敗者復活戦-3
ボネルフェルトの指示で冒険者たちは次なる手を打つ。
「放て!」
ルイーゼの指示と共に、矢が放たれる。
速射。10人のアーチャーが須磨太郎に向かい矢の雨を降らせていた。
1つ目の矢が須磨太郎の盾にはじかれたのを合図に、生き残っていた3人の冒険者は武器を捨て、一斉に須磨太郎に掴みかかった。自らの命を顧みず、須磨太郎を道ずれにする決死の作戦だった。
「《シールド・ウォール》」
須磨太郎たちの前に壁が現れる。が、それもボネルフェルトの想定のうちだった。
「《オーバーマジック・レリギアス・アイジス》」
ルイーゼの魔法が壁を粉砕する。
再び矢の雨が須磨太郎に降り注ぐ。
「クソ! 《マテリアル・シールド》」
須磨太郎は自身の前方に盾を展開させる。
矢は盾にあたり、地上に墜落していく。
「どうして矢が当たらない?」
アーチャーの一人が呟く。
彼らは全員腕に自信をもつ冒険者だった。彼らにとって一つの矢を外すことは生死にかかわる問題だ。それゆえにその精度は完璧のはずだった。
しかし、矢が当たらない。何か不思議な力が須磨太郎と自分たちの間にあるように、矢は目標から逸れていく。数本だけが須磨太郎をかすめるが、その矢が刺さることは無い。
須磨太郎には矢が一切当たらないが、代わりに彼を拘束している仲間に矢が当たる。
須磨太郎の右腕を掴んでいた冒険者の頭部に2本矢が立て続けに刺さると、冒険者は倒れ、右手の拘束が解けた。須磨太郎はこのチャンスを見逃さなかった。
自由になった右腕で、後ろから自分を羽交い絞めにしている男の腋窩に短剣を突き刺す。それから、手を大きく回すと左腕にしがみついていた冒険者の頸動脈を切り裂く。
後ろを振り向いて、男の心臓を突き刺し、とどめを刺す。全て急所を捉えた攻撃だった。冒険者たちは一瞬でその場に倒れる。
この間も矢の攻撃は続いていたが、それらは一度も須磨太郎に当たることは無かった。
「ルイーゼ!」
ボネルフェルトは須磨太郎が背を向けたのを見て、チャンスを見出す。それはルイーゼも同じだった。
「《ロストライフマジック・ブラッドコールド》」
ルイーゼは魔法の詠唱と共に吐血する。杖から放たれた青色のソレは自らの生命力と引き換えに繰り出される禁術だった。魔法が須磨太郎にヒットする。エネルギーが須磨太郎の身体を通って、盾を持つ左手に集まる。
パリン。
軽快な音と共に、須磨太郎の左手が変形した。赤色の氷が腕から突き出ていた。須磨太郎の身体を流れていた血が凍ったのだった。
固体となった血により、須磨太郎の血管が傷つき大量の血が噴き出す。しかし、出血した血もまた直ぐに赤色の氷へと変わっていく。徐々に氷が手から腕へとせりあがってくる。
かなり危険な状態であった。しかし、須磨太郎の判断は早かった。
「〈ディフェンス・ゼロ〉」
須磨太郎の身体が一瞬黒色のオーラに包まれる。アイギスの盾は真っ黒な盾に変形する。須磨太郎は右腕の短剣をかかげると、そのまま左腕に振り下ろす。
スパン。綺麗に須磨太郎の左腕が切り離される。左腕の切り口からは一瞬だけ血を吹き出すと、直ぐに傷口がふさがって、徐々に回復が始まる。
「15秒だ! 15秒以内に奴を仕留めろ!」
ボネルフェルトは今までの観察から腕の再生に15秒かかると推測する。その推測は驚くほど正確なものだった。
8人の冒険者が須磨太郎に向かって飛び出す。彼らは皆近距離戦に長けているものだった。誤射を避けるためアーチャーは一時攻撃をやめたが、キャスターは攻撃を開始した。
「《ベネディック・フレイム》」
「《オーバーマジック・ベネディック・アイジス》」
「《オーバーマジック・レリギアス・アイジス》」
「《エンチャント:アイス》」
須磨太郎は短剣に属性を付与させ、自身にヒットしそうな魔法を切り、打ち消した。いくつかの魔法は須磨太郎の身体を避けるようにして後ろに流れていった。
腕が戻るまで残り9秒。
放たれる魔法の数は徐々に増えてくる。
「《マジックシールド・トリプル》」
