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インタラプト  ― 県立B高校三年二組一同のケース

三人称形式

 そこはただ真っ白な空間が広がっていた。地面もなければ空もない。白以外何もなかった。

 その何もないところに、まるでフィルムのコマを飛ばしたように、突如として三四人の少年少女の姿が現れた。

 男子一八人、女子一六人。

 彼らは全員高校で同じクラスに所属していて、つい今しがたまでホームルームの時間で教室にいた。ところが、どういうわけか教室の床一面に光る奇怪な紋様が現れ、光が飽和した。その直後、全員ここに現れたのである。


「え?」

「へ?」

「……むにゃ?」

「おわっ!?」

「いてっ!」

「きゃああっ!」


 教室では全員着席していたのだが、現れたのは身一つ。椅子と机が消え失せてしまったために、体を支える物がなくなり、一斉に姿勢を崩して尻餅をついていた。

 教室には担任教師もいたのだが、今ここには彼の姿は見当たらなかった。


「いたたたた……なにこれ?」

「何だ? 何があった?」

「どこだよここ?」


 辺りを見回して、ようやく場所の異様さに気づいた。


「真っ白い部屋……?」

「まさか、これ……」

「異世界召喚だったり、とか……?」

「ま、まさかねえ……ははは……」

「あたしら死んでない……よねえ? 転生じゃなく召喚?」

「あははは……」


 彼らの中には無料のネット小説を読んでいる者も多く、異世界転移やら転生といったネタはわりと人気であった。そのため、物語によくあるシチュエーションと現状の類似に彼らが思い至るのはすぐだった。

 ただ、そうした物語に馴染み、憧れてたりはしても、いざそれを現実に自身で体験するとなると困惑するほかなかった。反応に困って、自然と乾いた笑いがこぼれる。

 その時、


「そのまさかじゃよ」


 しわがれた声が響いた。

 いつの間にか、彼らの前に一人の老人が立っていた。

 老人は髪の毛から髭、眉まで真っ白で、甚平のような真っ白い服を着ていた。風体としてはたしかにそこらにいそうな老人なのだが、何か曰く言い難い異様な存在感のようなものがあって、見ているだけで畏怖を憶える。


「まさか、か、神さまとか!?」

「あーいや、わしは神ではないな。全知全能でもないし、何かを司ってるわけでもないしの。一応、ヒトよりはずっと大きな力を持ってはおるが、そんだけじゃな」


 老人の放つ気配はともかく、喋りはわりとフランクだった。


「わしには名前とかはないからの、爺さんとかなんとかテキトーに呼んどくれ」

「は、はあ……。では、お爺さんということで……」

「なんなら『ロリ』の姿のほうがええかの? 『のじゃロリ』と言うんじゃったか。この場所もわしの姿も、お前さんらに理解しやすいかと思うてこうしとるだけじゃしの。『キャラ付け』というやつじゃな。わりとアバウトじゃ」

「「「「ロリ!?」」」」

「「「「「サイっテー……」」」」」

「「「「ぐはっ!?」」」」


 不意に老人の口から出てきたサブカルワードに、特殊な嗜好の者たちが食いついたが、女子一同の超低温目線の集中砲火を受けて即座に沈黙させられた。


「いや、今更『ロリ』になられても、中身がこのお爺さんだと思うとちょっと……」

「本来の姿とかはどうなんですか?」

「直視すると正気度(SAN値)が下がるから、やめたほうがよいじゃろう」

「……今の姿でお願いします」


 結局、老人の姿のままでということに落ち着いた。

 とりあえず、一同の中では比較的コミュニケーション能力が高めな学級委員長が代表で対応することになった。


「ええと、僕らは県立B高校の……」

「ああよいよい、お前さんらの名前も身元も把握はしとるよ」

「そうなのですか……?」


 情報として知っているのと、対面して自己紹介するのとは別なのではないかと思うのだが、その辺の感覚もこの老人にとっては違うのかもしれない。


「それで、ここって何なのでしょう? 僕らさっきまで学校にいたはずなんですが、気がついたらここにいまして……」

「それなんじゃがな……。まずは、これを見とくれ」


 老人が右手をかざすと、手の先に球体の映像が浮かび上がった。ホログラムのようなものだろうか。大きさはバスケットボールくらい。どこかの惑星を詳細に映し出しているのか、緑と茶の大地と、海らしき青い領域、上空で大きく渦を巻く雲などが見える。地形は地球とはまったく異なるものだった。


