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第1話

 

 ピピピピ。目覚ましの音が鳴り、目が覚めた。ベッドから起き上がり、時計を見れば6時を指している。目覚ましの音を消し、ベッドから降りると、そのまま洗面所へと向かった。

 顔を洗い、タオルで拭いながら鏡を覗きこむ。


「……」


 髪は黒色だが、透けば紫色に見える。そして前髪の奥から見える瞳は、蒼色だ。日本人離れしたこの色は、祖母から受け継いだものと聞いている。それだけでも人目を引くものだろう。

 濡れた前髪を乱雑に拭くと、そのまま洗面所を出ていった。

 白いワイシャツの上から紅いネクタイを締め、紺色のブレザーを羽織るとそのまま部屋の外に出る。朝早いためか、廊下は静かだった。部活動などに入っていない限りは、朝早く起きてくる生徒などいないだろう。




 ここは私立氷園(ひぞの)学園高等部。幼等部から大学部まであるエスカレーター式の学園だ。中等部と高等部は全寮制で、男子校である。基本は二人部屋だが、二年生と三年生の成績優秀者や生徒会に所属している場合は、希望者に個室が与えられていた。

 今出てきた部屋も個室。それは、部屋の主ー一ノ瀬藍がそれに当たることを示している。

 部屋があるのは、5階だ。エレベーターに乗り、2階にある食堂まで下りる。食堂は朝6時から22時まで開いており、その時間内であればいつでも食事が取れる。食券を買い、カウンターに提示すればいい。


「一ノ瀬君、おはようございます」

「おはようございます、加納さん……」


 笑顔で挨拶をしてくるのは、食堂を取り仕切っている支配人のような立場にいる加納幸久という40代の男性だ。毎朝、一人一人に声をかけているらしい。

 注文したのは、野菜とサンドイッチ。そして牛乳だ。毎朝の定番なので、食堂を任されているシェフはこの時間までに準備してくれていることが多く。提示すれば、直ぐに渡される。


「おはようございます、藍様」

「……おはようございます。どうも」


 にこやかに笑うシェフから受けとり、そのまま近くの席に座ると朝食を摂る。食堂にいる生徒はまばらで、それほど人数が多いわけでもないため食堂は静かだ。

 食事を終えた藍が立ち上がると、そこへ一人の学生が近づいてきた。


「おはようございます、一ノ瀬君。相変わらず早いですね」

「おはようございます、佐久間先輩」

「これから朝練ですか?」

「まぁ……」

「今年の大会も期待してますよ。頑張って下さい」

「……はい」


 長髪の艶やかな黒色はよく手入れされていることを示している。彼の名は、佐久間雅之。この学園における生徒会副会長であり、実家は由緒正しい華道の名門だ。常に笑みを絶やさず、誰に対しても平等に接するその姿から彼を敬愛する生徒は多い。

 しかし、藍からしてみれば苦手の部類に入る相手だった。一歩下がった位置にいる彼の取り巻き達にも頭を下げると、そのまま食堂を後にした。


 一度部屋へと戻り、荷物を手に取るとそのまま寮を出る。向かう場所はクラブハウスの近くにあるテニスコート。その隣にあるテニス部の更衣室へと入れば、そこには既に着替えを済ませラケットを手にしている数人がいた。

 藍に気がつくと、ベンチに座っているクセっ毛に茶髪ピアスをした男子が笑みを浮かべて手を上げる。


「おはよ、藍」

「おはよう。今日は早いんだな、園生」

「たまたまさ……別に良いだろ俺が早くてもさ」

「一ノ瀬よりも早いなんて、雨でも降るんじゃないか」

「言ってろ」


 あははと笑う友人らに口を尖らせながらぷいっとそっぽを向く園生龍季。いつも通りじゃれているだけだ。

 苦笑しつつ、藍も部指定のジャージへと着替える。ワインレッドにオレンジのラインが入ったジャージ。放課後ならばウェアも着るが、朝練は面倒なのもあって藍はいつもジャージのみだった。

 その手にラケットを持つと自分のロッカーを閉める。


「先、行ってる」

「あ、あぁちょっと待て俺も行くって」


 慌てて立ち上がり藍を追いかけてくる。そんな園生に他の友人たちもゆっくりと歩いてきた。


 コートは人がまばらだ。入部したばかりの一年部員がコートの準備などを既に済ませている状態なので、練習は直ぐにでもできる。ただ、指示をする相手がいないので部員たちはどうしてよいかわからずにコートの外で話し込んでいるだけだった。

 藍たちが姿を見せると、ビシッと背筋を伸ばす。


「「おはようございます、副部長、園生先輩」」

「おっす」

「おはよう」


 副部長とは藍のことだ。部長は三年生だが、副部長は二年が担う。これはテニス部の伝統だった。

 部活の開始時間まではまだ早い。部長が来るのは大抵がギリギリだ。それまでの指示を出すのは藍の役目である。


「暇なら各自で柔軟だな」

「「はいっ」」


 大体がランニングから始まるが、その前に身体を解す。朝一ということもあり、いきなり走り込むのは怪我の元となる。寮生活ということで、部活に来るまでに大した運動をしていないことも要因の一つだ。

 一年たちが柔軟を始めたのを見ながら、藍も身体を動かす。十分に身体が温まる頃になれば、部活の開始時間が来ていて部員たちも集まっていた。


「おーし、おはよう皆」

「「おはようございます、部長!」」


 ジャージを羽織って現れたのは、長身の肩にラケットを担いだ様がよく似合っている短髪の男。部長の掛川侑志、三年生だ。

 部長が現れたことで、部員らは整列する。藍もいつも通り、列の先頭に並んだ。


「今日もいつも通りだが、来たばかりの奴は柔軟だ。後は、ランニングから始める。副部長に従え。柔軟組はこっちだ」

「「はい」」


 遅く来たのは主に三年生。彼らを引率するように掛川が動くと、列も分かれる。


「ランニング組はこっちだ」


 コートの外を走ることになるが、走っている時間は後から来た連中のノルマが終わるまでとなるので、実際は藍たちの方がより多く走ることになる。テニスは体力が基本なので、藍としては文句はない。遅く来ているのが上級生なので、他の部員たちも表立っては何も言わなかった。走りたくなければ遅くこればいいだけの話なのだから。


 ランニングを終え、少しの休憩へと入る。その後は、団体戦のレギュラーと2年、3年とで分かれて練習となる。

 藍は団体戦のレギュラーだ。ラケットを持ち、同じくレギュラーである園生と共に専用コートに移動する。

 レギュラーは全部で9人。その専属のマネージャーが4人いる。テニス部にマネージャーは全部で10人だが、半分近くがレギュラー専属なのだ。異を唱える者も以前はいたようだが、今となっては当然のことなので誰も文句は言わなくなった。

 ラリー練習とワンポイント先取の打ち合いを終え、朝練は終了となった。




 朝練終了後、部室内にあるシャワー室で汗を流す。その後は制服へと着替えて、校舎に向かうのが常だ。

 着替えを終え、ロッカーを閉める。


「藍、行くか?」

「あぁ」


 鞄を手に園生は既に準備万端だった。藍を待っていたようだ。園生とは同じクラスなので、共に行くことに不思議はない。鞄を持ち、外に出ていく園生の後に続いた。



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