表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

第6話

 

 それから一週間が経った。この日は土曜日。しかし、大会前ということで、部活は休みではない。コートではレギュラー同士の練習試合が行われていた。

 コートに立っているのは、藍と園生だ。二年生レギュラー同士。コートの周りには他のレギュラー陣や部員らが試合に注目している。

 サーブは園生からだ。


「行くぜ、藍っ!」


 高く上げられたボールから強烈なサーブが来る。左サイドへと打たれたボール。藍は難なく打ち返した。園生も負けてはいない。


「ちぃ」


 コーナーギリギリへと打ち込まれたボールを園生が追いかける。が、届かない。コントロールという点では、園生は藍には敵わなかった。


「15ー0」


 審判のコールが響く。藍がポイントを取る。しかし、まだ園生のサービスゲームだ。特別なショットを打つわけではないが、着実に藍がポイントを重ねていた。

 気がつけばスコアは、5―1。


「はぁはぁ……全く、容赦ないな」

「お前相手に、必要ないだろっ」


 あと1ゲームで藍の勝利。園生は特に焦ることもなく、試合を続ける。コートの上で冷静なのは利点ではあるが、それほど勝負に頓着しないのは欠点と言えるだろう。


「はぁはぁ……園生は勿体ない」

「どうした?」

「いや」


 藍はその手に持っていたボールを高く上げて、サーブを放つ。回転がかけられたボールは、スピードに乗りながら園生の横をカーブをかけて過ぎていく。園生は一歩も動けなかった。


「ゲーム、一ノ瀬。6―1」


 ゲームセットだ。ネットに向かって歩けば、園生も同じように向かってくる。ネットを挟んで握手を交わした。


「相変わらず強いな」

「園生も真面目にやればもっと上に行けるんじゃないか?」

「俺が真面目になんて、似合わないだろ?」

「そうは思わないが……まぁいい。お疲れ」

「あぁ、藍もな」


 次の試合があるため、藍と園生はコートを出る。マネージャーからタオルを受け取り、コートの側にある木陰に座った。


「お疲れ様です、一ノ瀬君。どうぞ」

「叶先輩?・・・ありがとうございます」


 叶から差し出されたドリンクを受け取ると、叶は園生へも渡しにその場を離れた。

 コートへと視線を戻せば、掛川の試合が行われているところだった。チームのシングルス1を任されている実力者だ。藍でさえも、試合をすれば勝てるかはわからない。

 掛川の相手をしているのは、同じ三年生の松嶋浩太。チーム1の高身長を持つプレイヤーだ。高い打点から放たれるサーブは、松嶋の武器の一つでもある。実力者同士の試合は、見ているだけで学ぶことは多い。レギュラー以外にも試合を見せているのは、その為だろう。

 そうして、掛川らの試合が終わると部活は終了した。平日とは違い、まだ日が沈むまでには時間がある。とは言え、外出届けを出してまで出掛ける時間はない。

 藍はいつも通り帰ろと、ジャージを羽織ろうとすると、ブルルとスマートフォンが鳴った。長くバイブ音が響いていることから、電話だろう。画面を見れば、紗菜からだった。


「出ないのか?」

「……いや」


 着替えをしている園生は近くにいたので、電話がきていることには気がついていたのだろう。怪訝そうに顔を向けていた。出たくないわけではないが、会話を聞かれるのは面倒だ。どうすべきかを考えて、藍は通話ボタンを押した。


『あっ、藍君? 今いい?』

「後にしてほしい。急ぎか?」

『えっと……ごめん!』

「紗菜?」

『今日顔見せで、その時に光里ちゃんも来てて……飛び出して行っちゃったの! どこに行ったか分からなくて……その』

「わかった。直ぐに行く。今どこにいる?」

『駅前の』

「あぁ、いつものところか。わかった。待ってろ」

『本当にごめんっ』


 通話を切って、藍は深く息を吐いた。静まり返っていることに気づき、どうやら藍の電話が理由らしい。何の話をしているのか。相手は誰なのかということが、気になっているというところだ。だから、ここで電話に出たくなかったのだが、事情が事情なので仕方ない。


「藍、今の誰? 女の子だよな?」

「あぁ……悪い、急ぐから話をしてる暇はない。じゃ」

「あ、おいっ藍」


 多少乱雑に荷物をラケットバッグに詰め込み、話しかけてくる園生を無視してそのまま出ていく。目的地は、寮監の部屋だ。寮の入り口にある監督室にいる。

 数回のノックの後、ひょっこりと顔を出した男性に藍は頭を下げた。


「ん? 二年の一ノ瀬か? どうした?」

「急ぎで申し訳ないのですが、外出届けをお願いします」

「今からか? 時間的にどこにもいけないだろ?」

「家の事情です」

「……家の、か。まぁ、なら仕方ないな。わかったこっちで書いておく。ただし、門限は21時だ。遅れたら反省文だからな」

「はい」


 急いでいることを悟ったのだろう。寮監に礼を言い、藍は自室へと急いだ。簡単に着替えを済ませると、貴重品だけを持って部屋を出る。

 寮を出るときに、寮監が記入してくれていた許可証を持って学園の門へと走る。守衛に見せれば、外に出るための入り口を開けてもらえるのだ。

 隔離された場所というわけでもないため、藍は近くでタクシーを拾い紗菜が待っている場所へと向かった。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