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(14)盗賊が出ました

 4の鐘が鳴った。冒険者ギルドの扉が開き、冒険者達がどっと中へ入っていく。その様子をリーズは外から眺めていた。今日は受付勤務はお休みだ。アリサのお父さんから許可が出たので、野営一泊でローズスパーダーの糸をとりに行くことになった。


 「すみません、お待たせしちゃいました。」


 パタパタと走ってくるのはアリサだ。この前よりも少し大きめの荷物を背負っている。エドワルドはその後ろをゆっくり歩いてついてきていた。家まで迎えに行ってくれたらしい。


「大丈夫ですよ。ギルドが開くと中が大変なことになっちゃうので、早目に外に出てたんです。お父さんの具合はどうですか?」


 この前、ペルーシャが作った薬を届けたのだが、効いたのか気になっていたのだ。アリサはぱっと目を輝かせる。


「あの薬を飲んだら、お父さんの手があっという間に治りました! 治療師さんにはあと何日かしたら少しずつ仕事に出てもいいって言われたんです。本当にありがとうございます…おいくらなんですか?」


 しまった。ペルーシャに値段を聞き忘れていた。


「今度聞いてきます。ところでお父さんの怪我が治ったなら無理して冒険者を続けなくてもいいのではないですか?」


 リーズの言葉に、アリサは目を丸くする。


「え?冒険者ってやめられるんですか?」


 リーズは頷いた。


「見習いの期間ならいつでも大丈夫です。そのための見習いですから。ただ、お金を借りた分などは全額返してもらうのが条件ですが…。」


 見習い期間は適性があるか見るための時間だ。どうしても魔物を倒すのが無理だったり、無茶ばかりして動けない時間ばかりが過ぎていったり、体力的に辛かったりする人は早めに諦めてもらった方がギルドとしても助かるのだ。

アリサはリーズの目をじっと見る。何かを決めた目だ。


「私、続けたいです。糸の動かし方もなんとなく分かったし、糸を取る仕事ももっとやってみたいです。他の魔物からも糸の素材が取れるって聞きました。それに、強くなったらお父さんの護衛を私がしたいんです。」


「糸の動かし方、練習したんだ。」


 とても可愛らしい笑顔でアリサは微笑む。


「はい!ロージーはとっても素直に私の言うことを聞いてくれるんです。」


「ロージー?」


 シュルッと糸がアリサの袖口から出てくる。ぎょっとしたリーズが後ろに半歩下がると、糸は挨拶するかのようにリーズの手に触れてきた。細い糸の状態ではなく、編んであるようだ。糸はまたするっと袖の中に身を隠した。


「あ、糸に名前をつけてあげたんです!そしたらもの

すごく懐いてくれて…私のいうことをよく聞いてくれるんです。」


 なんだか飼っている小動物の感想を聞いている錯覚がしてきた。糸は生き物ではないはずなのだが。アリサが袖口をまくると、糸はアリサの腕に巻きついていた。知らない人がみたら、ブレスレットのように見えただろう。


「お父さんの護衛か…。お父さんとしては複雑だろうけどなあ…。でも一緒に旅ができるならいいよね。」


「はい!お父さんとあちこち行きたいです。」


 エドワルドの言葉にアリサはにっこりする。迷いはないようだ。


「護衛をしながらあちこちで素材を集めて布を作ったりすれば、やれることが増えますね。まずは糸を取るところからやりましょうか。」


 三人は王都の門へ向かって歩き出した。


 門の前は人でごった返していた。いつもは空いている門が今日は閉まっていて、門番がその前に立っている。


「あれ?何かあったのかな。」

 

