逃げのびた幸運の女神
「ボルネフェルトさん、冗談ですよね......?」
下半身が氷漬けにされたまま、マサヨシが呟く。
「すまない」
ボネルフェルトはそれだけを言うとタケルの死体を食べた。
うわああああああああああ!
マサヨシとヒロシは絶望の叫び声をあげる。
タケルを食べ終わったボネルフェルトは二人に向かって言う。
「お前たちは救うことができるかもしれない」
「救う? 何を言ってるんだこの裏切者!」
「そうだ! 全部罠だったんだろ! この裏切者!」
「まて。少し弁明をさせてほしい。俺がお前たちの仲間だったことは本当だ」
「嘘をつくな。ならどうしてこんなことをする!」
「俺は戦いに負けたんだよ。この町の者はほとんど屍食鬼にされていた。それに気が付いた俺はその原因を探った。そこでリーダーを見つけた。鈴木ペンドラゴン、青頭巾盗賊団の首領だ。俺は奴の根城を見つけ、一人で侵入した。警備にいた屍食鬼50体は全て葬った。青色の頭巾を身に着けてるやつらは強かったが俺には全く及ばなかった」
ボネルフェルトは自分が今被っている青頭巾に触れた。
「完全な1対1だった。その状況で俺は本気を尽くした。だが、負けた。奴はまだまだ余裕そうだった。俺は意識が落ちる中で死を直感した。だが死ねななかった。鈴木は俺を屍食鬼にした。それから奴は俺にこういった。「青頭巾になれ」と。それから俺は奴に墓地に行けと命令された。墓地に奇妙な3人組がいたと屍食鬼の一人から連絡があったらしい」
「そんな。ボネルフェルトさんが負けるなんて」
「事実だ。話を続けるぞ。俺はその話を聞いてすぐにお前たちのことだとわかった。だから交渉した。3人は助けてくれないかって。鈴木はそれを許可してくれた。3人をお前の権限で屍食鬼にしていいと言われた。どうやら青頭巾に選ばれた者には相手を屍食鬼にする能力があるらしい」
「その能力で僕たちを屍食鬼にするつもりですか?」
「あぁ。そうだ」
「どうしてタケルを食べたのですか?」
「彼は既に死んでいた。死んでいる者に私の能力は使えない。それに私も腹が減っていた」
「何とも思わなかったのですか?」
「あぁ。何も思わなかったよ。私はもう人間ではない。感じたのは腹が満たされる幸福感だけだった」
ボネルフェルトが二人に近づく。
「嫌だ! 嫌だー!!!」
ボネルフェルトが二人に触れると二人の頭に丸い2本の角が生えた。
こうしてマサヨシとタケルは屍食鬼になった。
***
「100人の損失か。まあ優秀な駒が得られたことを考えれば悪くない。幸い死体は残っているしな」
インスマスの巨大な屋敷の中で一人、鈴木ペンドラゴンは呟いた。
【青頭巾】。鈴木ペンドラゴンのギフトだ。転生者であるがゆえに鈴木は強い。
青頭巾は使用者自身に対する効果と、他者に対する効果の二つがある。
他者に対する効果として人間や亜人を屍食鬼に変えるというものがある。そして鈴木は屍食鬼に対して絶対的な命令を下せる。
鈴木が直接相手を屍食鬼にしたものは青色の頭巾をかぶらなくてはいけなくなる。それを青頭巾と鈴木は名付けた。
青頭巾は鈴木と同じように他者を屍食鬼に変える能力を持つ。しかし、青頭巾によって屍食鬼に変えられたものには他者を屍食鬼に変える能力はない。
鈴木の支配下となった屍食鬼は通常よりもステータスが高くなる。だがその分飢餓感も強くなる。そのため鈴木は定期的に共食いをさせ数を調整している。
増やそうとすれば一気に数は増やせるため鈴木はあまり屍食鬼を増やしていない。
屍食鬼になることで生じるデメリットもある。屍食鬼の95%が何かしらの記憶の欠落が起きる。そのため情報を集める場合は屍食鬼を増やせばいいといわけではない。
鈴木がボルネフェルトに仲間の保護を許可したのには理由があった。
既に戦いに勝利した際、本人の口からギフトの能力については聞いていた。
そこで実験を行いたかった。もしボルネフェルトの能力が洗脳した屍食鬼にも効果があるとしたら、鈴木の他にもう一つの強力なブレインができることになる。
それは組織の自由度がより増えることを意味する。だからこそ鈴木はボネルフェルトの意見を飲んだ。
「強いといってもたかが知れたな。邪神クトゥルフやらはもう少し強ければいいのだが」
鈴木は海のほうを眺める。
鈴木ペンドラゴンがインスマスに滞在している最大の理由がルルイエにあった。鈴木は確かな情報筋からルルイエに宝の山が存在しているということを知った。
しかし、ルルイエに行くための鍵の在りかを知らなかった。海底にあるルルイエに行くことはできない。だからこそ一度ルルイエを浮上させる理由があるのだ
***
夜が明けた。
ルイーゼたちが洞窟の奥でみつけたのは大量の人間の遺体だった。
そして洞窟の中では100体のグールが待ち受けていた。