魔法の飽和攻撃に須磨太郎が片手で対処できる限界がきて、ついに魔法の壁を展開させる。
元々魔力量の多くない須磨太郎としてはできるだけ魔力を温存していたかったが背に腹は代えられなかった。
須磨太郎が空中に展開した魔法の壁は須磨太郎に当たっていただろう魔法のみを上手い具合に防いだ。
残り5秒。
須磨太郎に向かって走った冒険者の一人がついに1m以内に到達する。武器を須磨太郎に振るうと、須磨太郎は剣で受け止める。
しかし、追撃が来る。須磨太郎は大きく後ろに回避するが、熟練の冒険者たる彼らは無論その動きを読んでいた。背後には既に武器を構えた3人がいた。須磨太郎はどうにかして攻撃をかわす。いくつかの攻撃が須磨太郎にダメージを負わせるが、致命傷には至らない。だが、冒険者たちは統率が取れていた。須磨太郎の動きを誘導しつつも魔法の射線に入らないような陣形を作っていた。そして遂に。止むことなく撃たれ続けていた魔法がついに魔法の壁を破壊する。ちょうどその時、8人の攻撃に手が回らなくなった須磨太郎はハンマーの攻撃に吹き飛ばされ、空中に浮かんでいた。
魔法による飽和攻撃を浴びれば、須磨太郎といえども無事では済まない。魔法の壁が壊されてから放たれた一つの魔法が、須磨太郎に直撃する軌道を描く。
空中にいる須磨太郎は当然回避行動をとれない。再び魔法の壁を展開する猶予は既にない。
「勝った」
ハンマーの攻撃は致命傷ではなかったが、須磨太郎を空中に浮かしていた。その須磨太郎に向かって、強力な魔法が放たれていた。壁を展開する時間は既にない。
ボネルフェルトは勝ちを確信した。
だが、運は須磨太郎を味方していた。須磨太郎の方へ向かった魔法は、雷属性の魔法だった。
須磨太郎は一か八かに賭け、麒麟を突き出した。麒麟は雷を吸収し青白く輝いた。
須磨太郎は地面に叩きつけられ、転がりつつも立ち上がると、目の前にいた冒険者の一人に向かって麒麟を投擲した。麒麟は冒険者の甲冑の間の首元の肉に刺さった。
出血をしながら、冒険者は力なくその場に崩れようとする。須磨太郎はその冒険者に接近し、ジャンプキックを食らわせる。
冒険者は後ろに飛ばされる。その身体は後ろにいた他の冒険者4人にぶつかる。
「〈サンダーボルト〉」
麒麟が青い稲妻を放つ。麒麟の刺さった冒険者は黒く焦げ、その近くにいた冒険者は電撃に巻き込まれた。
須磨太郎は左手が完全に再生したのを確認して、握りしめる。アイギスの盾はひとりでに浮遊すると所有者の元に戻る。麒麟を回収した須磨太郎は盾で残った冒険者3人の攻撃をはじき、確実にその息の根を止める。
絶対優勢の状態から逆転された光景を見て、冒険者の一部は戦意を喪失した。キャスターたちは魔力不足でその場に崩れた。
「何だもう終わりか?」
短剣の血と顔の血を服でぬぐった須磨太郎が言う。それからボネルフェルトの方へ向かいゆっくりと歩き出す。その姿は強者のオーラを放っていた。
須磨太郎が近づくにつれて冒険者たちに怯えが広がる。悪魔を見るような顔で冒険者たちは震える。
「まだだ! 諦めるにはまだ早い! 私たちにはボネルフェルトがいる!!」
ルイーゼが叫ぶ。
その声に冒険者たちは士気を取り戻す。
「そうだ! 俺たちにはボネルフェルトさんがいる!」
「失った仲間のためにもここで負けるわけにはいかない!」
「勝ってみんなで戻るんだ!」
「私たちは負けない!」
みんなを背にして、ボネルフェルトは前へと踏み出す。
「お前たち! 覚悟はいいか?」
ボネルフェルトが薙刀を天に掲げる。
うおおおおおぉぉぉぉ!!!!
冒険者たちは狂ったように雄たけびをあげる。
「『ワンフォーオール・オールフォーワン』!!」
ボネルフェルトの薙刀が仲間の想いを力に光輝いた。
「面白い。見せてもらおうじゃないか。お前たちの覚悟とやらを!」
いま、決戦が始まる。
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