村の様子
この話は読み飛ばしてもらっても問題ありません。
ここの伏線回収が始まるのは3章からです。2章終了後に戻ってきてください。
ラプト村では俺と文香は3年前に越してきたオシドリ夫婦ということになっているようだ。
俺の仕事は木こり。文香は家で裁縫をするのが仕事らしい。森に生えていたキノコを食べて少し記憶が混濁しているという体で村人と会話をすることにした。
「まずはあの石造りの家に行ってみたい」
俺と文香は家に歩いていく。道中で数人の村人に出会う。彼らはみんな通りすがる時に挨拶をしてくれた。
「すみません」
声をかけると中から人が出てくる。スキンヘッドだが、優しそうな雰囲気の大柄の男だ。
「おぉ大河さんと文香さんじゃないか。久しぶり。なにか用かい?」
文香がこの人の名前はゴードンという鍛冶屋であるということを耳打ちしてくれる。
「ゴードンさん、お久しぶりです。特に用事はないんですが、最近どうしているかなと」
「見ての通り元気だ。最近は別の村から大量のガラスの瓶の注文があってな、商売は繁盛してる。お、噂をしてたらなんとやら。丁度きたか」
俺と文香は後ろを振り返る。そこには一人の青年がいた。文香が青年の名前がフランシスであると耳打ちしてくた。
「フランシスくん、こんにちは」
「こんにちは。大河さん、文香さん。今日はどうしてここに?」
「ただの散歩だよ。フランシスくんのほうは?」
「僕は注文した品をとりに来たんです」
「フランシス、注文通り100個のガラス瓶を用意したぞ。一体こんなに大量ガラス瓶何に使うんだ?」
「我々の儀式に必要なんです」
「またその変な話しか。宗教に入り浸るのもいいがほどほどにしておけよ」
無言でフランシスは袋を渡す。中にはお金が入っている。
「お代はちょうど入っています。品物は後日また受け取りに来ます」
そういってフランシスは持っていけるだけのガラス瓶を袋に詰め、鍛冶屋を出て行った。
「昔は素直でいい子だったんだがな。向こうの町で変な宗教に入ってから、少しおかしくなっちまった。それさえなければゼルダとの結婚を村長も認めるはずなんだがな」
「そうですね。二人は私たちが来たときからもうラブラブでしたからね。うまく結ばれればいんですが」
文香が答える。
その後適当な会話をして、俺と文香はゴードンさんの鍛冶屋を離れた。
「あれは何の話をしてたんだ?」
「昨日も少し説明したけれど、この村から一番近い村は山の麓にあるアルデバランという集落で、その周辺に住む人は全員宗教に入っているそうなの。家畜業が盛んなアルデバランは他の村とも交流が多い」
文香の裁縫の素材もそこから仕入れていると言っていたな。
「で、1年前村人の使いとしてフランシスくんはそこの村にいってから様子がおしくなったそうよ。フランシスくんはこの村の村長の娘さんゼルダちゃんと恋仲にある。だけれど、村長さんはフランシスが変な宗教に入っているのを理由に二人の関係を認めていない。この話は村では結構有名な事実よ。閉鎖的な村での色恋沙汰だからみんなが噂しているのかもね。二人とも美男美女だし、30代から40代くらいの人口が一番多いこの村では、格好の噂の種ということね」
前日の文香の説明で村の周辺については聞いている。片方の道を進み、山を下った先にあるのはバビロンという都市。冒険者ギルドがあり活気があるそうだ。
そこには天まで届くバベルの塔というのがあるという。今後俺たちが目指すのはこの都市になるだろう。
バビロンと反対の麓にあるのはアルデバランという集落。そして鬼の村。鬼の村にはその名の通り、鬼が住んでいるという。だが詳細は不明だ。
「次はその村長さんの家にでもいってみよう」
文香に道を案内してもらう。村長さんの家に向かう途中、フランシスくんともう一人の少女が話しているのが見えた。少女のほうもフランシスと同じくらいの年齢か。17、18くらいだろう。あれがゼルダかもしれない。
「あ、大河さん、文香さん」
少女が話しかけてくれる。
「こんにちは、ゼルダちゃん」
文香が答える。
「こんにちは。二人は仲がいいね」
俺も適当に話しておく。
「あ、そうだ!二人ともお時間はありますか?」
ゼルダが切り出す。
「あるけど、どうかしたの?」
「これからお父さんと話し合いをするんですけど、お父さんはすぐに感情的になるから二人がいた方がいいかなって」
「僕たちがいって本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫です。来てください!」
