表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/119

迷いの山-5 決意表明

 

「あの、失礼な事をお聞きするんですが、文香さんと大河さんってどのような関係なんですか?」

 ニーナが聞く。


「夫婦です」

 文香が言う。


 俺も文香の答えに首肯する。


「やっぱり。そうですよね。もう何年も一緒にいるって感じがしてました!」


「そうですか? お二人も随分ラブラブに見えますよ。結婚されてるんですか?」


「結婚はまだです」

 エドワードが答えた。


「ということはいずれ?」


「はい。今してる旅は俺たちが将来住みたいところを探す旅なんです。この旅が終わったら結婚します」

 エドワードが断言する。


 漫画やアニメの世界ならば間違いなく死亡フラグが立つセリフだ。だが、この世界はそんな生ぬるい世界ではない。

 敵の頭部に銃を放てば、骨が砕け、鮮血と共に脳漿が飛び散る。あの錆びた鉄の匂いは、相手がどれほど憎らしかったとしても気持ちのいいものではない。一度脳裏にこびりついた血の匂いはいつになっても落ちることはない。死者は何度も夢に現れては恨み言を耳元で囁く。



「アックス同好会の皆さんは恋愛とかはしないんですか?」

 ニーナが聞く。


「いや、俺たちは......」

「既に斧の女神さまにぞっこんなので」

「そうだな」


 次々にそんな事を言う。


「斧の女神さま?」

 文香が問いただす。


 聞いたのは無論、ただの好奇心からではない。

【運命を転がす女神の右手】。俺のギフトの名にも入っている「女神」というキーワードに反応したんだろう。



「はい。そうです。俺たちは斧の女神さまに会うために旅をしているんです!」

 二崎が嬉しそうに話す。


 他の二人もうんうんと頷く。


「俺の持っている斧を見てください」

 二崎は背中に背負っていた斧を見せる。


「少しだけ光っているのがわかりますか?」


 そう言われてみると、確かに輝いているのがわかる。


「実は、この斧は二度女神さまの祝福を受けているんです」


「祝福?」


「実はこの世界には5つの斧の泉があるんです。斧の泉に自身の斧を落とすと、斧の妖精が現れてこう言います。『お前さんが落としたのはこの輝く斧か? それともこの普通の斧か?』と。その質問に正直に答えると、妖精はこう言います。『お前さんは正直だ。その正直を称えて、両方の斧をくれてやろう』。それで手に入れた新しい斧は祝福を一回されたことになります。この行為を世界に存在する5つの斧の泉全てで行うと、最終的に斧は黄金に輝くようになり、全てのものを切り裂く最強の斧になると言われています」



 小さいころどこかで聞いたような話だ。グリム童話だっただろうか? 正直者は報われる。そのような教訓を教えるための話だろう。



「面白い話ですね。それで皆さんは泉を探して冒険していると」


「そうです。ですが、実は斧の泉全てに斧を投げ入れた人は今までに誰一人としていないんです。泉も全て発見されているわけではなく、1つ目の泉は有名でしたのでその場所に訪れたのですが、2つ目の泉からは全く情報はありませんでした」


「俺たちは旅を続けるうちに遂に、2つ目の泉を発見し、今では全国の斧使いがそこに向かうようになりました」


「2つ目の泉を見つけたとき、俺たちは5つ泉があるという噂は本当なのだと確信しました。それで旅を続けているわけです」



「なるほど。斧の女神さまはどう関わってくるんですか?」


「伝承では5つの泉全てを回り、黄金の斧を手にした者の夢に女神さまが現れるらしいのです。女神さまと出会えた者は女神さまに使える天使になるとかならないとか」



 なかなか興味深い話だ。黄金の斧はある意味で神器と言ってもいいのかもしれない。


「その話ってどこで聞いたんですか?」


 エドワードが空気を読まずに問う。

 アックス同好会の夢を壊すような質問。最悪と言っていいだろう。しかし、俺にしてみれば最高の質問でもある。

 この話の出所がどこであるのかという疑問は俺も一番気になっていたところだからだ。

 情報をうまく処理するためには何よりもまずソースを明確にしなければならない。当たり前のことだが、それすらできない人はかなり多い。エドワードは案外賢いのかもしれない。


