第2話
各学年のクラス数は7クラス。文系と理系クラスに別れており、1組から4組までが理系クラス、それ以外が文系クラスとなっている。文系クラスと理系クラスは、校舎内の玄関が異なっていた。
クラブハウスを抜ければ、登校時間ということもあり人が多くなっている。園生と藍が歩いていれば、不思議と前が拓かれていった。これもいつものことである。
ナンパ系の容姿を持つ園生と日本人離れした髪と瞳の色を持つ藍は、学校ではとても目立っていた。好意的な視線もあれば、そうではない視線もある。陰口ではなくても、目を輝かせながらひそひそと囁かれる状況に、藍は眉を寄せていた。
「下らない」
「いつものことだろ?いい加減諦めろ」
「……はぁ」
男子校ということもあり、生徒会や部活動の優秀選手、容姿が整った者などに向けて、羨望のような想いを抱くものは少なくない。一部では、ファンクラブのようなものもあるという。
藍自身、中等部からの持ち上がりであるため、こういった風潮にも慣れている。しかし、どれ程慣れていようとも不快であることには違いない。
一方で、園生は全く気にかけていない。既にあきらめていると言った方がいいのかもしれない。こういう時は、割り切れる園生の性格が羨ましいと思う。
鬱陶しい数多の視線を受けながら、藍は園生と共に校舎内へと入っていった。
理系クラスである藍たちの教室は三階だ。教室には既に多くの生徒らが登校していた。園生がガラっと扉を開ける。
「よっ、おはようさん」
「お、王子のお出ましだな。おはよう」
「おはよう、園生!」
「園生君、昨日のやつ見た?」
園生が声を掛ければ、クラスメイトらが振り返った。見た目通りの性格をしている園生は、常にクラスの中心にいる。席に座れば、直ぐに囲まれた。あまり騒ぐのが得意ではない藍は、園生が入った扉とは別の後方にある扉から教室に入る。真っ直ぐに席へと向かった。
「おはよう、一ノ瀬」
「おはよう」
返事を返して机に鞄を置き、座った。声を掛けてきたのは前の席に座っている楠本瞬。クラス委員長をしているしっかり者。サラサラの黒髪に黒渕眼鏡で、見た目は完全に優等生タイプだ。
中等部からの持ち上がり組が多い中、外部から高等部に入学したこともあり一年の時は少し浮いていたのだが、今ではクラスにも馴染み友人も多い。それは、彼の性格が起因している。世話焼き気質なのだ。悪く言えばお節介。困っている人を見過ごせないという性格をしている。それもあって藍へもよく話しかけてくる。藍は決して無口な訳ではないが、積極的に会話に加わろうとはしない。特に他意があるわけではないのだが、楠本からすれば放って置けない対象のだろう。
「一ノ瀬は園生と一緒に来ているんだろ?どうして、別々に入ってくるわけ?」
「巻き込まれるのが面倒だから」
「園生はともかく一ノ瀬にまで、あのテンションで絡むことはないと思うけど?」
「……お前は一年の時のことを知らないから言えるんだ」
一年の時は、楠本とは別のクラスだったのだ。目立っていたので、お互いに全く知らないということはないが、教室が違えば知ることは出来ない。
園生と一ノ瀬は去年も同じクラスで、部活も同じであるため共に行動することが多かった。中等部から園生の周りには常に人がいたし、当然のように園生も受けいれている。しかし、騒がしいのを嫌う藍からすれば、疲れるだけだった。空気のように扱ってくれるならまだしも、頻繁に話は振られるし持ち上げられることもしばしばだった。園生は中等部から同じ部活で、藍の性格も理解していたので時折指摘してくれたものの、それならば輪に入らなければいいと割り切り、園生は渋々受け入れてくれた。最初は、友人らも残念そうにしていたが、一年もすれば慣れる。
「それでいいのか?」
「何が?」
「何がって……まぁ、一ノ瀬がいいなら何も言わないけどさ。付き合い悪いって避けられたりしないのかなっと思っただけで」
「女じゃないんだ。そこまで気にすることじゃないだろ」
「……一ノ瀬って、そういうところマイペースだよな。尊敬するわ」
楠本が懸念していることが何かくらいは、藍も理解している。
学年が上がってから2ヶ月ほど。既にクラス内はグループ二つに分かれているのだ。園生が中心の園生派と、大人しい大和撫子風にいつも柔らかな笑みを浮かべている学年首席の西園寺徹を中心とした西園寺派。陽気なメンバーが多いのが園生たちの方で、一応は、藍も園生らのグループに属していた。
もう一つのグループである西園寺らは、大人しい連中ばかりで全く正反対だった。リーダーとされてある西園寺と園生の仲は悪いので、よく対立しているのを目にする。とはいえ、西園寺と園生の仲が悪いのは中等部からのことで、今更だ。クラスの中に二人が揃った時点で、二つに別れるのは規定路線なのだから。
また、学内には派閥というものが存在する。大きいのは生徒会執行部と風紀委員会だ。昨年まではそれほど仲違いしていたわけではないものの、現生徒会長と現風紀委員長の二人が最悪な関係であるため、今年から関係が悪化している。これも中等部からのことで、生徒らから見ればまたやってるな、程度の認識だった。各々の業務には影響しないため、周りは放置しているのが現状であり、藍自身も生徒会と風紀委員会の対立よりも、クラス内の対立の方が面倒だなと思っている。
何れにしても、どちらにも関わらずに平穏にテニスが出来ればそれで良かった。