 エドワルドの呟きに、たまたま門の近くから歩いてくる冒険者らしき人を見かけてリーズは声をかける。


「すみません、何かあったんですか?」


「ああ、なんでも街道にまた盗賊が出たんだってさ。今騎士団が見回ってるらしい。騎士団が帰ってくるまでは出入り禁止だと。盗賊がこっそり入ってきても困るからな。」


「そうなんですね。ありがとうございます。」


 リーズはお礼を言うと二人の方を振り返った。


「盗賊が出たので、騎士団が帰ってくるまでは出入り禁止みたいです。」


「盗賊…お父さんを襲った人たちですか?」


 アリサがすごい勢いでつめよってくる。ずっと気にしていたのだろう。


「それはまだ分からないです。騎士団が戻ってきたら話を聞けるかもしれませんが…。」


「いや、それは無理だろう。」


 リーズの言葉をエドワルドが否定する。


「騎士団は口が堅い。聞いたって教えてくれないさ。教えて欲しかったらギルドの上の方から聞いてみたほうがおそらく早い。」


「なるほど…。じゃあ、ギルドに戻りましょうか。ここにいてもいつ出られるか分からないですし。」


 今来た道をそのまま戻る。アリサはがっかりしているか、と思って顔をチラリと見ると、なんだか思いつめた顔だ。


「行けなくて残念でしたね。」


リーズが声をかけるとアリサは首をふる。


「盗賊の方が私には大事です。お父さんをあんな目に合わせた奴らを絶対許さない…」


「さすがに初心者に盗賊退治の依頼は来ないと思うよ?」


 騎士団にすら捕まらない盗賊はそれなりに腕がたつ。初心者が向かっていっても返り討ちがせいぜいだ。それは分かっているのか、アリサは肩を落とす。


「…それでも、何か役に立ちたいんです。ちょっとでもできることがあればやりたいです。」


 アリサに盗賊の情報を聞かせることは良いのかどうか分からないけれど、今更引き下がらないだろう。

 エドワルドがアリサの頭をポンポンとたたく。


「情報収集も冒険者としての基本だからな。今回はその練習といこう。ただ、パーティーのリーダーは俺だから、指示には従ってくれよ。」


「はい!」


 ギルドの表は依頼を受ける冒険者で混んでいる。そのためリーズ達は職員が使う裏の扉から中に入った。守衛の人が立っていたが、リーズが一緒なのをみて通してくれた。


「シェリルさんに聞いてみるのがいいですかね?さすがにギルド長に直接は話しづらいので。」


いつもの個室が空いていたのでそこに通しながらリーズが尋ねるとエドワルドが頷く。


「そうだな。ただいるかどうか…。」


 この状態だとギルド長に呼ばれて対策を話し合っているかもしれない。


「とりあえず誰かに何か知らないか聞いてみます。ここでちょっと待っててください。」


 リーズが受付に行くと、依頼受付には大きな紙が貼られていた。裏からでも読める字で『依頼受付停止中』と書いてある。どうやら依頼を受け付けるのはやめたらしい。それでもギルドの中には情報を求めて冒険者が集まり、大きな声で話をしていた。ギルドの職員に詰め寄っている者もいる。


「いつになったら門が開くんだよ。これじゃ仕事できないじゃねえか。」


「ギルドにも情報が入ってこないんです。騎士団が安全を確認したら開けると思います。依頼についてはこちらで門が閉まっていた分締め切りを延長しますので、ご安心ください。」


「依頼中で外にいる仲間がいるんだけど。無事かどうか確認できないの?」


「捜索届けを出してもらえれば、登録証から探すことができますよ。手続きしますか?」


 先輩職員達が次々と対応している。


「すごいな、先輩達…。で、今日の受付はっと…。」


 今日の受付担当を探すと、ロングの赤茶色の髪をさらりと垂らしている女性がいた。受付ではなく、奥の机で書類を積み上げて何か作業をしている。あれは確かコアールだ。ちょっと年齢が上なので、研修でもあまり話しかけたことがなかった。


「あの、コアールさん。依頼受付は…?」


「あら、リーズさん。今日は王都の外に出られないみたいなんです〜。なので依頼受付は停止、依頼の延長はこちらでやるから手続きはいらないとリーダーからお達しがありまして〜。受付に立ってるとあれこれ聞かれるので、ここで今日〆切の依頼を探して期限を延長しています〜」


 にこにこしながら間延びした話し方をするので、あまり緊迫感が感じられない。


「それは大変ですね…。ところでリーダーは?」


「ギルド長に呼ばれて出かけて行きました〜。」


 リーズがここに来た訳を伝えると、コアールさんは首を傾げる。


「盗賊が出たから門が閉まっているんですか〜。私達も詳しい話を聞いてないんです〜。冒険者の皆さんが『門が閉まってる。依頼延長してくれ』って次々来て門が閉まってくるのを知ったくらいなので〜。調査をするにもこの騒ぎで、皆さん手一杯みたいです〜」


「そうなんですか…。」


 リーズは腕を組む。

 盗賊に襲われるのは、大抵商人か貴族の馬車だ。商人なら冒険者、貴族ならその家の騎士が基本的に護衛につく。もし商人が襲われていて、うちのギルドに護衛を依頼しているなら、依頼書があるはずだ。門が閉まったのがついさっきなのを考えると、出発してしばらくしたところで襲われたのかもしれない。


「今日出た商人の護衛って誰か分かります?」


 突然のリーズの質問に、目をパチパチさせながら、コアールさんが答える。まつ毛が長い。


「調べればわかると思いますけど〜、帰ってくるところを襲われてるかもしれないですよ〜?」


 それは思いつかなかった。よく考えればアリサのお父さんも帰ってきたところを襲われたんだった。


「じゃあ、今日出た商人とそろそろ帰ってきそうな商人の護衛依頼はどこで調べれば…」


 コアールさんはにっこり笑う。


「未達成の依頼書はどこに置いておくことになっていたでしょう〜?」


「確かリーダーの後ろの棚に…。」


「ピンポーン。正解です。では私は仕事に戻ります〜。依頼の延長を全部しないといけないので〜。」


 コアールさんは書類の山を指し示すと、そちらに向き直る。


「すみません、後で手伝います…!」


 リーズはリーダーの席に急いだ。

 リーダーの席の後ろには大きな棚があり、そこに依頼書を日付順に積んでいくことになっていた。依頼が終わったものから抜き出し、資料庫に移動するのだ。

棚に入っている依頼書は4つの束になっている。一つの束が百だから、およそ四百だ。


「時間がかかりそう…」


 でも多分、ここに手掛かりがある。リーズは一つ目の束に手をかけた。


読んでくださりありがとうございます。

感想や評価をいただけると嬉しいです。

次回は金曜日更新です。

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