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(11)薬とポーションは違うのだよ。

薬の使い方には気をつけよう


「こっちがカミレ草で、こっちがジョマラムの葉だな。」


 ペルーシャが出した薬草をリーズが真剣に見比べている。カミレ草は小さな赤い花がついていて、花に薬効が多い。ジョマラムは独特の匂いがあり、群生しているとすぐにわかる。どちらも野原に多いが、栽培も進められている。今のところ野草の方が効き目が良いので、まだ栽培方法は研究する必要があるけれども。

 ランテッソ王国の王都サイルスはこの大陸最大の都と言われている。扱っている薬草の数もペルーシャがいたイルーファンより豊富だ。思わず夢中になって買ったり取りに行ったりしているうちに部屋が薬草だらけになってしまった。調合するための釜や道具も机に置ききれずに床に置いてしまっているので居場所が寝台の上だけになっているが、ペルーシャはあまり気にしていなかった。むしろ訪れてきたリーズが落ち着かない様子で寝台に上がっている。

 なんでもペルーシャにポーションを作って欲しいというのだが。


「このふたつでポーションが作れるんだよね?」

 うん。確かに調合の初心者本にはそう書いてある。


「まあ、できなくはないね。でもあまり効力はないよ。そうだなあ、風邪で寝込んだ後に飲むと楽になるとか、擦り傷がきれいに治るとかその程度。」


 リーズに限らず、ポーションというものの特性をわかっていない人が多い。

 ペルーシャの実家は薬屋だ。ポーションや薬を手広く扱っているが、ほとんどの人が何も聞かずにポーションを買っていく。そのほとんどが初級ポーション、中級ポーションである。

 ポーションは体力回復や怪我の治療にはある程度役に立つのだが、状態異常や病気には効かない。万能ではないのだ。そのことをよく知らずポーションを買っていっては効かなかったと文句を言う人が後を絶たない。特に冒険者が。


「これ以上は我慢できん!冒険者ギルドとやらが何をしてるのか見てこい!」


と父親に命令されて、ペルーシャはここにいる。力には自信があったので、1年ほど冒険者をしてからギルドの採用試験を受けた。しかし、冒険者になる時の説明でも、ギルド職員に採用された後の研修でも特にポーションについての説明はなかった。説明できる職員がいないのか、はたまたわざとそうしているのか。


 救護課のメンバーは医学スキルを持っている人ばかりなので、ある程度ポーションについての知識はあるはずだと、期待を持って話してみたところ


「え、怪我なら中級ポーションでいいよね?」


とのお言葉をいただいた。備蓄する時も同じものがたくさんあった方がわかりやすいということで中級ポーションばかりが倉庫で眠っている。王都の薬屋では病気用の薬や状態異常を治す薬もちゃんと扱っているのに、である。薬屋育ちのペルーシャとしてはそんなのありえない!状況なのだ。


 しかしなぜ中級ポーションばかりが売れるのかが、よくわかった。ポーション以外にも様々な種類の薬があるということを皆知らないのだ。だからまず目の前にいる友達からわかってもらうのが今のペルーシャの目標である。じっと薬草を見つめてからリーズが口を開く。


「じゃあ、大怪我を治す時には何を使えばいいの?」


「うーん。怪我にも色々あるからなあ。」


そう言いながらペルーシャはごそごそと薬草を探す。


「たとえばこれ。オレガンの葉。これは捻ったりして腫れた時に効果がある。飲むだけじゃなくて貼っても使える。」


ギザギザの肉厚の葉を見せる。これはぎゅっとつぶすと液体が出てくる。それが患部を冷やしてくれる。飲むと痛みを取ってれる便利な葉だ。


「こっちはハリガネ草。これは粉々にして使う。剣で切られたりした時に効くね。喉がイガイガするけど、傷口を塞いでくれる。」

「イガイガするんだ…。」

「薬だからね。美味しくはないよ。いや、美味しくすべきなのか?」


薬もポーションも不味い。飲みにくい。これが世の中の評価である。これもペルーシャは変えたいと思っているが、下手なものを混ぜると効果自体が変わってしまうことがあるのでなかなか難しい。


