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第4話

 

 翌日。いつも通りの朝練を終えてから授業に臨んだ。

 4限が終わると、藍は移動するために立ち上がる。そこへ、園生が足早に近づいてきた。学園の生徒は皆、昼食は購買もしくは食堂で摂っている。特段用事がなければ藍は食堂で摂ることが多く、園生も食堂なので毎回誘ってくれるのだ。


「藍、食堂に行こうぜ」

「悪い。今日は、別件がある」

「別件? ……また呼び出しか?」

「あぁ」

「お前もモテるなぁ」

「男子校でそれは嬉しくないだろう」

「ははっ、そりゃそうだ」

「じゃ、そういうことだから」


 手を上げて断りを入れると、藍は中庭へと向かった。どうやら呼び出した相手は、既に来ているようだ。ネクタイの色から察するに、学年は同じ。だが、顔に身に覚えはない。

 中庭に来た藍に気が付くと、ぱぁっと表情が喜々としたものに変わる。それだけで、藍は眉を寄せた。何を言われるかは、手紙の内容とこの表情から既にわかっているのだ。


「お前が沢渡か?」

「は、はい! あの、藍様は」

「変な呼び方をするな」


 時折呟かれる呼称。主に生徒会や風紀委員会所属の幹部連中を中心ではあるが、敬称を付ける生徒たちがいる。彼らはファンクラブを自称して、男子校ならではの伝統なのか全学年生徒を対象にした人気ランキングなるものの上位者に対して異常なほどに敬ってくるのだ。非常に不本意ではあるが、藍は毎年上位ランクインを果たしている常連である。顔は整っているし、無表情であれば人形のようだと称されたこともあるが、運動部に所属している割には線は細く、見た目は華奢な印象を与えてしまう。髪や瞳の色も相まって、男女共に受けがいい容姿をしているのだ。

 こうして、呼び出されることも一度や二度ではない。


「それで、俺に何?」

「あの藍さ……その、貴方が好きです!その、どうか友人からでいいので、僕と」

「断る」

「付き合っ……え?」


 沢渡が言い終える前に、即答する。考える余地などないとでも言うように。これまでも受け入れたことなど一度もない。これからもない。それが伝わるように、強めに否定する。


「どうしてですか!今、恋人はいないのでしょう?なら」

「話はそれだけだろ」

「えっと……藍様、ですが僕は貴方をずっと」

「毎回言っているが、俺は男とそういう関係にはならない。いい加減、学習しろ」


 進学校だというのに、馬鹿なのか。同じことを何度言わせるつもりだ。藍はいら立ちを隠せない。別の人に言っているとはいえ、間違いなく藍がどういう風に断っているのかは伝わっているはずだ。だというのに、毎回毎回同じことを言わされる身になってほしい。

 沢渡の顔は、ショックを隠せないという風に茫然としている。普通の感覚でいえば、藍の方が正しい反応だ。だが、校内には少なくない同姓のカップルがいる。他人同士がそういう関係になること自体は、自由なので藍も何も感じるところはないが、己を対象にするなというのは声を大にしていいたい。だいぶ毒されては来ているとはいえ、その一線を越えたいとは思えなかった。


「ったく、話がそれだけならもういいな。じゃあ」

「あ、待って下さい! 藍様っ」


 足早にその場を去る。追い付かれないように、クラブハウス側へと回りこんで沢渡がいなくなるのを待った。こうやって追いかけられるのもいつものことだ。諦めてとぼとぼと俯きながら去る姿を確認して、藍はようやく息を吐いた。


「はぁ」

「大変だな?」

「っ!」


 急に後ろから声がしたかと驚き、振り返ればそこには風紀委員長である杜若総司が立っていた。


「風紀委員長」

「お前、二年の一ノ瀬だろ?」

「はい」

「ああいうの多そうだな、お前。目立つからな、特にその髪と目の色。元々なんだろ?」

「そうです」


 相手が風紀委員長とわかって、藍は肩の力を抜く。同情するように見ていることから、中庭でのやり取りは見られていたのだろう。困ることではないが、出来れば見ない振りをしてもらいたい。


「それでは、俺は失礼します」

「おぅ、一ノ瀬」

「何ですか?」

「言い寄られるのが嫌なら、相手を作っておいた方がいい」

「助言として受け取っておきます」


 失礼します、ともう一度頭を下げて藍はこの場を離れた。時間を取られたので、昼食を食べる時間が少ない。昼休みは半分を過ぎているため、恐らく食堂は混んでいるだろう。ならば、選択肢は一つ。購買しかない。藍は走った。


 次の面倒ごとは放課後。部活の前に時間を取られるのは、勘弁してほしいのだが呼び出した相手は先輩で生徒会。無視するわけにはいかない。

 ホームルームが終わり、いつもなら片付けて直ぐに教室を出ていく藍が、そのまま動かないので何かあったのかと楠本が振り返った。


「一ノ瀬、どうしたんだ?部活行かないのか?」

「行きたいのは山々だが、用事がある。そっちを片付けてから行く」

「用事? まさか、またか?」

「今回はわからない」

「そうなのか? いつもの呼び出しじゃなく?」


 呼び出しには変わりないが、今回は生徒会庶務が相手だ。ただ来いとしか書いてなかったので、用件については想像がつかない。


「まぁ、行けばわかる」

「それはそうだけど……気を付けろよ」

「わかっている」


 そろそろ時間だろう。藍は鞄は持たずに置いたまま、教室を出る。階段を上がり屋上の扉を開けた。








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