迷いの山-6 分析と結果
夕暮れ。山道を8人の男女が歩いていた。
途中、愛塚は何度か木や植物を観察しては何かのメモをとっていたが、ほとんど時間を食われることなく、俺たちは山を進んでいた。
「ニーナさんたちはどうやって出会ったんですか?」
文香が質問をする。
「俺の一目惚れだったんだ」
エドワードが言う。
「俺が美女を求めて各地で旅をしていた時、ある港町で俺たちは出会った。その町は今は珍しい人魚と交易をしていることで有名だった。ギルドから物質の運搬をするだけの簡単な依頼を受けてその町に行ったとき、止まった宿にいたのが町一番の美女ニーナだった。俺はニーナの美貌に一目惚れし、直ぐに告白をした。が、俺はきっぱりとフラれてしまった。ニーナは人魚と人間のハーフで町の因習により既に婚約者が決まっていたからだ。だが、俺は諦めなかった。事あるごとにニーナのいる町によっては撃沈した。だが、撃沈する分だけ、俺たちの仲は深まった。そしてとうとうニーナが結婚するという前日、俺とニーナは駆け落ちした。ちょうど100回目の告白をした時だった」
そう言われてニーナのことを改めて観察してみる。
髪は青みがかっていて、鼻が高い。肌は白く人間のものに見えるが、よく見てみると二の腕の辺りがうっすらと水色の鱗のようなものに覆われていた。確かに美人だが、文香には全く及びようもない。
今までの話を聞く限り、明るそうな性格のいい人だということはわかる。だが、その明るい性格を加味しても、俺個人の見解としては愛塚さんの方がモテるような気がした。
それはアックス同好会の様子を見ても俺一人の意見ではないことがわかる。彼らの中の1人は愛塚さんと話す時、下心が隠しきれていない。
とはいっても不快になるような下心でもないし、それが文香に向けられているものではないから、俺としてはどうでもよかった。
「文香さんたちは?」
ニーナが聞く。
「私たちはずっと同じ仕事をしてたので、それで」
「職場恋愛ってこと?」
文香が顔を赤らめながら困ったような視線を送ってくる。
「俺と文香は毎日二人で力を合わせて仕事をしていたんです。雨の日でも風の日でも、たとえ灼熱の炎天下でも。そんなある日、俺の人生を変える大きな出来事がありました。俺は全てを失い、絶望しました。でも俺が絶望のどん底にいたとき、文香は俺を救ってくれました。文香は俺に一生を捧げてくれると言ってくれました。だから俺も文香に一生を捧げると誓ったんです」
日が暮れた。
愛塚さんの言う通り、山の中にも関わらず、斜面がほぼない開けたスペースがあった。
薪を出し、火を起こす。周りにテントを張る。アックス同好会は薄い布を地面に敷いた。エドワードとニーナは二人がそれぞれ持っていた部品から小型のテントを組み立てる。愛塚さんは落ち葉を拾って来て、その上に厚めの布団を敷き、簡易的な布団を作る。
夕食はアックス同好会は干し肉を、エドワードとニーナは乾燥させたパンを食べた。愛塚さんは何も持ってきていないようだった。
「愛塚さんは何も食べないんですか?」
俺が聞く。
「私、お腹があんまり減らないんです。特性のジュースで栄養素はとっているので大丈夫ですよ」
そう言って筒の水筒の中身を見せてくる。そこには緑色に輝く液体が入っていた。植物に詳しい愛塚さんの特性ドリンクなのだろう。
俺と文香は嘘松王国の油揚げ風の携帯食品を食べた。それからカップ麺を全員分出すと、みんなに配った。
「火はどうしましょうか?」
俺が聞く。
「そうですね。ここら辺も危険なモンスターが出たという噂は聞いてませんが」
「そうですか」
この山に詳しい愛塚さんの意見だ。聞かない道理はない。
「わかりました。なら火は消して寝ましょうか」
俺たちは各々の寝床につく。
俺と文香は別々のテントだ。城でも一緒に寝たことない。文香がいると俺が落ち着いて眠れないからだ。
俺は昼間に聞いた話を再び頭で整理していた。が、やがて眠気が襲ってくるとそのまま眠りについた。
「あなた、起きて!」
文香が慌ただしく俺を起こす。
「どうした?」
文香の様子から何か緊急事態が発生したことはわかる。朝に弱い俺だが、頭をどうにか動かす。
文香に連れられて外に出ると、泣いているニーナさんの泣き声が聞こえたが姿は見えない。
アックス同好会が腕坂に集まって何か大声をあげている。愛塚さんは一人うつむいて座っていた。
「何が起こったんだ?」
「腕坂さんとエドワードさんが亡くなった」
***
――ヘルヘイム帝国――
「俺に力をくれ」
須磨太郎の願いをカインズは承諾する。
パチン。
カインズが指を鳴らすと、玉座の間の巨大な扉が開かれる。そこからエルニクスが入ってくる。
「どうされましたかカインズ様」
エルニクスは須磨太郎の存在を無視し、カインズの目の前にいくと跪く。
「この男は力を望んでいる。何を使っても構わん。お前がこの男を強くしろ」
カインズはそれだけを言うと、玉座から立ち上がる。次の瞬間、猿のような鬼のような怪物がカインズの隣に現れる。カインズがそれに触れると、怪物とカインズ姿が徐々に薄くなり、やがてその場から消えた。
エルニクスはカインズの姿が完全に見えなくなると立ち上がり、須磨太郎のほうを見る。
「はじめまして。エルニクスと言います。いまカインズ様がおっしゃられた通り今日からあなたを担当させていただきます」
エルニクスはそう言いながら観察を始める。
立ち方、足の幅、肩の力の入り方、筋肉の隆起、雰囲気、服装、肌の状態、目線、呼吸、須磨太郎の全てを一瞬で観察し、カインズから聞いている須磨太郎の情報を思い浮かべたうえ、ギフトを発動させる。
「【羊たちの沈黙】」
エルニクスを中心に無数の虹色をした魔法陣が展開される。光の粒が渦巻き、エルニクスの瞳の色が秒ごとに変化していく。
ぐるぐると回る魔法陣の中心で、エルニクスはあらゆる情報を分析していく。そして脳内で一つの像が浮かび上がる。
「あなたのことがわかりました」
エルニクスは須磨太郎の適正、動きの癖、今までの戦闘経験全て理解し、分析した。どのような方法が最善であるのかを導き出した。
「そうですね。あなたには私が剣術を教えましょう。人を殺すための剣術を」
実験的にこの時間に投稿してみます。次回は木曜更新。
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