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蘇らされた者たち

 ――ヘルヘイム帝国――



「楽しみだな」

 玉座の間で一人カインズは笑っていた。といってもカインズの頬に肉はない。だが、身体がまだあったときのようなあの血が巡る高揚感をカインズは感じていた。


 カインズは今日、アンデットを創造する仕事をエルニクスから頼まれている。しかし、そのアンデットを作る依代として残っているのは僅かな血でしかない。

 最強の死霊術師であるカインズといえども数滴の血からアンデットを創造するのは容易なことではない。死霊術はシビアな条件を制約としてもつ魔術である。

 通常の死霊術師ならば死後1時間以内の死体がなければ、肉のついた死体を操ることはまず無理で、元となった人間の強さが反映されない下位のスケルトンしか生み出すことができず、カインズの次に強い死霊術師でも身体の85%以上が残っていない死体からはアンデットは創造できない。

 巷ではカインズは髪の毛一本からアンデットを生み出すと言われているがそれは根も葉もないただ噂に過ぎなかった。

 それはおそらく、かつてユグドラシル連合を設立のための戦争で敵軍を前にして腐っていない右腕一本からアンデットを創造したことがいくらかの誇張を経て伝わったのだろう。カインズはそれを成し遂げたとき、自身の死霊術の限界が新鮮な腕一本までだということを直観的に感じていた。

 しかし、リゼのギフトを最大限利用した場合、それよりも上のことが可能であるということは予想ができていた。それを今、試す時が来たのだ。


「「カインズ様、御身の前に」」

 玉座の間に三人の落とし子が集められていた。


 一人は銀髪の吸血鬼、八目凪である。隣にいるのは金髪で仮面をした小柄な少女、邪眼みゆりだ。そしてもう一人は際どい服装をした婬魔、リゼ・レイラ・ラブクラリス。世界樹の落とし子は皆、人はずれた美貌を持ち合わせている。しかし、その中でもリゼの容姿は別格である。


 リゼは、サキュバス・クイーンや生理前の上位のサキュバスがギフトとして持つ【痴人の愛】をスキルとして持っている。それを使わなくてもリゼを一目みた人間は性別にかかわらず彼女に惚れてしまうだろう。人間だけでなく既に心を失ったアンデットすら上位の種族でないとリゼに魅了されてしまう。


「急に呼びだしてしまってすまない。一つ頼みごとがある」


「エルニクスから何をするかは知らされています」


「そうかそれなら話しは早い。それでは早速頼む」


 リゼは立ち上がりカインズの下に歩み寄る。カインズも玉座から腰をあげる。凪はスキルを発動する。


「『鮮血の紅玉』」

 空中に深紅の玉が浮かぶ。



「カインズ様、失礼いたします」

 目にハートマークを浮かべながら、リゼはカインズの首に腕を回し、抱きつく。


「【蛇性じゃせいいん】」

 リゼがギフトを発動させると、ピンク色のオーラがリゼを中心に広がった。


 蛇性の婬。他者のスキルやギフト、ステータスを強化する能力。

 普段からリゼはヘルヘイム帝国でそのギフトを常に発動させている。リゼの半径10000km以内にいる任意の対象1人にギフトの効果が付与されるという最強のギフトであるが、その真価はリゼと直接触れ合うことで発揮される。


「カインズ様、用意ができました」

 凪は鮮血の紅玉から真っ赤な血を地面に垂れ流す。


「では始めるとしよう『早すぎた埋葬』」


 本来、このスキルの能力は不特定多数の使者をアンデットとして召喚するというものだ。普通の死霊術と違うのは蘇生するときにのみ魔力が消費され、それの維持には何もコストがかからないことと、アンデットに自立した行動を求めることができるというところにある。

 そんなスキルにまずカインズの不死者の王というジョブの補正がかかる。召喚されたアンデットは数倍も強化されるようになり、死体の状態という条件のハードルが下がる。

 更に、アスクレピオスの杖の効果を引き継いだリゼのギフトにより、スキルは更に強化される。スキル欄の消費を前提に死者を元の生身のままの状態で生き返らすという選択が加わる。その上で、ジョブスキルに上乗せされて死体の条件のハードルが下がるようになる。



 いま、凪が垂らした血の雫数滴を依代にして、カインズはスキルを発動させた。わずか数mlのあらゆる人の血液が混ざった液体のなかから、カインズはエルニクスに指定された者を蘇生させる。


