1984年 絶対王者カインズ・ジョージ・オーウェル
割と好きな回です。
「みゆり!」
八目が邪眼に駆け寄ると、抱きついた。
「私の血を飲んで」
八目がそういうと、邪眼は八目の首筋に噛みつき、吸血をした。治りかけていた邪眼の両腕が一気に再生をする。
カインズがゆっくりと歩いてくる。
「みゆり、よくやってくれた」
そう言ってカインズは邪眼の頭を撫でる。邪眼は嬉しそうな顔を浮かべる。
「・・・・・・したのか?」
サトゥーがぼそりと何かを呟いた。
「ん? 何か言ったか?」
カインズがサトゥーに聞く。
「お前が二人を殺したのかと聞いている!」
サトゥーが叫ぶ。
「あぁ。そうだ。俺の【 1 9 8 4 年 】で二人を殺した」
顔を絶望に歪ませながら、ハアハアとサトゥーは荒い呼吸をする。
「殺す。殺す。殺す。殺す」
ブツブツと呪いの言葉を呟いている。
「殺す。殺す! 殺す!!!」
サトゥーの盾が真っ黒に染まり、炎で燃える。真っ黒な盾は徐々に縮んでいく。それと同時に、サトゥーの身体に異変が起き始める。目からは血の涙を流し、背中からは立派な悪魔のような羽が生える。皮膚の色は灰色になった。
「ほう。まさか憤怒か? サタンを見ることになるなんてな」
カインズは冷静にサトゥーを観察する。
「ウアアアアアアアアアアアアア!」
サトゥーが叫び声をあげてカインズ達に襲い掛かろうとするが、それを止める人物がいた。
「やめてください! 須磨太郎様!」
ナターリアがサトゥーに抱きつく。サトゥーは驚きつつも自我を取り戻すと、元の人間の姿になっていく。
「ナターリア。お前は死んだんじゃ......?」
ナターリアを抱きながら、サトゥーが言った。
「ははは。よかったじゃないか」
拍手をしながら、カインズがそう言った。
サトゥーはナターリアから離れ、カインズの方を向く。
「カインズ・ジョージ・オーウェル。どういうことだ。説明をしろ」
「お前と交渉をしたい、そのための貸しを作った。俺は死者を生き返らせることができる」
「死者を生き返らせるだと?」
「そうだ。お前が望むなら、その虎の女も生き返らせてやろう」
「それは......」
サトゥーは何かを言いかけて黙る。
「俺の言っていることが信じられないか? 罠だと思っているんだろう? だがそれは違う。俺はほぼ完全な状態で死者を生き返らせるとができる。そうだな、正確な情報を与えよう。俺はスキル欄一つと引き換えに死者の蘇生を行うことができる。対価はスキル欄ただ一つ、これだけだ。お前が俺の交渉に応じてくれるなら、その虎の女も生き返らせてやろう」
「須磨太郎様!」
ナターリアがサトゥーの方を見る。サトゥーはカインズを見てこう言った。
「何がお前の狙いだ」
「お前に一つ依頼をしたい。お前に殺してもらいたい人物がいる」
「どうして俺に依頼をする? 自分ですればいいだろう」
「いまヘルヘイム帝国はデラの樹林連合ともうすぐ戦争が始まるだろう。部下のほとんどはそちらに回していて手が回らない。そこでお前には駒になってほしい」
「相手は転生者か?」
「そうだ。川霧大河。川霧文香。十六夜天狐を殺し、嘘松王国を乗っとった二人組だ。お前にはこの二人を始末してもらいたい」
「その二人を殺せば、リザを生き返らせてくれるのか?」
「いや。その虎の女は今生き返らせてやろう。だが、それには条件がある」
「条件?」
カインズが邪眼に目配せをすると、邪眼は虹色に輝く短剣を取り出す。
「伝説の七本。麒麟だ。これでお前には一度死んでもらいたい」
サトゥーは短剣を受け取りながら、思考をした。そして一つの結論を出す。
「お前は転生者を操ることができない。違うか?」
「そうだ。それがどうした?」
「お前は俺をアンデットして生き返らせ、配下に置きたい。殺したいという転生者の話はただの作り話、そういうことなのか?」
「それは違う。先ほども言ったが、俺は死者を生前と同じまま生き返らせることができる」
「それなら何故俺は一度死ぬ必要がある?」
「お前が一度死を経験すれば俺のギフトでお前を支配することができる」
「ナターリアは今お前の支配下にあるのか?」
「【 1 9 8 4 年 】」