「これは、お前さんらからすると異世界にある、とある惑星なんじゃがな。この星におる者たちが、魔法でよその世界の人間を呼び寄せようとしておってな。まあ、ぶっちゃけ『ラノベ』で言うところの『異世界召喚』というやつじゃな。

 それで、お前さんらは召喚されとる最中で、ここはお前さんらの世界とその召喚先とを結ぶ中間地点、と言えばいいかのう」


 説明がものすごく端折られた。もっとも、厳密に異世界とは何か、魔法やら召喚やらは何かといった辺りについて理論から詳細に説明されても、困るといえば困るのだが。


「わしは、この召喚についてちとお前さんらと話をしておきたくての。それで召喚に割り込みをかけて、お前さんらをこの中間地点に留め置いておるのじゃ」


 そんなことができるというのは、やはり強力な力を持ってるのだろう。


「その、お話とはどのような?」

「うむ。お前さんらを召喚したのは、邪教を信奉する連中でな」

「邪教!?」

「連中はどういうわけか、わしを外宇宙の邪神と勘違いしておってな。それで、わしを地上に呼び出すための『生贄』として、お前さんらを召喚しとるのじゃ」

「い、生贄!?」

「うむ。あちらではすでに生贄として何百万もの人々が連中の犠牲になっておってな。それでもわしを呼ぶには足りず、今度は異世界の者、つまりお前さんらを生贄に捧げるつもりじゃ。異世界の者は転移してくると膨大な魔力を持つのでな、それで不足分を一気に補おうとしておるのじゃ」

「そんなことのために!?」

「その、生贄って、どんな風に?」

「手足を台にくくりつけて、胸をかっさばいて心臓を抉り出しておるな。生きたまんま」

「ひいっ!?」

「このままだと、転移直後にお前さんらは捕らえられ、連行され生贄として殺されるじゃろう。あちらで連中は準備万端で待ち構えておるよ」


 異世界召喚と聞いて、チートでオレTUEEE的な展開を期待した者たちも一部いたが、現実を聞かされ驚愕していた。


「ど、どうしたらいいんですか!?」

「万が一わしが地上に呼び出されたりすれば、それだけでわしの意思に関係なく漏れ出た力で地上は大惨事となる。わしとしても、そんな事態は阻止したい。

 そこで、お前さんらの手を借りたいのじゃ」

「手を貸すって、僕らただの学生で、邪教とかそんなヤバいの相手にどうこうするなんて不可能なんでは……」

「なに、お前さんらに特殊な『力』を授けようと思ってな。お前さんがた、そういうの好きじゃろう?」

「「「「『力』!?」」」」


 ラノベに詳しい連中が食いついた。


「そ、それってチート能力!?」

「まあ、あの世界の者がどんなに努力しても得られん力をポンと渡すのではあるから、ある意味ズルをしとるようなものかのう……。その『力』を使って邪教の者どもを打ち倒せば、元の世界に帰る道も開けるじゃろう」

「ほんとですか!?」

「でも、そんな力があるのなら、お爺さん自身ではやれないんですか?」

「あいにくわしは力の細かい加減ができんでのう。あちらで力を振るうと、星ごと吹っ飛びかねんのじゃ」

「なるほど。具体的には何をすればいいんですか?」

「まずは、召喚先でお前さんらを捕らえようとしとる連中をどうにかせんとな。

 そして、帰還の転移陣を構築する。作り方は後で教えるが、ただ、これにはある宝珠が必要での。宝珠は邪教の本神殿に隠されておるので、これも奪ってこなければならん」

「うわぁ……」

「もう一つ、帰還には制限時間(タイムリミット)があってな。転移には星辰の並びが関係しておって、時間がたつと星辰がずれてしまい戻れなくなる。次に星辰が揃うのはおよそ一五〇年後じゃから、その頃にはお前さんらは生きておらん。今回を逃せば次はないじゃろう。無論、連中の儀式を阻止できねば、その時点で終わりじゃが」

