金獅子と紅桜
今回は2話分くらいのボリュームあります。
――インスマス・郊外――
殺された仲間の敵をうつために、望月望を追っていたサトゥー須磨太郎と2人の奴隷はインスマスに到着していた。
「うわああ! 離れろ!」
一人の男が錯乱していた。
サトゥーは男に声をかける。
「どうかしたのか?」
「どうかするもなにもこれを見てくれ!」
男の身体には20cmほどの太い真っ黒なヒルが5匹くっついていた。一匹にヒルが徐々に膨らんでいくと、やがて血をまき散らしながら弾けた。血は空に向かって漂う。
よく見ると、町中のいたるところに黒いヌメヌメしたヒルが動いていた。
「これは?」
「わかねえ! 急に黒い雲が町を覆って、空から降ってきやがったんだ!」
「リザ」
サトゥーが奴隷の一人に向かって指示を出す。
「はい」
返事をした奴隷は腰の鞘から剣を抜くと、素早く3振りした。すると男の身体についていたヒルたちは全て真っ二つに裂けた。垂れた血は再び空に向かって浮遊する。
「この町は何かがおかしい。あいつもここにいるかもしれない」
サトゥーはそう言うと、インスマスの探索を始めた。
*****
――インスマス・丘の上――
「一つ、いいことを教えよう」
鈴木が邪眼に言う。
「俺のアーティファクトはもう使用することができなくなった。《スペル・キャンセル》と《ヒール》は一日の使用回数に制限があるんだ。だから正真正銘、俺には後が残っていない。そこで、だ」
鈴木は手を前に掲げる。鈴木のメリケンサックは姿を消した。
「『ゴールデン・ゴールデン』」
鈴木が再びスキルを発動すると、手には黄金に輝く剣があった。大きさは通常の剣の1.5倍はある。ずっしりとした重さがその見た目からわかる。
「金獅子か」
カインズが呟く。
「そうだ。やはりわかるか」
「あぁ。七本のうち金獅子だけが所在が分からなかったからな。お前のお陰で全てが揃えられそうだ」
カインズが笑みを浮かべる。
ヘルヘイム帝国は数年前、西大陸全体に刀狩り令を施行した。目的は伝説の七本を収集するためだった。
伝説の七本。30年前、まだユグドラシル連合も結成されていなかったころ、ある田舎のドワーフの国で一人の天才が生まれた。
名をホエクスという。ホエクスの半生はあまりパッとしないものだった。手先は器用ではなく、鍛冶屋としての技術も同年代の他のドワーフと比べ格段に劣っていた。
代わりにホエクスは呪術の研究が好きだった。怪しい本を様々なルートで入手しては、呪術の研究をしていた。ある日、晴天の天気に関わらず、ホエクスの家に落雷が落ちた。ホエクスの家族はその落雷で命を落としたが、唯一ホエクスだけは重症だけですんだ。
ホエクスが長い気絶から目覚めたとき、ホエクスは人が変わった。元々口数の多い方ではなかったが、意識を取り戻したから最初の1週間は誰とも口を聞かなかった。
ホエクスが話し始めたとき、周りの者はその性格ががらりと変わっていたことに驚いた。記憶の混濁が見られ、所々おかしな言動があるものの、性格は社交的になり、今まで見向きもしなかった武器の製法を進んで学ぶようになった。
それから1年たったころ、ホエクスは国の者全てが認める最高の鍛冶職人となった。ホエクスは一人家にこもるとそれから2年間で7本の剣を造った。
金獅子。紅桜。闇雲。氷虎。煉獄。麒麟。深海龍。
これらが現在伝説の七本と言われる剣である。それぞれが神器並みの強さを誇り、小国一つ分の戦闘力を持つとも言われている。
