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(101)遭遇

氷石の生長を待つ訳にもいかず、リーズ達は予定通り洞窟の奥へと進んだ。以前来た時よりも肌を刺すような寒さを感じるのは、冬へと近づいているせいだろうか。前方から明るい光が差し込んでいるのが見えて、リーズは思わず立ち止まった。

「どうした?」

レオンの声に、リーズは平静を装って答えた。

「あの明かりの先が、魔物のいる洞窟になります。」

リーズはまだ迷っていた。ここで待っていてもきっと誰もリーズになにも言わないだろう。案内の仕事は達成したのだから。けれども本当にそれでいいのか。自分の希望通りミシュリ村にギルドを作ったとして、魔物が来た時、自分はどうするのか。どう、したいのか。



鉄格子の向こうは洞窟が途切れており、上から陽の光が射している。岩の間から少し植物が生えている。その向こうが魔物のいる洞窟だ。リーズは鉄格子を開けようと預かってきた鍵を差し込もうとする。かじかんだ手のせいか、鍵が手から滑り落ちる。慌てて拾おうとしたリーズよりも早く、ストリペアの手が鍵を拾った。

「この後に備えて、少し休憩にしないかえ?」

クリシュナの言葉にレオンが静かに頷いた。

「そうだな。ここは明るいし、少し暖を取るのもいいだろう。」

「こんなこともあろうかと!」

ストリペアはしたり顔で折りたたみ式のテントを取り出すと、手際よく組み立てていく。あっという間に完成したテントの入口を開けた状態で、彼女はレオンを呼んだ。

「レオン、いつものお願い。」

「仕方ないな。」

レオンが短くそう言うと、剣を抜き、切っ先をテントの中に差し込む。しばらくそのままだったが、やがて剣を鞘に戻した。

「これで大丈夫な筈だ。」

ストリペアがそそくさと中に入るとひょっこり顔を出す。

「入っていいよ。」

ヒューイとリーズは顔を見合わせたあと、恐る恐るテントの中へと足を踏み入れた。

中は驚くほど心地よい暖かさに満ちていた。



「どうやったんだ……?」

ヒューイが呆然として呟く。

「中の空気だけ暖めたんだ。レオンの魔法でね。最初は暑くて入っていられなかったけど、最近は上手くなったよな。」

「魔法の使い方としてはどうかと思うがな。」

ミカサの言葉に、レオンが不満そうに言うが、魔法の調整が上手くできると言うのはすごいことではないだろうか。

「まあ、座って。少し腹ごしらえをしようよ。」

ミカサの言葉に全員その場に座る。

万が一のことを考えて、携帯食はそれぞれ持ってきている。

リーズが少し硬めの干し肉を噛んでいると、ストリペアがスープを差し出した。

「ありがとうございます。」

「こういうことも、私の役目だからね。」

自分のスープを飲んでから、ストリペアが不意に呟く。

「魔物ってさあ。怖いよね。」

「そう、ですね。でも、色々な魔物と戦ってきたのでは?」

リーズの言葉に、ストリペアは苦笑する。

「まあね。でもやっぱり怖いものは怖いよ。それでもなんとか頑張れているのは、仲間がいるからかな。」

レオンもミカサもクリシュナも、思い思いに携帯食を食べながら、リラックスしている。これから魔物と対峙するという緊張感はあまり感じられない。それはやはり

「皆さん、強いですからね。」

「うーん。それもあるけどさ。信頼してるから。」

ストリペアは上を向きながら、言葉を選び選び話す。

「ミカサはあれで慎重なんだよ。ミカサが逃げたほうがいいと言ったら、逃げる。クリシュナは戦いながら、相手の弱点を探すのが得意なの。すごく速くて、敵の攻撃はなかなか当たらない。レオンは、見ての通りだね。大体トドメをさすのはレオン。私は、回復したり、目くらましをしたり、補助の役目が多いかな。つまり、何が言いたいかっていうと。」

