね。よかったよかった。」

「イルさんてものすごく強かったんですね。驚きましたよ。」

「おや、私に興味が湧きましたか?リーズさんにぜひお話ししたいことが…。」


 イルの声を遮るように一本の矢が飛んでくる。イルはこともなげにそれを斬ると、ネメスの方を見た。


「お話の邪魔をするとは無粋ですね。」

「なんなんだ、お前ら…。」


 呆然とするネメスにリーズはにこりと笑う。


「冒険者ギルドの職員です。盗賊退治に参りました。」







今日は無事に間に合いました。

読んでいただきありがとうございます。

次回は金曜の深夜更新予定です。

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