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(115)再びカーセルへ

 リーズ達がカーセルに行くことができたのは、雪がうっすらと積もり始めた頃だった。わずか二日で帰ることをセレネに念押しされつつも、これ以上は待てないというカーセル側の切実な願いを聞き入れたのだった。

 停車場には、今すぐにでも山に行ける身支度をしたヒューイが待っていた。背中にはツルハシを背負っている。彼の姿に、リーズ達は顔を見合わせる。

「あれは、今すぐ行きたいっていうことですかね。」

 リーズの言葉に、ペルーシャがやれやれといったふうに首を振る。

「まあ、明日には帰らないと行けないからね。それに帰りはアンドリューさんの家族も一緒だし。」

 アンドリューがいつも使っている家の改装が直ったので、一度海に行きたいといっていた家族が帰りについて行くことになったのだ。シプランは海が近いせいか雪がほとんど降らない。二、三日ゆっくりしていくつもりだという。

「すまないな。俺の個人的な事情を入れちまって。」

 アンドリューが振り返らずに話に加わる。

「いいんですよ。セレネさんの機嫌も少し良くなるでしょうし。セレネさんにも休暇が必要です。」

 仕事を増やしてしまったのは自分たちであるが、ある程度の目処はついた。少しはセレネに休んでもらわないと、リーズ達も休めない。アンドリューもそんなセレネを見ていたからこそ家族での訪問を入れてくれたのではないかと、リーズは思っている。


「お待ちしていましたよ。さあ、行きましょうか!」

 馬車から降りるなり、ヒューイが言う。

「待ってください。ダミアンさんと打ち合わせをしていませんし、レオンさん達とも…。」

 リーズが押し留めるようにいうが、ヒューイはペラリと紙を出す。

「ダミアンさんからの許可はもらっています。氷狼がいなくなったので、洞窟の前の鍵も空いています。宿に荷物を置いたらすぐ出かけられるよう、レオンさん達も準備ができています。あ、皆さんの宿の部屋もいつでも入れますよ。」

「……なかなか有能ですわね。」

 たじろいだようにアイネが呟く。意外と交渉事に向いているのかもしれない。

 すぐに背を向け歩き出すヒューイに、三人はついて行くしかなかった。



 洞窟前の瓦礫は、まるで何事もなかったかのように綺麗に片付けられていた。これ以上崩壊しないようにか、木組みも入り口にされている。職人達が短い間に頑張ってくれていたようだった。今日もまだ作業をしていたのか、職人が二人ほど入り口に佇んでいる。

「今日は氷石があれば採取もしたいので、職人も連れて行きます。領主の許可も得ています。」

 ヒューイがそういうと、洞窟の前で待っていた職人がぺこりと頭を下げた。小さなツルハシを背中に背負っている。

「魔物がいる可能性がありますので、絶対に前に出ないでくれ。それを守れなければ連れては行けない。ヒューイさん、あなたもです。」

 レオンの言葉に、ヒューイは渋々頷く。ペルーシャが何気なくヒューイの隣についた。いざとなったらひっぱって逃げられるようにしておくつもりらしい。

「確認しますね。」

 リーズが探査スキルを使うと、内部には赤い点が複数現れた。

「魔物がいますね。それも複数。」

「まあ、そうだよね。魔石をそのままにしてしまったし。」

 ミカサが仕方ないといったふうに呟く。

「それほど時間が経ってはいないから、強い魔物はいないだろうが、気をつけて進もう。リーズさんはスキルを発動しておいてほしい。」

「分かりました」

 打ち合わせが済むと、洞窟へと入っていく。ミカサ、クリシュナ、レオン、ストリペアが先に、その後をリーズ、その後ろに職人とヒューイとペルーシャ、最後をアイネという順番だ。片手に灯りを持っているからか、今日のミカサは弓ではなく短剣を持っている。入り口近くの氷石は太陽が当たるようになったせいか、ほとんどなかった。

「前から二匹、きます。」

「あいよ。」

 時折襲ってくる蝙蝠型の魔物を難なく倒しながら、二人は奥へと進んでいく。

「この辺はそれほど魔力が澱んでいませんわね。」

 魔力操作を覚えてから、魔力の濃さに敏感になったアイネが呟くとレオンが振り返る。

「入り口が近いからな。外へと出ていったんだろう。」

「そうですわね。風でも吹けば簡単ですわね。」

 氷狼がいた辺りに差し掛かると、そこには氷石がびっしりと壁に張り付いていた。

 明かりに照らされたその光景に、ヒューイ達は息をのむ。

「こりゃ凄い。今まで見た中でも一番だ。」

「氷狼が氷石をここまで成長させたのか。採取してもよろしいですか?」

 ヒューイの言葉にレオンは頷く。

「ただ、ここで採取を終えたら先に戻っていてくれ。俺たちは氷狼が今どうなっているのか見に行きたいんでな。」

「ええ、もちろんです!ささ、採れるだけとって行きましょう。」

 ヒューイの言葉に職人二人もツルハシを手にもつと、壁に向かう。リーズ達は邪魔にならないよう洞窟の真ん中に集まって休憩することにした。

「今まで見た中でもなかなか上質ですね。冬の間ここに来られないのが残念でなりません。」

 ヒューイの興奮した言葉に、リーズは不安を覚えた。

「冬が終わっても勝手に入らないでくださいね。入るなら冒険者と一緒ですよ。」

 冬の間に魔力が溜まれば、魔物も強くなる可能性がある。ただ、春にはリーズ達は王都に戻っているだろう。しっかりと引き継ぎをしておかないとならない。

「レオンさん達はいつまでここに?」

 リーズの質問に、レオンは少し思案する顔になる。

「雪に閉じ込められる前には、ここを出る予定だ。次の依頼が入っているからな。」

「そうですか。氷狼退治の依頼料は受け取りましたか?」

 リーズ達が動けなかったので、ダミアンに頼んで先に渡してもらったのだ。

「ああ。ついでに色々と領主様からも頂いた。ミカサの持っていた短剣もその一つだ。」

「なかなかいい剣だよ。洞窟じゃ弓矢は使いにくからね。」

「私は錬金工房をもらったの!いつでも使っていいって!」

 ストリペアは嬉しそうに言う。それはレオン達をこの町に引き止めるための餌ではないだろうかと思ってレオンをチラリと見たが、肩をすくめるだけだった。わかっていても止められなかったようだ。

「まあ、ストリペアの道具を量産化できるようにしてくれてるというからな。それだけでも収入になる。」

「引退後も安泰だって事だねえ。私も宝石をもらったし。」

 クリシュナがのほほんと言う。あの美貌なら貴族からも声がかかりそうだ。

「ボクの薬工房も作ってほしいね。」

 ぼそっとペルーシャが言うがそれは流石にギルドの職員を辞めない限り無理だろう。

 やがて袋がいっぱいになったのか、ヒューイ達が戻ってきた。それでも壁の氷石のほとんどは残っている。

「いやあ、大収穫です。これだけでもしばらくは困りません。」

 抱き付かんばかりにヒューイが感謝を述べようと近づいてくるので、レオンは慌てて下がる。

「それはよかった。とりあえず、それを持って戻ってくれるか。」

 ヒューイは名残惜しそうに洞窟の中を眺めてから職人達と戻っていった。

読んでくださり、ありがとうございます。

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