「ほかの斧使いや斧マニアから聞いた話ですよ。確か大本の出所は女神さまに直接会ったと公言する黄金の斧をもった最強の戦士だったと思います。彼は傲慢で決して他人に泉の場所を教えなかったそうですが」


 まあよくある噂話だな。俺はそう結論づける。


 徐々に日が暮れてくる。



 ***



「わざわざ俺に会いたいとは何の用だ? こうみえても暇ではないのだがな」


 玉座に座ったカインズ機嫌が悪いのを露わにしながら言う。カインズは現在二つの問題に手を焼いていた。



 一つはデラの森同盟。

 ヘルヘイム帝国は現在デラの森同盟に戦争を仕掛けようとしている。その戦争に勝つことができれば西大陸の全てがヘルヘイム帝国のものになるといっても過言ではないであろう。

 だが、デラの森同盟を率いているのは転生者の内の一人、リメル・テンペストだった。リメルは強い。転生者の中で一番強いのは圧倒的にリメル・テンペストだった。

 自ら相手のテリトリーに訪れ、敵の駒を全てコントロールすることも考えたが、それにはあまりにもリスクが多すぎた。


 リメルには優秀な仲間が揃っていた。ヘルヘイム帝国全ての総力には及ばないが、兵が減り、少しでも隙を見せればなろう王国も動き出してしまう。故にデラの森との戦争は迅速に勝敗をつけなければならない。

 サトゥー須磨太郎を支配下においた後に、エルニクスが視た未来であっても、完全な勝利は得ることができなかった。

 リメルのギフトがスキルやギフトを無効化するものだとわかっていてもその具体的な効果はまだ知らない。そのような情報の欠如が戦争を仕掛けるタイミングを遅らせていた。



 二つ目は新たな勢力の登場。

 川霧大河と川霧文香の転生は世界にとって大きな変革をもたらすものだということは、十六夜天狐が倒されたという話を聞いた時から分かっていた。

 故にカインズは大河たちに対しては既に手を打っていた。あとはそれを施行するだけで大丈夫だった。だが、施行の段階でもリスクはあるために須磨太郎にそのリスクをケアしてもらうことにしている。

 つまり、カインズにとって大河たちの問題はほぼ処理し終わっていると考えても良かった。あとは須磨太郎が覚悟を決めるのを待てばよかったからだ。


 大河たちとは別に今後の脅威になりそうな問題が3つほど報告されていた。それらは全てハスターがこの世界に現れたことに付随して生まれた問題だ。

 また、ハスター自体も大きな問題だった。ハスターは徐々に新たな身体と世界に馴染み始めていた。ハスターが本格的に動き始めればタイムリミットはかなり近くなる。


 これらの問題に何かしらの対策をしていたところに、須磨太郎から会いたいという連絡があった。

 カインズは他の問題への処理を優先に考えていたため、須磨太郎に見切りをつけてもいいことではないかとも考えていた。

 確かに、自由意思をもった「覚悟」のある人間のほうが強いのは確かだが、完全な操り人形にしても須磨太郎のギフトは大河たちと十分戦える強さがあるということをカインズは知っていた。



「お前に頼みたいことがある」

 須磨太郎はカインズに向けて言う。


「何だ?」

 カインズは冷徹な声を放つ。



「俺に力をくれ」

 そう言い放った須磨太郎の目をみて、カインズは須磨太郎の尋常ならぬ覚悟をくみ取った。


「遂に覚悟ができたようだな、サトゥー須磨太郎。よろしい。お前に力を与えよう」




昨日一日でブクマが5以上あがってて驚きました。ありがとうございます。


起承転結で言えば次回が転になります。

並行して二つの話を進めてるので若干テンポが怪しく見えますが、実際はかなり進んできてます。


ブクマ、感想、評価などいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