お正月
スカーがホクホク顔で部屋に帰ってくる。
『ふーんふーん、ふ〜ん』
機嫌がいいのか、楽しそうな鼻歌を聞かせてくれた。
「どうしたんだ?」
近づいて来るスカーに対して、椅子から声を掛けてみる。
「アステル先生にね、こっちの行事を教えたら!」
……なるほど。
どうやら、先生は何かをしていたらしく「はいはい、黙っててください」面倒くさそうにお金をくれたみたいだ。
「えらいな! 騙しを覚えるとは!」
「騙しじゃないもん……」
「そうなのか?」
心外だと言わんばかりに睨んできた。
「リュウキもちょーだいっ!」
両手を皿のように合わせてえへへと笑う。
「はあ?」
「おとしだま!」
「ああ、正月か」
そんな日もあったなと思いながら。
コインを数枚、チャラチャラ落とした。
「えへへー」
喜んでくれるならまあいいか。
『そんな行事があなたにあるとは』
椅子から立つと机の上にサラが!
「いつからそこに居たんだ」
「つ、つくえにのっちゃだめ!」
サラが申し訳なさそうに机から下りる。
土足で乗りやがって。後で拭くのは俺なんだぞ。
「リュウキくん、私にも」
「え……」
「おとしだま、ぜひ貰ってみたい」
仕方ない、くれてやろう!
スカーの同額あげることにした!
「それでは失礼」
サラがボワッと消えていく。
「あげなくてもよかったのにー」
「別に損するわけじゃないからな」
しかし、俺も貰う側になりたかったぞ。
アステル先生にねだってもあしらわれそう。
「んー」
「どうした?」
「スカーも、お出かけしてきてもいーい?」
「気をつけろよ」
スカーはタッタッと急ぐように玄関を飛び出た。
……静かになったな。
代わりに、こっそり見てくる影が一つ。
「居るんだろ、カロン」
「お分かりで」
カロンが隣の椅子に座って腕を組み始める。
「まさか、欲しいのか?」
『そんなまさか? 一部始終を見ていたとしても、お金が欲しいほど子供ではありませんので』
めちゃくちゃ欲しそうなんだけど!
「本当に?」
「ちょっとは、貰ってみたいですが……」
仕方なくコインを差し出してあげた。
「い、いえ」
「気にするな」
「そうじゃなくて、コインもダメなんです」
鉱石負けするんだっけ、面倒だな。
「じゃあどうする」
「この中に」
そう言って前にあげたプレゼントのネックレスを指で抑える。
皮袋の部分を開くと。
「入れてください」
そう言って前のめりに近づけてきた。
「わかった」
強調される胸に目を逸らしてコインを入れた。
見たら怒られるからな!
「ちょっと嬉しいですね」
「良かったな!」
「ありがとうございます」
お礼を言われたら俺も嬉しい。
『ただいま〜』
スカーがちょうど帰ってきた。
「おかえり」
「おかえりなさい」
俺に近づくと「手出して!」って言ってくる。
「なんだ?」
「いいから! お手!」
「犬じゃないんだぞ」
手を出してみる。
「はい、おとしだま!」
そう言って渡されたのは赤が混ざった白い玉。
ビー玉か?
「なんだこれ」
「スカーみたいだし、お店の人がねー」
髪の色と目の色を考えると、たしかにスカーっぽい。
「この石をあげた人には魔法が掛かるんだって!」
「どんな魔法が掛かるんだ?」
『ひ、ひみつ! 言ったら、効かなくなるから……』
お店の人が言ってる時点で破綻してるだろ。
「そうか、ありがとな」
「リュウキも欲しそうだったから、あげただけだもん!」
「俺のこと分かってるな〜」
「そこまで分かってないし!」
プンプン怒られたけど、嬉しいな。
「よしよし」
お返しにスカーを撫でてみる。
「ほわわ……」
そんなことを言いながら目を閉じると、俺の手の動きに合わせて揺れ始めた。
「はっ!」
スカーがなにかに気づいてスッと俺の手から離れてしまう。
「どうした?」
「なでなで禁止!」
「そんな悪いことしてないだろ」
「気持ちよくて、ドキドキも、するから、きんし……!」
スカーの考えてる事はよくわからないな。
「健康に悪いもん……」
「分かった分かった、もう撫でないから」
「チューなら、いいよ」
したいだけだろ。
「いや、いいわ」
「むう……」
それからは普通に過ごして。
「りゅうき、おねがい」
暗い部屋でスカーにおねだりされている。
「どうした?」
「やっぱりなでなでして……」
「禁止じゃないのか?」
「きんしだから、こっそりなでなで」
スカーが周囲を見てから「今!」って呟いた。
いつでもいいだろって思いながらスカーの期待に応えて撫でる。
「きもちいい」
「よかったな」
目を閉じて嬉しそうに唸ってる。
「リュウキは、いまから、いえすって答えるから」
「ほう」
「質問、するね」
スカーが俺の手を掴んで目を開ける。
「リュウキは……スカーの事が」
「ことが?」
「す……」
俺の手を抱きしめて見つめてくる。
「す、少しでも好き……?」
「なんだそれ」
「こたえて!」
ポフッと分かりやすく顔が赤くなる。
「イエス」
「魔法は本当だったんだ〜」
「しょうもない魔法だな」
「そ、そんなわけないもん!」
「少しだけとか、当たり前だろ?」
『スカーの気持ちなんてわからないくせに!!』
さっきまで握られていた手がポイッて捨てられる。
「魔法が効かなかったら、怖いんだもん……」
そう言って顔を覆うと肩を震わせる。
「少しでも、少し、でも」
スカーの声が途切れる。
涙で何も言えなくなったスカーの気持ちを汲みたくて。
「ごめん」
抱きしめた。
「……」
「もっといい魔法、見せてやるから」
スカーの耳元で魔法を唱える。
『俺はスカーの事が、大好きだ』
「……」
特に反応がない。
やらかしてしまったと身構えたが。
『す、スカーも……大好きだから……』
銀髪を揺らして首元に頬ずりしてくれた。
「本当か?」
「うん」
答えたスカーの目はとろーんと落ちてしまいそうなほど細くなっていく。
「寝そうだな」
「リュウキの上に乗って寝たい」
ベッドで仰向けになるとその上にスカーが乗ってきた。
「しあわせ……」
重くないし、スカーがいいならそれでいい。
「また明日な」
寝て起きて、届け物があると早起きのスカーに言われる。
机に置かれた箱の中に菓子折りと一枚の白い紙。
黒い文字で『私からのお年玉は愛、なんてどうでしょうか』と書かれている。
「なにこれー」
「あ」
スカーがその紙を俺から奪った。
「むう……」
そして読まれた。
「なぁに、これ!」
スカーの魔法で紙がユラユラ燃えて消える。
「いや、その、なあ?」
「リュウキはスカーの愛しか受け取ったらダメなのに!」
それはちょっと制限がきついぞ!
バレンタインデーに金髪ちゃんからチョコ貰いたい!
『もっといい魔法、スカーが見せてあげる!!』
スカーは頬をプクプク膨らませ、右手から魔法の雷と氷を浮かせる。
や、やばい……!
「助けて、サラ!」
「まてー!」
咄嗟に逃げると雷がバチバチ歌い始めた。
機嫌が悪いのは鼻歌よりわかり易かった。