それらは高値で取引され、両大陸に均等に流れ渡った。七本を作り終えるとホエクスはインスマスに向かい、その後消息が不明になったという。
「ははは。戯言を。まあいい。話の続きを言わせてもらう。ズバリ言う。紅桜はいまここにあるんだろう?」
「なぜそう思う?」
「簡単さ。金獅子を持つべきものが鬼や屍食鬼であるように、紅桜を持つべきものは吸血鬼以外にありえないからだ。吸血鬼女王エリザベスが当然現れた別の吸血鬼女王に殺されたという噂は知っている。それがここにいるお前だ。お前たちがエリザベスを殺し、紅桜を奪った。違うか?」
「残念、それは不正解よ」
八目が口をはさむ。
「あの吸血鬼を殺したのは別に刀が欲しかったからじゃないわ。みゆり以外が女王を名乗っているのを私が許せなかっただけ。刀は偶々手に入っただけに過ぎないわ」
「もっともエルニクスは違ったようだがな。エルニクスの願いを聞いて、その後我々は他の6本を集めることにした。それだけだ」
「ふん。なるほどな。で、どうなんだ? 紅桜は出してくれるのか?」
邪眼がカインズの方を向く。カインズは静かに頷く。
「〈紅桜〉」
邪眼がジョブスキルを発動する。邪眼の手には薄紅色に輝く美しい刀があった。
邪眼は右手でそれを握ると軽く素振りをした。
「美人が持ってその刀は完成するみたいだな。だが、紅桜は奪わせてもらう。刀ではなく宝として」
鈴木が金獅子を構える。
「いくぞ!『疾風怒濤』」
鈴木の肉体が隆起する。その拍動に合わせて、剣は黄金に輝いていく。金獅子は疾風怒濤の鼓動に呼応してその真価を高める。
鈴木が邪眼の方へ走り寄り剣を振るう。
ガキン!
鈴木の一振りを邪眼が受け止める。その重たい一撃に邪眼の顔が少し歪んだ。
キンキン!キンキン!
鈴木が連撃を放つ。邪眼はそれを紅桜で受け流す。
ブシュ。ブシュ。
鈴木の重たい一撃を防ぎつつ、邪眼は的確にコツコツと相手にダメージを与えていく。
剣術では相手が一枚上手だと判断した鈴木は作戦を変える。
「これでもくらえ!」
鈴木は金獅子を放り投げる。そしてそのまま拳を放つ。
「デストロイ!」
再び鈴木のメリケンサックが爆発する。
鈴木は相手の動きが鈍ったのを確認し、落ちていた金獅子を拾いつつ、下からすくい上げるように大振りを放つ。
ガキン!
鈴木の剣撃を邪眼が受け止めるが、体勢が崩れてしまう。
「オラァ!」
鈴木が邪眼の腹に蹴りを入れる。とっさの行動に邪眼は回避できない。その後、鈴木は剣を横から薙ぎ払うように放つ。
ブシャ!
鈴木の一振りで邪眼の左腕が後方へ吹き飛ぶ。
邪眼は後ろに大きくバックステップを取る。
「剣術はお前の方が上だ。だが戦闘は俺の方が得意なようだな」
鈴木が勝ち誇ったような顔でそういう。
「あら、そうかしら? 紅桜はまだこんなものじゃないのよ」
邪眼は余裕のある笑みを浮かべたままそう言う。いつもと違いその左腕はまだ再生していない。
「なに?」
「金獅子の真価は鬼が疾風怒濤を使用することによって発揮される。対して紅桜はその刃が血を啜ったときその真価が発揮される」
邪眼は右の手で掴んでいる金獅子を血が流れる左手に持っていく。すると真っ赤な美しい血がグルグルと紅桜の周りを漂い始める。
ニョキニョキ。
邪眼は左腕を再生させる。
5つの鮮血の朱宝が邪眼の背後に浮遊する。
「さあ、始めましょう。本当の戦いを」
邪眼が紅桜を振る。赤い斬撃が鈴木に向かって放たれる。
鈴木はそれを金獅子で受け止める。
ズドン!ズドン!
