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(102) 偵察

「大きい……」

ストリペアの口から思わず声が漏れる。それほどに氷狼は巨大だった。その隣ではヒューイが瞳を爛々と輝かせながら、目の前の氷狼を興奮気味に観察し始めた。

「あれが氷狼か。身体中に氷石が付いている。あれは身体から滲み出る魔力と冷気が合わさって作られているのだろう。顔の周りにない所を見ると、邪魔な氷石は岩肌に擦り付けて取っているのかな。なるほど、だから洞窟の岩に氷石ができたのか……。」

「リーズは大丈夫?」

氷狼から目を離すことなくストリペアが尋ねる。

「大丈夫です。」

慎重に距離を重ねた分、魔物との距離が取れている。この距離であれば鉄格子の向こうへと退却することも可能だ。

「気をつけて。直接攻撃はなさそうだけど、吹雪も起こせるんだよね。遠距離からの攻撃方法があるのかも……」

ミカサの言葉が終わる、その直前だった。氷狼はガッと大きく口を開ける。人が二、三人、丸ごと吸い込まれてしまいそうだ。赤い舌がべロリと現れると、白い空気の渦が形成され、ヒュウウッと、まるで真冬の木枯らしのような音が聞こえてきた。

「来るぞ!下がれ!」

レオンの緊迫した言葉と共に、レオンの剣から熱風が吹き出し、前方で壁を作る。

「ああ!あまり熱いと氷石が溶けてしまう!」

ヒューイの悲鳴に近い声に

ストリペアは冷静に言い放った。

「はいはい。死んだら観察も出来ないからね。とりあえず下がるよ。」

ストリペアは前のめりになってなお観察を続けようとするヒューイの首の後ろを掴むと、問答無用で鉄格子の直前まで引きずっていった。リーズも下がろうと二、三歩動いた、その時だった。レオンの放った熱気と氷狼の吐き出した冷気が真正面から激突し、辺りに凄まじい突風が轟音と共に吹き荒れた。思わずぎゅっと目を閉じ、腕で顔を庇ったリーズに巻き上がる風が容赦なく襲いかかる。体が倒れそうになるのを誰かが腕を掴んで強く引き止めてくれた。

「……っ!」

誰かが何かを叫んだ声が、轟く風の音にかき消されて聞き取れない。ただ、その声が合図であるかのように、少しずつ風が収まっていくのが感じられた。

どのくらいの時間が経ったのだろうか。

風が止み、恐る恐る目を開けたリーズが見たのは、剣を構えたまま微動だにしないレオンと、入口の下半分を瓦礫に埋もれさせた洞窟だった。

「……まさか、洞窟が壊れちゃうとはね。」

半分呆れたようにミカサがリーズの隣で呟く。支えてくれていたのは、ミカサだった。リーズの視線に気づいてミカサは腕を掴んでいた手を離す。

「あ、ありがとうございます。」

「どういたしまして。怪我もないようだし、良かった。」

何事もなかったかのように言うと、ミカサは洞窟の入り口へと向かった。

氷狼の唸り声も今は聞こえない。

「ああああ!洞窟が!氷石が!」

ヒューイの悲痛な叫び声があたりに響き渡る。それを意に介さず、ミカサが尋ねてきた。


「リーズさん、近くに魔物はいる?」

慌てて探査スキルをもう一度発動する。先ほどの氷狼だろう。大きな魔物の点はゆっくりと離れるように動いている。

「氷狼は離れていっているようです……ん?」

リーズは首を傾げた。

その魔物の前方に3つ程、やはり魔物の点が見える。それほど大きくはない。

「どうしたの?」

「いや、なんかほかの魔物の点があります。合流したような感じですね。」

もし氷狼が何頭かいるのであれば、かなり危険だ。

「合流、ねえ。」

リーズの言葉にクリシュナが試案顔で呟いた。

「氷狼が上位種であるのなら、それより下の魔物がいるのではないか?」

レオンが剣を収めながら答えた。

上位種は群の中の突然変異だ。それならば、あの小さな点は2頭ではなくもっといるのかもしれない。そう思ってリーズは探査スキルで少し奥まで探してみるが、それらしき点は見当たらなかった。

「レオンさん、怪我はありませんか?」

探査を一旦打ち切ったリーズが尋ねるが、レオンは首を振る。

「風の渦の中心はむしろ無風に近いからな。大丈夫だ。」

「どっちにしても、入り口がこの様子じゃあ、中の探索は不可能だね。」

クリシュナが洞窟の前の瓦礫を剣で突いてみると、瓦礫がガラガラと音を立てて崩れ始めた。

「下手に触ると更に崩れる可能性があるね。氷狼も危険だと分かっていればこっちにこないんじゃないかねえ。」

「こっち?」

クリシュナの言葉にリーズは首を傾げた。

「洞窟の入り口は一つとは限らないだろう?この山の向こうは、この国を縦断する山脈と繋がっている。そのどこかに別の入り口があってもおかしくないだろうさ。」

クリシュナが肩を竦めながら言うと、レオンも同意するように口を挟む。

「むしろそっちの入り口の方に誘導できれば、町は安全だろうな。」

ミカサは何かが気になっているのか、首を捻りながら洞窟を見ている。

「なるほど。そちらに誘導しつつ、ここの入り口を直すことができれば良いのですな!」

洞窟が崩れた衝撃からもう立ち直ったのか、ヒューイが嬉しそうに会話に参加してきた。ただ、その思いつきには一つ、欠点があった。

「どうやって探すんです?その入り口。」

洞窟の中の様子が外からわかるスキルでもあれば可能だろうが、そんなものがあれば、今ごろ使っているはずだ。山を虱潰しに探すとしても、どのくらいの時間がかかるのか、誰も見当がつかない。

リーズの問いに答えられる者は誰もいなかった。


読んでくださり、ありがとうございます。

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