ストリペアの真っ直ぐな瞳がリーズに向けられた。

「私たちを信頼してくれない?」

「信頼、はしていますが……。」

リーズが言葉を詰まらせると、ストリペアは不思議そうに首を傾げた。

「今、リーズさんは奥に行くかどうか迷ってるよね。でも怖い。」

「……はい。」

リーズは小さく頷いた。

「もしリーズさんが竦んで動けなくなったとしても、私たちがなんとかする。できる実力もある……と思ってる。」

「でも、ヒューイさんもいますから。」

非戦闘員が二人もいたら、足手纏いになるだけだ。リーズの視線の先にいる、そわそわと落ち着きのないヒューイを、ストリペアもチラリと見る。

「あれは、場合によっては気絶させても外に連れ出す。興奮しすぎて魔物に近づきすぎても危険だからね。」

「リーズさんも元は冒険者だったんでしょ?ペルーシャから聞いた。」

「王都の近くでしか仕事をしていませんでしたけどね。」

「探査スキルもあるって聞いた。無理をさせたい訳じゃないけど、もし行きたい気持ちがあるなら、一緒に奥に入ってみない?」

逡巡するリーズに黙って聞いていたレオンが口を挟む。

「リーズ。無理はしなくていい。無理に頑張って心を壊した冒険者も多い。怖いと思うのは、自分の心が危険を知らせているのだ。そこを無理をするのは無謀でしかない。」

「そうだよ。生きてないと報酬も貰えないからね。」

ミカサが、軽く付け加える。

「ただ、一歩を踏み出す為の援助が欲しいのであれば、いくらでも力は貸そう。もちろん危険だと思えば、私たちもすぐに引く。」

「今回は見るだけですよ。倒されては困ります。」

ヒューイが口を尖らせながら言う。

「襲われてもそれが言えるのかい?なんならあんたを生贄にして逃げてやろうか。」

クリシュナの容赦ない言葉にヒューイはきゅっと口を結んで黙り込んだ。

「おそらく氷狼は陽の当たる場所には出てこない。いざとなったらそこの場所まで逃げれば大丈夫だろう。」

レオンが鉄格子の向こう、洞窟の入り口を指し示す。

「少しずつ進みながら、魔物が来たら、可能な限り確認しながら入り口まで後退する。それを繰り返すのがいいだろう。」

「賛成!」

ミカサがおどけて手を上げる。

この人達なら、大丈夫なんじゃないだろうか。リーズは思った。魔物の怖さを知っていて、それでも少しずつ前に進んでこうとしている。魔物との戦い方も熟知している。だからこそ、高ランクに上り詰めたのだ。


ーああ、これが信頼するってことなのか。


ストリペアの言葉が少し理解できた。

「私も、行きます。皆さんとなら、進める気がしました。」

「そうと決まったら、そろそろ行きましょう。」

ヒューイが立ち上がる。もう待てなかったらしい。

リーズ達はテントを出ると、鉄格子の前まで行く。今度は鍵をすんなりと開けることができた。


洞窟の前で、リーズは探査スキルを使った。今の所近くには魔物はいない。洞窟の中なのかも、外なのかもよく分からない。


「洞窟は少し下っています。この前は明かり玉を奥に投げたら魔物があっという間に走ってきました。」

「足が速いのか。うーん。」

ミカサはしばらく思案すると、ストリペアの方を向く。

「ランタンはいくつある?」

「10個くらいはあるよ。」

「じゃあ、最大の明るさにして、洞窟に5歩くらい入ったところにまずは置いてみよう。」

「それなら私が行こう。5歩だね?」

クリシュナがランタンを一つ手に取ると、カチカチと回らなくなるまでネジを回す。周りが明るいからそれほど感じないが、それなりに明るい。

クリシュナはランタンを片手に、5歩ほど進んでランタンを置くと、すぐに戻ってくる。今まで暗くて見えなかったが、やはり洞窟の中の道は下っていた。見える範囲にわき道はない。周りの壁には氷石がびっしりとついていた。

「おお、氷石がたくさん!」

嬉しそうにヒューイが洞窟を覗き込む。

「中に入っちゃダメだよ。しばらく様子を見る。」

「本当に慎重なんですね。」

リーズは、もっと中へと進んでいくものだと思っていた。

「当たり前だよ。死んでから後悔しても遅いからね。」

「だから、朝早く出るんだよ。」

レオンが早朝を希望した理由が、今ようやく理解できた。

「……なるほど。」

リーズの探査スキルでも、魔物に動きはない。

「よし。じゃあ、また5歩進んだところに、ランタンを置いてきて。」

ミカサの合図でクリシュナが動く。

「わかったよ。」

更に5歩。そしてまた5歩。

5個目のランタンを置いた、その時だった。リーズの探査スキルが魔物の動きを捉えた。

「来ます!」

リーズの緊迫した声がひびくと同時に、クリシュナは今まで以上の速度で洞窟の外へと駆け戻ってきた。その頃にはレオンはすでに剣を抜き放ち、ストリペアはヒューイを掴んで後ろに下がっていた。リーズもストリペアの横まで後退する。

グルグルと唸り声を上げながら、魔物がその姿を現した。同時にヒュウヒュウと身を切るような冷気が襲ってくる。やはり明かりを嫌うのか、魔物は5個目のランタンの手前でぴたりと止まった。天井すれすれまである巨大な身体には、氷石がびっしりと付いており、暗闇の中で目だけが爛々と赤く光っていた。






何とか氷狼までたどり着きました。レオン、便利に使われてますね。



読んでくださり、ありがとうございます。

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