 血が膨張し、数十体の人間の形を作っていく。そして、遂にこの世に人間が蘇る。


「ここは?」

 人間たちはそれぞれ声をあげる。


「ルイーゼ!」

 ひとりの男は隣にいた女を見て声をあげる。


 それをみたカインズは男に問う。

「お前はボネルフェルトだな?」


 玉座の間に5か月前インスマスに集まっていた冒険者たちが蘇生された。


「ここはどこだ? 俺は確かに死んだはずだ」

 ボネルフェルトは戸惑っている。


「説明が面倒だ。【1984年】」

 カインズがギフトを発動させる。


 インスマスに集まった手練れの冒険者50名はカインズに支配された。カインズは直接情報を脳に送り込む。


「私の名前はカインズ・ジョージ・オーウェル。お前たちは私のスキルにより蘇生した。お前たちはある1人の男と戦ってもらう。いわゆる敗者復活戦というやつだ。その男に勝てたならば全員の命の保証をヘルヘイム帝国の皇帝として私が保証しよう。

 最終的に勝てたならば、戦いの最中に死んだものも今行ったように蘇生させる。人数は50対1。実力で言えばお前たちの総合した戦闘力のほうが奴よりも高いだろう。武器は要望にできるだけ答えたいと思っている。生前にお前たちが使っていた武器は保管してあるが、それよりも質の良い武器を用意できる。

 また、そこにいる邪眼みゆりはお前たちの種族を人間から吸血鬼に変えることもできる。戦闘が終われば再び元の人間に戻すことも可能だ。そちらのリゼはジョブ、祈る者(インヴォーカー)を習得している。リゼに望めばジョブの変更もすることができる。どうか全力を尽くして戦ってくれたまえ」


 これらの内容を冒険者たちは一瞬で受け入れる。


「サキュバスが祈る者(インヴォーカー)だと?」

 冒険者の一人が声をあげる。


 サキュバスであるリゼが聖職者の上位ジョブである祈る者を習得しているのは確かに不思議な点であるだろう。聖職者は処女であるものしか習得できないジョブだからである。

 リゼはカインズにその貞操を捧げるために直接的な捕食を避けて過ごしていたのだ。アンデットとなったカインズは性欲こそないものの、一途なリゼの想いは理解し、それを評価している。だからこそこの仲間の侮辱は腹の立つものであった。


「何か問題があるのか?」

 カインズが怒りをあらわにして聞く。


「い、いえ」


「カインズ様、吸血鬼を作るならば新鮮な生き血が必要になるでしょう。私たちがいま貯蔵している血は吸血鬼になりたての者には濃すぎると思います」

 邪眼が言う。


「そうか。ならそいつを使え。【1984年】」

 カインズから再び闇のオーラが生まれると、男は支配下に置かれた。


 男は自身の舌ベロを手で引っ張り出すと、そのまま勢いよく歯で舌を食いちぎった。


「ひぃ!」

 周りの冒険者たちはそのおぞましい光景にたじろぐ。


「わかったか? お前たちの命はもう既に失われているんだ。明日の敗者復活戦で勝ち抜いて初めて命を取り戻せる。どんな手を使ってでも全力で戦え」


 ボネルフェルトが前に進み出てカインズに問う。

「本当に信じていいんだな?」


「あぁ。カインズ・ジョージ・オーウェルの名にかけて誓おう」



 そういうとカインズは合図をしてまた猿のような鬼のような奇妙な化け物を呼びだす。それに触れるとカインズの身体は徐々に薄くなり、やがて消える。


 リゼに誘導されて、冒険者たちは巨大な客室に案内され、そこで作戦会議をするように言われた。

 その部屋には既に生前彼らが使用していた武器が置かれており、その他に真新しい上質な武器も揃っていた。


「試し切りや試し打ちがしたい場合は隣の部屋に行ってください。ゾンビ兵はいくらでも用意しておりますので」

 リゼは続けて、ジョブの変更や種族の変更の仕方を説明した。また相手が盾と短剣を持った1人の男だということも話した。


 リゼの話が終わると、ボネルフェルトとルイーゼを中心に冒険者たちは作戦会議を始めた。





昨日は投稿できなくてすみませんでした。今日からは通常更新になります。


ボネルフェルトさんとルイーゼさんがまた登場しましたね。彼らは異世界人の中ではトップレベルの実力を持っているので期待ができます。さて、どうなることやら。


いつもお読みいただきありがとうございます。

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