「骨が折れたりしたら?」


「うーん。ちゃんと折れたところをつないでからギルルニ粉末だな。これは草じゃなくて石だけどね。」


「い、石って食べられるんだ…知らなかった。」


「食べ物にも使われてるんだよ。知らなかった?」


 ちなみに骨が折れたりしたのを治療するのは応急処置スキルをもった治癒師である。医者は病気や状態異常を診る。どちらも国から認定されないと職にはつけない。医者も治癒師も薬屋とは仲が良いが、腕の良い治癒師はポーションがなくても怪我を治せてしまったりするので薬屋泣かせである。そのため遠征に行くパーティーから引く手あまたなので、ギルドの職員の中に治癒師はいない。


「中級ポーションはなんでも効くじゃない?あれはどうなってるの?」


「あれは一時期的に身体の自己再生機能を高めてるんだよ。だから飲み過ぎるとものすごく疲れる。ひどい怪我をしてる人に使ったら、自己再生機能に体力奪われて立てなくなるね。傷口から毒が入ってる時も危険。一気に毒が回るから。だからなんでも効くわけじゃない。」


 説明をしながらリーズの顔をみる。半分納得したような、納得しきれてないような微妙な顔だ。今まで思っていたのと違うことを言ってしまっているのだから仕方ないか。


「高級ポーションなら体力回復力が高くて毒素も排出できるから大丈夫だけど、値段も高い。貴族とか高ランクの冒険者じゃないと手が届かないね。」


「ちなみにいくら位なの?」


「場所によって値段もまちまちだけど、王都なら大体50万ライヒかな?」


「50万?買えないよ!」


あまりの値段にリーズはのけぞっている。そうなのだ。高級ポーションは高いのだ。店でも店頭には絶対に出さない。

 依頼報酬も依頼内容によってまちまちだが、Fランク冒険者の一回の依頼料が大体五百から千ライヒくらいである。宿屋や食べ物屋は格安で使えるので、冒険者ならそのお金で3日は暮らせる。Cランクを超えると護衛依頼を受けられるようになり、一回で10万ライヒ稼ぐ冒険者もいるが、それでもまだ届かない値段だ。


「だから薬があるんだよ。どんな状態かわかってるなら薬を買った方がいい。怪我にもよるけど5000ライヒから10万ライヒくらいかな。もちろん薬草を一緒に持ってきてくれれば割引もできる。詳しい症状を聞いてきてくれればボクが調合してもいいよ。格安でね。」


 ギルド職員だが、薬を売ることは禁止されていない。むしろ品質の良い薬だったらギルドで買い取ってもらえる。よい副業である。


「そうだね。馬車から落ちたとは聞いたけど、どんな怪我かは聞いてないから。今度聞いてみるよ」


 リーズは納得してくれたようだった。馬車から落ちたのなら、打身か骨折か。盗賊に襲われたのなら切られているかもしれない。治癒師にかからずに中級ポーションを飲んで、体力がなくなってしまったんだろうなと予想はつくが。

 これをとっかかりにじわじわと色々な薬を広めていこうとペルーシャは決意を新たにする。

 そのためにも、目玉商品をつくらなければ。ペルーシャは試作品の薬にちらと目をやった。


「ところで、鑑定スキルの練習は進んでるかい?」


 ペルーシャの言葉にリーズは視線をそらす。


「まあ少しずつ…。名前は分かるんだけど効能を覚えるのがね…。」


 村の薬屋のばあちゃんに採集するのに必要だからと形と名前は仕込まれたらしい。他のこともそうだが、リーズの知識は幅広いものの、初級程度のものが多い。学校に行ったわけでも、ペルーシャのように実家でひたすら叩き込まれた訳でもないのだから仕方ないが。


 しかし、知識がない、というのはこれからに期待が持てるとも取れるし、周りとしては染め放題である。


「うんうん。そこでだねえ。これを試してみないかい?」


 ペルーシャはリーズの前に小さな薬瓶をだす。細長いガラス間に入っているそれは、量は少なめでピンク色だ。リーズが首を傾げる。


「これは何?」


「これは私が開発した『スキルノビール』だね。これを飲んでスキルの練習をするとあら不思議。スキルの習得が早くなるという画期的な薬なんだ。ボクも使ってみたけど、2倍の速さくらいで習得できた。他の人だとどうなのか正直知りたいんだよね。」


「名前はイマイチだけど、すごい薬だね…。」


 リーズの目が輝く。嘘は言っていない。自分でも飲んでみたし、スキル上昇率も確実に上がっていたと思う。ただ、他の人にはまだ試したことがなかった。名前についてはほっといてほしい。薬なんて何に効くか分かればいいんだ。