「猶予はどのくらいなんですか?」

「あの星の一日半。自転周期が違うので、お前さんらの時間で言うとおよそ四〇時間じゃな」

「短かっ!」

「そんだけで、敵を倒し、宝珠を探して奪って、転移陣作らなきゃならんのか……」


 なかなかに忙しいスケジュールとなる。平和な国の高校生にとっては些かハードだ。


「じゃ、じゃあ、さっさと行かないと!?」

「ここにおる内は慌てんでもよいよ。ここは外とは時間の流れが違うからの。ここで何年か過ごしても、あちらでは一秒たりとも時間は進んでおらん。ここで十分な準備をしていくがよい」

「なるほど」

「わしが与える能力も万能ではないからの。使い方をみっちりと練習するとよい。あちらの地図や邪教の者どもの配置なども見れるから、存分に作戦も練っとくれ」

「でも、戦うって、その邪教の人とかを殺したりしないといけないんですか? 逃げちゃうのってダメなんでしょうか……」

「それに、今はやれるって思ってても、いざとなったらビビっちゃって動けなくなりそうな……。ゲームじゃないんだし……」


 本当に邪教集団と争うことになれば、ケンカレベルでは済まないだろう。相手は本物の殺意をもっている。女子はもちろん、男子からも不安の声が出るのは当然だった。


「まあ、そう思うのも仕方はないのう。じゃが、運よく戦いを避けて逃げ延びられたとしても、逃げ場はあの星の中にしかない。連中は決してあきらめず、どこまでも追ってくるじゃろう」

「そんな……」

「理不尽極まりない話じゃがな。生き延びて日本に戻りたければ、殺し合いは避けられぬであろうよ。

 まあ、どうしても手を汚したくないのなら、現地に残留してなんとか逃げきるしかないじゃろうな。あちらで生きるのに必要な最低限の力は与えよう。

 わしとしては、お前さんらの意思を尊重したい」


 その時、やや神経質そうな顔立ちの男子が口を挟んだ。


「オレはあちらの事情何も知らないんで、爺さんの話だけでは判断できねえわ」


 一方の意見だけでは判断を誤る恐れがある、というのはそれだけ聞けばまっとうな話であるのだが。


「連中の言い分を聞いてみるかの? あちらの言葉を話せるようになるスキルは与えてやれるが、なんせあやつらは同じ言葉を話しておっても、会話が成立せんからの。期待しておるような言葉は聞けんじゃろうがの。

 そもそも話し合いで決着をつけられる相手であれば、あの星の者たちだけでとうに片がついとるじゃろう。宗教団体、それも邪神なんてものを崇めておれば独善も極まっておる。お前さんらの世界でも、似たような事例は山ほどあるんではないかの?

 まあ、直接聞かんでも、この場所ではあちらで過去から現在までに起きたことすべてを覗き見ることができる。それで連中の所業や、目論見も知ることができるじゃろう。そちらを見てもらいたいがの」


 だが、彼は老人の答えにも満足せず、しつこく食い下がった。


「その覗き見ってのは改ざん不能なのか?」

「ふむ……、部分的にならやってやれないこともないが、どこかしら矛盾は出てくるじゃろうな。完全なのは不可能じゃ。

 ただ、そこまで疑われてしまっては、残念じゃがわしとしてはどうにもならんの。信じるも信じないもお前さんらの自由じゃ」


 話があまりよろしくない方に流れるのを危惧して、委員長が止めに入った。


「おい、ちょっと来い」

「な、なんだよ!?」

「いいからっ」


 委員長は一同から少し離れた場所に引っ張っていった。


「お前どういうつもりだ? そこまで疑ってるのはなんなんだよ」

「こういう転移モノとか転生モノじゃ、神サマが騙してるパターンも多いんだよ」


 彼はニヤリと笑みを浮かべて、自信たっぷりに答えた。


「おまっ、小説と混同してるのかよ!?」

「当たり前だろ!? あのジジイ、ぜってーなんか隠してる。悪人だから殺して来いって、胡散臭いにもほどがあるわ」

「根拠薄弱すぎんだろ。それに、他に戻る方法とかあるのかよ?」

「せっかくの異世界転移なのに、急いで戻るとか信じらんねえ。チートスキルももらえるってんなら、オレはあっちの世界で暮らすわ。そんでスローライフでチーレムだ!」


 彼は老人の言葉を信じないというわりに、スキルだけはちゃっかりもらう気でいるようだ。

 なお、彼は自分に都合よく解釈しているが、老人は現地に残留するなら「生きるのに必要な()()()の力」を与えるとしか言っていない。


 帰還を目指すなら短期決戦となり、一時的に強大なスキルが使われてもその影響は局所的で、長い目で見ればさほど大勢に影響はない。

 それに対し、残留して長期にわたってスキルを行使するとなると、強大なスキルは影響が大きすぎる。

 そのため、老人は残留組にはそこそこの性能のスキルしか与えないし、それでも裏をかいて問題を起こした場合にはさらに制限を加えるつもりであった。帰還組が失敗して居残った場合も同様である。