カインズがギフトを発動する。
「いま支配下に置いた。状況は理解できたか?」
ナターリアは銀獅子を再び自身の首筋に当てる。
「ナターリアの洗脳をとけ!」
サトゥーが語気を強くしてそう言った。
「お前は立場を理解しているのか?既にお前は詰んでいる。変な気を起こした瞬間、この女の命はなくなる」
「何が目的だ?」
「目的は既に述べてるだろう?お前には二人組の転生者を殺してもらいたい。もし交渉を飲んでくれるなら、目的を果たした後、お前たちの洗脳は全て解いてやる。俺が世界を征服した後はお前とお前の奴隷には生活環境を与えよう」
「お前の言っていることを信用できる根拠はどこにある?」
「根拠はない。だが同時にお前には選択を迷う自由はない。ここで終わるか、俺を信じ転生者を殺しにいくかだ」
「交渉を飲まないと言ったら?」
「その虎の女には興味がある。蘇生させて様々な実験をしてみようと思う。夜叉の女には興味がない。情報だけ全て吐かせてから、凪とみゆりに託そうと思う。凪はみゆりを傷つけた者を決して許しはしない。死にたくても死ねないまま、凪の気が済むまで目的のない拷問が繰り返されるだろうな。それからお前が匿ってる奴隷施設を全て占領し、虐殺する。無論、十分に痛みを与えた後でな」
ナターリアは話を聞いて、膝をガグガグ震わせる。八目はナターリアに冷たい目線を向けていた。
「私たちは見捨ててください.....須磨太郎様だけでも逃げてください!」
ナターリアは勇気を振り絞り、そう言い切った。
ナターリアの言葉を聞いて、サトゥーは唇をかみしめる。
「どうした? 自信がないのか? 俺はお前があの二人を殺せるように最高のサポートをしてやろうと思っている。お前が奴隷たちを助けたいなら迷うことはないはずだ」
サトゥーは下を向いたまま、少し考えて、顔をあげカインズを真っすぐに見つめた。
「信じていいんだな? 俺の命はどうなってもかまわない。だが、こいつらは関係がない。お前のいう転生者を殺したら、仲間の命は保証すると約束してくれ」
「約束しよう。ギフトの呪縛からも解放し、不自由なく生活が送れるようにサポートもする」
「わかった。俺はお前を信じる」
サトゥーはアイギスの盾を足元に置いた。麒麟を自分の胸にあてて、そのまま力を入れた。深く短剣が沈むと、傷口からとくとくと血があふれ出す。しばらくして、サトゥーはその場に崩れた。
「『早すぎた埋葬』」
カインズがスキルを使うと、リザとサトゥーは蘇った。
「【 1 9 8 4 年 】」
闇のオーラが再び二人を包む。カインズは3人を完全に支配した。
「お前たちには一度ヘルヘイム帝国に来てもらう。そう遠くない時に改めて指令をだそう」
***
海の近くにいたオーラとガゼルの下に一人の男が近づいた。
「全てが完了しました。問題はなかったそうです」
オーラとガゼルは頷く。カインズの【 1 9 8 4 年 】によって操られた男は街に戻っていく。
「【海と毒薬】」
ガゼルは海に向かってギフトを発動させる。
「ガゼル、あとは頼んだ。私はヘルヘイム帝国に戻ることになると思う」
オーラはガゼルを後にして邪眼たちの下へ向かった。
***
「おかえりなさいませ。カインズ様」
本隊に戻ったカインズにエルニクスが声をかける。
カインズはエルニクスに何が起こったかを伝える。
「そんなことがあったのですね」
カインズの話が終わるとエルニクスはそう言った。
「ですが、流石はカインズ様です。蠅の王の死体だけでなく、転生者の一人を手籠めにしてしまうなんて。考えられる限り最高の結果です。これで我々の計画はまた進みました」
「そうだな。これなら次の星辰の正しき時にでも実行できるかもしれないな」
「そうですね。次を逃したら100年間は待たないといけなくなりますから、力の均衡もまた変わってしまうでしょう。次で確実に行うのが最善です」
カインズの計画は順調に進んでいた。
話がひと段落しましたね。
次回から視点が主人公に戻ります。最近は苦い話だったので少しの甘さを出していきたいですね。
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