(118)別れ
リーズたちとレオンたち『雷帝の鬣』が馬車置き場についた時には、すでにアンドリューが馬車を用意して待っていた。アンドリューの家族も一緒にいる。奥さんのカミラと男の子と女の子の二人。男の子はアンドリューに馬の背に乗せてもらってはしゃいでいた。リーズたちの姿を見て、馬から降ろされると、レオンの剣に興味があるのか目をキラキラさせている。女の子はお母さんの側にそっとくっついていた。
「すみません、遅くなってしまって。」
「いや、大丈夫だ。商業ギルドから話は聞いている。冒険者ギルドのリーズさんたちだ。挨拶しなさい。」
アンドリューの言葉に、子供達に二人ともぺこりと頭を下げた。
「待たせてごめんなさいね。」
アイネがにっこり微笑みながら言うと、二人とも顔を赤らめてしまった。
「商談はうまくいったのか?」
アンドリューが家族を馬車に乗せながら言う。
「はい。ダミアンさんが取り仕切ってくれたので。」
戻ってきたリーズが商業ギルドのダミアンに素材の相談をしたところ、快く全部買い取りたいと言ってくれたのだった。素材の査定と領主との話し合いがまだなので、値段がいくらになるかはまだ未定だ。レオンたちも商業ギルドで口座を作ったので、今回の素材のお金はそこに入れておいてもらうことになった。この前と今回の依頼料だけでもそこそこのお金になっているので、レオンたちも困らないらしい。
「俺たちは、旅の準備をしたら、この町を出る予定だ。しばらくは会えないな。」
商業ギルドからそのまま見送りに来てくれたレオンが言う。
「そうですね。私たちも春には王都に戻っていると思います。」
「そうか。色々と世話になったな。」
レオンは自分の手をしみじみと見る。
「治療は痛かったが、動きが本当に楽になった。あれがなかったら氷狼も倒せたかどうかわからない。それに……」
それだけいうと、ストリペアの方を見る。ストリペアはペルーシャと何やら楽しそうに話をしていた。その様子をクリシュナが眺めている。素材の一部を研究用として持っているので、それの使い道について話をしているのかもしれない。
「ストリペアも、なんというか、素直になった。父親の復讐に囚われていた時の暗い顔が、今はもうない。」
「今まではちょっと暗い感じだったからなあ。」
隣にいたミカサがおどけた様子で話に加わってくる。
「父親の恨みを晴らそうとしているところがなくなったからな。前は調合している顔が正直怖かった。」
「今は楽しそうだもんな。」
家族のいないストリペアにとって、レオンたちは仲間であり、大切な家族なのだろう。それはレオンたちにとっても同じなのだ。
ふと、真剣な面持ちになってレオンが言う。
「ところでリーズ、君、ご両親は?」
リーズは一瞬戸惑った。
「父はおそらくクーラン事件の後、亡くなっていると思います。私はミシュリ村の出身なんです。それで、その、遺体はなかったので。」
「ああ、そうだったのか。すまなかったな。」
レオンもクーラン王国の生き残りだ。その一言で、痛ましいものを見たような顔になる。
「母は、私の記憶にはないんです。父も何も話してくれなかったので、私が幼い頃に亡くなったのかなと思ってます。」
「生死は分からないのか。」
「はい。あの、それが何か?」
戸惑いながらリーズが尋ねると、レオンは腕を組む。
「以前、パトラム王国で、君によく似た女性の冒険者に会ったことがある。腕が立つ冒険者で、探査スキルの使い手だった。ひょっとして血縁がないかと思ってな。」
リーズの胸が、ドクンと鳴った。
「探査スキルの使い手……。」
「探査スキルを使える人も珍しいからね。しかも、魔物かどうか分かるなんてなかなかいないんだよ?本当は。」
「ああ。ひょっとして相続スキルではないかと思ったんでな。」
その言葉に、リーズは息をのんだ。最初に冒険者登録をした際、スキルを調べた職員に、冒険者をずっと続けるのでなければ、誰にも言わない方がいい、と忠告された、薄ぼんやりとしたスキル名。それが母と繋がっているものだとしたら。それを辿れば母に会えるかもしれない。
ただ、それはずっと母はいないものだと思っていたリーズには、まるで実感の湧かないことだった。
少し困った様子のリーズを見て、レオンは苦笑する。
「余計な話だったかな。」
「いえ、ただ実感が湧かないだけで。そうですね。ギルドで調べてみます。名前は分かりますか?」
冒険者登録をしているのであれば、王都に戻れば探すことは可能だ。
「確か、イザベラ、だったと思う。周りからはイズと呼ばれていた。」
「イザベラ…。よくありそうな名前ですね。」
手がかりとしては少ないが、王都に戻ったら一度探してみるのもいいかもしれない。
「そろそろ行かないと、日が暮れちまうぞ。」
アンドリューの声に、ペルーシャとアイネも馬車へと向かう。
「じゃあ、みなさん。色々とありがとうございました。」
リーズの言葉にレオンたちが手を振った。
「ああ。またな。次に会う時は、ゆっくり話そう。」
「今度は女同士で飲もうじゃないか。」
「次はもうちょっと楽な依頼をくれよな。」
リーズは馬車の窓から、手を振り続けるレオンたちの姿が見えなくなるまでずっと見つめていた。
読んでくださり、ありがとうございます。
「続きが気になる」「面白い」「早く読みたい」など思われましたら、下記にあるブックマーク登録・レビュー・評価(広告の下にある☆☆☆☆☆→★★★★★)、リアクションなどしていただけると嬉しいです。