 彼が望んでいるような『異世界チート無双』は成立しないのだった。

 恐らく、転移先となる邪教信者の巣窟からどうやって脱出するかも考えていないだろう。


 彼はもともと思い込みが激しいタイプで、協調性にも欠けていた。これまでも彼はいろいろと揉め事を起こしていたのである。その上、彼の心は小説のような展開への期待でいっぱいとなっていて、耳を貸そうともしない。


 委員長は面倒くさくなって、説得をあきらめた。委員長もそこまで辛抱強くはないし、何が何でも全員揃って帰還しなければならないわけでもない。所詮、ただ同じクラスに所属するだけの赤の他人なのだ。彼のことまで責任は持てないし、そんな義理もない。

 日本に戻れたとき、彼だけが行方不明となるだろうが、そこは全員で口裏を合わせるしかない。懸念といえばそれだけだった。


「わかった。そこまで言うなら止めない。ただし、帰還組の邪魔だけはするなよ」

「ああ、はいはい。オレのことはほっといてくれ」


 二人は老人のところへと戻った。


「話はついたかの?」

「ええ」

「オレは残留するんで、よろしく」

「わかった。他に残留を希望する者はおるかね?」


 老人が問うと、二人の男子がおずおずと手を上げた。


「よかろう。今ここで転移させてもよいがどうするかね? どのみち、あちらでは全員同時に出現することになるが」

「じゃあ、オレは先に行かせてもらうぜ。ここに残ったってしょうがねえ」


 しかし先行するのは彼だけで、他の二人は帰還組が戻るまで作戦に協力することになった。


「よし。ではお前さんだけ送るぞ」

「おう、やってくれ。 ……あ、スキルはどうな」


 彼が何か言いかけたが、言い終える前に彼の足元に奇怪な紋様が浮き出て、彼の姿は消えた失せた。


「……あの、最後にあいつ何か言いかけてたみたいですが」

「んー、まあ、必要なスキルは持たせたしの。大丈夫じゃろ」

「そですね」


 皆、この時点で彼について考えることをやめた。


「では、残りはみんな、お爺さんの提案に乗ることにしますんで、これからのことについて詳しく相談させてください」

「うむ」





 白い空間で七ヵ月後。


 一糸乱れず八×四列で整列したクラスメイトの前に、指揮官となる委員長が進み出た。

 全員お揃いで野戦服にヘルメット、ブーツなど陸上自衛隊の個人装備に身を包み、武装は八九式小銃やM4,MINIMIといった現代兵器を中心に揃えていた。

 列の隣には九六式装輪装甲車と軽装甲機動車が置かれていた。


 これらの装備は、老人から与えられた能力のうちの、物質を生成する能力を利用して造られたものだ。

 敵邪教集団は魔法を使ってくるため、当初はこちらも魔法で対抗する案も出ていたが、慣れない魔法で戦うのは分が悪いと思われたため、どうせ付け焼刃ならばと地球の銃火器を使用することになったのだ。魔法をメインで使用する者は六人に留まっている。


 当然ながら、物だけあっても、素人のままでは使いこなせない。

 そこで、教官役も用意することになった。この白い空間限定であれば、物だけでなく実在の人物の複製も作り出せた。そこで、日本にいる現役の陸上自衛官を複製して、指導教官役をお願いしたのだ。


 教官は人格もそのまま複製されたため、高校生に軍事訓練を施すことに難色を示したが、結局は引き受けてくれた。

 なお、教官はあくまでこの場限りの複製であって、元になった人物にはなんの影響も出ないようになっていた。また、召喚先に連れて行くことは不可能だったので、やはり実際に戦うのは高校生たち自身でやらなければならない。


 やるとなれば、訓練は実に厳しいものとなった。

 体力向上のための基礎訓練はもとより、舞台となる転移先の建物や本神殿なども実寸で作られ、敵兵のコピーも現実とまったく同じ場所に配置された。それらを使って念入りに作戦を立て、演習を繰り返してきたのである。