「甘い匂いだね。変な味する?」


「いや、大丈夫。薬っぽいけど飲めないほどじゃない。できれば大量販売を狙っているからね。味も大事なんだ。」


 一口飲んでみて、しばらく考えている様子だったが、結局リーズは全部飲み干した。信用されているのだな、とちょっと嬉しくなる。


「うんうん。飲んだね。ではスキル上げの練習をしてみようか。」


 ペルーシャは、薬草をベッドの上に並べる。とりあえずは3種類でいいだろう。


「まずはカミレ草からだね。名前は知ってるみたいだし、スキル使ってみてよ。」


「わかった。『鑑定』!」


 リーズが練習を始める。最初の3回は見事に失敗した。4回目でスキルが発動。ペルーシャはその

様子を記録する。


「なんて見えたの?」


「えーとね。カミレ草って名前だけ。」


 一番下のスキルランクである。ペルーシャが鑑定すると名前、品質、効能、使い方まで見える。さらに初めてみる薬草でも発動する。


 5回目はまた失敗して、6回目からは3回連続で成功した。そろそろレベルが上がる頃か。


「それじゃ9回目。『鑑定』」


 リーズは唱えた後、目を丸くした。


「あれ? 品質が見えた。」


 リーズの言葉にペルーシャは思わず興奮する。薬の効果はどうやら確かなようだ。スキルボードを確認したいが、ギルドに行かないとみることはできない。残念だ。


「レベルが上がったみたいだね!ふむふむ。9回で成功、と。ただ今までも練習してただろうから、その分を差し引かないと…。」


「うーんと、仕事の合間に10回くらいかな…。カミレ草だけずっとやったのは初めてだけど。」


「スキルを覚えたいときは同じものを繰り返した方が効率がいいね。それも説明に加えた方がいいな。ふふふ、売れるぞこれは。」


 思わず本音がこぼれてしまった。しかしリーズもスキルのレベルアップに夢中なようで聞いていない。


「他の薬草でも品質が見えるのかな?」



「やってみてよ。色々あるから。でも、名前を知ってるのじゃないと無理だと思うけど。」


「オレガンならできるかな…『鑑定』!」


オレガン草 品質 低


「見えた! あまり品質よくないんだね、それ。」


「ああ、オレガンはもともと冬にとれるから。いくら乾燥させていても春にはやっぱり品質が落ちるね。質を落とさないような工夫も考えたいところだな。」


 リーズはその後も色々な薬草の品質を鑑定して見ていった。品質を見ることも大体できるようになったようだ。


「そろそろやめたほうがいいな。スキルも魔力体力使うから。」


「鑑定」スキルに魔力はいらないが、使い続けるとひどく疲れる。

 ペルーシャが声をかけると、リーズははっとした顔をしてペルーシャを見た。


「あ、そうだね。つい…。」

 

 立とうとしたリーズの体がぐらりとゆれた。そのままベッドに沈み込む。」


「あ、あれ?立てない…。」


「立てない?」


 そんな副作用はなかったはずだ。自分で飲んだ時はひどく眠くなってそのまま寝てしまったが。リーズの体を触ってみたが、特に変なところはない。状態異常にかかっているわけでもなさそうだ。


「うーん。特に異常はないみたいだ。てことは、体力の使いすぎだな。」


「使いすぎって、スキル使っただけでこんなになったこ

とないよ。だめだ、ものすごく眠い。」


 リーズの目がとろんとなってきている。本当に眠いらしい。仕方ない。部屋まで運ぶか。


「ポーションの副作用かな。スキルは覚えやすくなるけど体力も倍使うのかもしれないな。回数を区切ってどのくらい疲労するのか調査しないと…。」


 独り言を言いながらよいしょっとリーズを持ち上げる。小さい頃からムダに力が強かったけれど、それがこんな形で役に立つとは思わなかった。


 数年後、この「スキルノビール」は王都ギルドでしか売っていない人気薬として有名になるが、それまでにギルド職員のほとんどが実験台となったのはギルドの職員だけが知る秘密である。


 

今回はペルーシャ視点でした。

お読みいただきありがとうございます。

感想や評価をいただけると励みになりますので、どうぞよろしくお願いします。

次回は火曜日更新です。

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