すぐ直後に鮮血の朱宝から魔法が放たれる。鈴木はダメージを負うが、吸血鬼の魔法によるダメージはアーティファクトによって軽減されている。
「『ゴールデン・ゴールデン』」
鈴木は空中に具現化したメリケンサックに向かい、剣をバットの代わりにして、スイングする。ボールのように打たれたメリケンサックは真っすぐ邪眼へ向かって飛んでいく。
「《ブラッド・フレイム》」
邪眼はメリケンサックを魔法で邀撃する。
「デストロイ!」
爆発は邪眼の手前で起こった。爆炎の中から邪眼が飛び出し、両手で剣を振るう。鈴木はそれを受け止めるが、紅桜を纏う血が鈴木に鈴木の身体を切り裂く。
「うおおおお!デストロイ!」
鈴木は右手一本で金獅子を振るい、紅桜を退ける。その動きのまま左手からパンチを放つとともに、メリケンサックを爆発させる。
邪眼はダメージを受けつつも、回転切りを放つ。
刃は鈴木の手前の空を切っただけだが、ワンテンポ遅れて刀を纏っていた血が鈴木に襲い掛かった。
邪眼はそのまま身体を無数の蝙蝠に変えると、大きく左に移動する。
鈴木は崩れていた体勢を取り戻すと、笑みを浮かべる。
「いい太刀筋だ。だが見切った」
鈴木の猛攻が始まる。疾風怒濤で強化された身体能力は神速の連撃を放つ。邪眼はじわじわと後退しながらそれを受け止める。
邪眼の身体に切り傷ができては再生していく。飛び散った血は全て針のように鋭くなると、鈴木の身体に突き刺さっては消えていった。
「オラオラ!」
鈴木がそのまま斬撃を続けていく。邪眼の身体に徐々にだがダメージが蓄積していった。再生速度をダメージが上回っていたのだ。鈴木が3度攻撃をし、邪眼が1度攻撃をするような戦いが続いた。鈴木はオーバーイーティングの効果によりスタミナに底はなかった。しかし、あらゆる傷口から血が噴き出している。
邪眼は5つの紅の玉を2人を中心とした円を描くように浮遊させると魔法を発動した。
「《ブラッドマジック・ムーンライト》」
玉が発光する。青白い光が2人を包む。邪眼の姿は消えていた。
「どこだ?」
グサ!
鈴木の背後に現れた邪眼が鈴木の背中に剣撃を加える。鈴木は咄嗟に後ろを振り向き反撃を加えるが、剣は宙を切った。
この異常な事態に鈴木が全ての感覚を集中させ、武器を構える。
バサ。
左後ろから音がすると同時に、鈴木は剣を切った。手ごたえはあったが、ただ一匹の蝙蝠が切られただけだった。
ズバ!
再び背後から現れた邪眼が鈴木を切る。鈴木が振り向きざまに剣を放つが、邪眼の腹に剣が当たると同時に裂け目の部分から無数の蝙蝠が生まれ、蝙蝠は闇に消えていった。
「くそおお!」
鈴木は金獅子を消すと、メリケンサックを装着した右手で地面を思いっきり殴った。鈴木を中心に地割れが起こる。
影から再び邪眼が鈴木をめがけて現れる。が、足元の地面が崩れ、その攻撃は掠る。鈴木は邪眼に攻撃を加えようとするが、邪眼はそれを回避する。
鈴木の動きが明らかに鈍っていた。
「影に潜んでいたのか。これがお前の隠し札か?」
鈴木がニヤリと笑顔を浮かべ言う。
邪眼は魔法を解除し、再び自身の背後に朱宝を移動させる。
「別にそういうわけではないわ。それよりも、あなたは自分の体調を心配した方がよろしくて?」
「あぁ。それは自分でもわかっている。あんなチャンスを逃すなんてな。『疾風怒濤』は血を消費する術だ。確かに、このままだと俺は失血死してしまう。お前の目的は最初からそれなんだろう?」
邪眼は何も言わずに鈴木を見つめる。
「だが残念だったな......《ヒール》」
再び鈴木の傷がふさがっていく。
「アーティファクトの使用制限がきた? あんなものは嘘だ。この指輪の前の持ち主は呪術を完成させるために何百という人間を殺した。憎しみによって生まれたこの宝はあと100回は使用することができる」
「あら。そうなのね」
邪眼は興味の無さそうな顔でそっぽを向いていた。身体の傷は既に癒えている。
「行くぞ!」
鈴木が再び邪眼に切りかかった。
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