冒険者のうち数名が命を落としたが、ルイーゼの善戦もあり、結果は勝利に終わった。
昨日と同じ場所で作戦会議を行う予定であったがボネルフェルトは登場しなかった。
「まさか」
ルイーゼがそう呟いた瞬間、冒険者全員に不安がのしかかった。
それからルイーゼたちは昼間の間にボネルフェルトの捜索をした。そして鈴木ペンドラゴンの居場所を突き止めた。
ルイーゼは調査の中で相手が屍食鬼であると特定した。ルイーゼは屍食鬼を知っていたのだ。彼女は作戦会議を開いた。
「本当にボネルフェルトさんが負けたのでしょうか?」
「あぁ。でなきゃ現れない理由がない」
「どうして彼は殺されたのですか?」
「おそらく、知ってはいけないことを知ってしまったのだろう」
「それじゃ俺たちも」
冒険者の一人が咄嗟に口に出す。
その声に冒険者たちはどよめく。
「あぁ。命の保証はできない。あのボネルフェルトが倒されたんだ。相手は強い。私たちだけで勝てる見込みは薄いだろう。だから強制はしない。戦う意志のないものは去ってくれ」
ルイーゼの言葉に冒険者たちは固唾をのんだ。
誰だって死にたくない。それは当たり前の感情だ。
冒険者という命に危険が及ぶ仕事を選んだ者でも確実に死ぬとなれば話は別だ。
「俺は降りさせてもらいます」
一人の冒険者がそう言って立ち去った。
「おい、待てよ!」
その姿を追うようにして3人がいなくなった。
「すみません......」
また一人の冒険者が去る。
無言で数人の冒険者が去った。
残ったのは13人だ。
「お前たちは本当に残るのか? 命の保証はないぞ」
ルイーゼがきっぱりと言い放つ。
「俺は......」
冒険者は拳を握りしめ、己の無力さを嘆いた。
「俺は残りますよ」
別の一人が口を開いた。
「ここで戻ったら後悔すると思うので」
「私も残ります。ここに住む人々の安全を守るのは私たちしかいないわ」
一人の聖職者が決意を口にした。
「・・・・・・」
ルイーゼは黙っている。
拳を握り、うつむいていた男が口を開いた。
「命令してください。あなたが命令してくれれば俺も覚悟ができます」
ルイーゼはしばらく考えてからこう言った。
「そうか。ならここから立ち去れ。これは命令だ」
ルイーゼの一言に男はたじろぐ。
「でも!」
男が叫ぶ。
「やめてくれ! 命の保証はできないと言ってるだろ! 私はお前たちに命令をすることはできない。
私は彼のように強くはなかった。いつも迷って判断は全て彼に任せていた。私は弱い。
だからさし伸ばされた手にすがろうとしてしまう。今だって、これからすることがどれほど危険かわかっているのにお前たちに残ってほしいと心の底では思っているんだ!
でも、ここで私が命令を出すということは、お前たちを地獄へ道ずれにするのと同じだ」
ルイーゼが感情を爆発させた。
その頬には涙が伝っていた。
「行かせてください!」
男は宣言した。
「泣いている女性をほっておくことなんて俺にはできません!」
その瞳は綺麗に輝いている。
似ている、とルイーゼは思った。
男の瞳はボネルフェルトのそれと同じ輝きを放っていた。
「私も残ります。ルイーゼさんならきっと大丈夫なはずです」
「僕も残ることにするよ。ボネルフェルトさんだってまだ死んだと決まったわけじゃないですし」
「そうだよな。ルイーゼさんも俺たちに少しは頼ってもいいんですよ。俺たちはもう仲間じゃないですか」
「お前たち......」
ルイーゼは決意を固めた。
「わかった。本当にありがとう」
ルイーゼたちは作戦会議をし、夜に館へと突入した。
***
「ずいぶんとあっけなかったなぁ」
氷漬けにされた冒険者13人を前にして鈴木はボネルフェルトに話しかける。
「そうですね。俺と彼女はずっとパーティーを組んでいました。だから考えそうなことは全部わかります」
「そうだとしても実にあっけない。不意打ちで全員再起不能か」
鈴木はボネルフェルトが予想以上に使える駒だとわかり喜んでいた。
「ここにいる奴らはお前と同じように使えるのか?」
「はい。彼らは冒険者の中でも優秀な人材ばかりです。特にルイーゼは俺と同等、条件によっては俺よりも強いかと思います」
「そうか。じゃあこの女だけ青頭巾にしよう。他はお前が屍食鬼に変えてくれ」
「承知しました」
館の扉が開く。
扉の外には女がいた。
「誰だ?」
ボネルフェルトが武器を構える。
「それはこっちのセリフよ。鈴木はどこにいらして?」
「おぉ。来たか。望」
死角に隠れていた鈴木が反応する。
「久しぶり。なんとかここまで逃げ延びられたわ」
望月望はそう答えた。
若干タイトル詐欺。
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