 まだまだヒヨっこどころか卵野郎な印象は強く、本物の軍人には及ばないが、それでも充分実戦に耐えられるところまでは鍛えられた。

 まあ、そこまでしないと、帰還がままならなかったのだが。


 現在彼らが骨の髄まで軍隊ノリに染まっているのは、教官の指導の賜物といえる。


「県立B高校三年二組三三名、全員揃いました!」


 老人と教官に対してビシっと敬礼しながら、委員長が報告した。

 それを受けて、教官は訓示を述べた。


「この七ヶ月間、諸君らは極めて厳しい訓練を耐え抜いてきた。そして、いよいよ作戦を決行する時が来た。諸君ならばこの作戦を成功させられると、私は確信している。しかし、決して油断はするな。全員、生きて帰れ。私からは以上だ」


 続いて、委員長が作戦のおさらいをする。


「改めて作戦を確認する。まずC班が拘束結界の解除。結界破棄後、A班B班は高レベル神官のみ排除しつつ、車輌にて本神殿に向かう。C班はそのまま帰還魔法陣の構築作業に移る。D班は召喚の間の残敵を掃討・制圧し警戒にあたる。E班は周辺地域の敵集団を排除。

 残留組はそこでお別れだ。全速で作戦区域から離脱せよ。

 本神殿ではA班が教団の主力排除と時限式大規模破壊魔法の設置、B班は宝玉の奪取。その後速やかに本神殿から撤収、帰還魔法陣に集合。

 全員、マップと敵の配置は頭に入っているな。神官、特に召喚技術に関わっている者、テレポート能力のある者は絶対に逃すな。確実に仕留めろ。これまでの訓練どおりにやれば問題ない。

 三〇時間以内にすべてを終わらせて転移の間に集合、そしてみなで日本に帰還する。いいな?」

「「「「「「「「おーーーっ!」」」」」」」」


 委員長は老人と教官に向き直った。


「お世話になりました」

「なに、わしにも必要があってのことじゃ」

「死ぬなよ」

「はい! では、行ってまいります」

「うむ。武運を祈っておる」


 彼らは一様に敬礼すると、装甲車などをアイテムボックスに回収し、全員で転送の紋様の上に乗った。

 そうして彼らは召喚先へと向かった。



「これで、良かったのですか」


 残った教官は老人に尋ねた。


「心配かの?」

「あのような未来ある若者たちを戦場に送り込まねばならないとは……。私自身で行ければどれだけ良かったか」

「それはわしにもどうにもできぬ。能力、装備、訓練、与えられるものはすべて与えた。あとは彼らの無事を祈るしかないのう」


 そう言って老人は疲れた様子で溜息を吐いた。


「では、私もそろそろ失礼します」

「うむ。ご苦労じゃった」


 教官が敬礼をすると、その姿が薄れ、消えていった。

 ただ一人その場に残った老人もまた、ふっとその姿が掻き消えた。

 そして、何もなくなった白い空間がフェードアウトしていった。





 カースウェル暦一〇二九年、邪神を信奉するクスゥールー教国の首都が一夜にして消滅した。首都の本神殿があった場所を中心に巨大なクレーターが形成されており、都市の痕跡は完全に消え去っていた。

 首都消滅の原因は定かではないが、以前から教国が邪神を召喚しようと画策していたこと、常人ではありえないような膨大な魔力が使われた形跡があることなどから、教国は自ら呼び出した邪神によって破壊されたのではないかとの見方が有力である。もっとも、実際に邪神を目撃したという報告はない。


 国の中枢を失った教国は、かねてより対立していた周辺諸国から攻め込まれ、滅亡した。邪教も解体され、以降二度と日の目を見ることはなかった。

 この一件は、愚か者たちが自滅した話として、長らく語り継がれることとなった。


【了】


まとめ

・召喚理由が、勇者を召喚するためとは限らない

・帰還にはタイムリミットあり

・ラノベの知識があてになる保証などどこにもない

・協調性って大事ね


場面転換や動きがほとんどなくて、会話だけが延々と続くところが多いため、地の文で難儀しました。なんかこれでも描写が全然足りてないような気が。


※教官が関係するところについてちょっと修正しました。


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