俺と文香はゼルダに連れられて、村長の家に向かう。道中、フランシスくんは黙っていた。
村長の名前はウォレスという。奥さんは既に他界しているらしい。ウォレスさんは40代くらいの人だった。俺と文香がいたことに驚きつつも、家に向かい入れてくれた。村長が人数分のお茶を用意してくれた後、ゼルダがフランシスくんとの結婚について村長に話しをはじめた。
一通りゼルダちゃんが話を終えると、村長は口を開いた。
「何度も言っているが、フランシスがその変な宗教をやめるまで俺は認めん」
「変な宗教ではありません。それにこの村で教団の服を着るのもやめました。それもゼルダと結婚するためです」
「変な宗教じゃない?じゃあその宗教についてちゃんと説明をしてくれ。そもそも名前のない神を崇める宗教なんて聞いたことがない」
「神の名前はあります。ただ、いまはそれが読めないだけです。我々の神はいずれ私たちの前に現れます」
「はぁ......」
ウォレスさんはため息をつく。
「村長さん、この村に宗教の自由を否定するルールはないはずです。どうして我々の宗教を認めてくださらないのですか?」
村長はうーんとうなった後、重い口を開いた。
「昔の話をしよう。お前たちが生まれるずっと前のことだ。俺にはレドリーという親友がいた」
「レドリーさんってあのレドリーさんですか?」
「レドリーを知っているのか?まあいい話を続けよう。レドリーは真面目なやつでこの村にいながら様々な本を仕入れ、一人で魔法の研究をしていた。レドリーは魔法をこの村の農業に生かそうとしていたのだ。レドリーの熱心な姿に恋をする女がいた。サリー、私の妻だ。俺たちは幼馴染だった。当時わしもサリーのことが好きだったが、レドリーとサリーの間に俺が入りこむ余地はなかった。二人が婚約をしてから数カ月、レドリーの様子がおかしくなった。レドリーもアルデバランの宗教に入団していたのだ。レドリーもお前と同じようにあの黄色の奇抜な服を着て、村人を宗教に勧誘しては、変人として扱われるようになった。初めは農業のためにしていた魔法の研究も、いつしか怪しい宗教の儀式の研究に変わっていき、社交的なあいつが家にこもるようになっていった」
ウォレスさんはそこで一度話を切り、お茶を飲んだ。
「ある日、サリーはレドリーに誘われアルデバランにいった。教会となっている劇場では信者たちの集会が開かれていた。そこでサリーはレドリーに黄金に輝く飲み物を渡された。レドリーはそれを飲むと神に近づけると言い、周りの信者と共にその飲み物をいっきに仰いだ。そして彼らは恍惚とした表情でわけのわからない言葉を唱え始めた。怖くなったサリーは一人でラプト村に逃げてきた。その日以来、レドリーはラプト村に戻ることは無くなった。恋人を失い、悲しみに暮れていたサリーを俺が支え、ついには結婚をし、ゼルダが生まれた」
麻薬のようなものだろうか?俺は今の話をアンリミテッド・ノートブックスに速記しておいた。
「俺とサリーは宗教に親友を奪われたのだ。サリーの話を聞く限り何か危ない匂いもする。だからお主が宗教をやめるまで俺は何があろうと認めるわけにはいかない」
「レドリーさんは偉大なお方です。あのかたのお陰で我々の研究がどれほど進んだことか。それに黄金の蜂蜜酒は危ない飲み物なんかじゃありません。神に近づくために必要な道具の一つなのです。害はありません。現に僕の意識は正常じゃないですか」
「正常な人間は宗教に呑まれない」
「お父さん、それは言い過ぎじゃないかしら?」
ゼルダが怒った口調で反論する。
「言いすぎではない。とにかくやめるつもりがないならゼルダは渡せない。ゼルダは俺とサリーの大事な娘だ」
「埒があかないわ。フランシス、いきましょう」
そういって二人は出て行ってしまった。
ウォレスさんは一人、ため息をついてお茶を飲み干すと、苦笑を浮かべて俺たちに話しかけてくる。
「本当は俺も二人の幸せを願っているんだがな」
「お気持ちお察しします。ウォレスさんの考えは僕も正しいと思いますよ。宗教の自由を否定するわけではありませんが、話を聞く限りまともな宗教ではなさそうですし」
いくつか会話のやりとりをした後、俺と文香はいただいたお茶を飲み干して、お礼の言葉を述べてから村長さんの家を後にした。
「そろそろ日が暮れるな。今日はこの辺にしておこうか」
俺と文香は家に戻り、異世界二日目を終えた。
分かる人には分かる単語がちらほらと。
ここら辺の伏線は3章で一気に回収します!
3章は2,3週間後まで待っていてください。
次話から戦闘があります。