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星辰の正しき時ー4

 戦場で誰よりも冷静に状況を分析している者がいた。夜叉の一人、金剛丸である。


 金剛丸は加賀丸が殺されても、動じることなく状況を見極めていた。

 流れは教団側にあるとしても、実際は鬼側が有利な立場にあることを知っていた。


 アルデバランから一つの花火が打ちあがり破裂した。

 その音を聞いて、信者たちはアルデバランの方に逃げていった。


「まずい! 死体を盾にしろ! 誰のものでもいい!」

 金剛丸はギフトを使った身体で大声を出し、周りに指示を出す。


 鬼たちは金剛丸の声を聴き、すぐさま死体を盾として構える。

 全ての鬼が金剛丸を信頼していたからこそできることだ。


 白い霧が戦場を包む。



「「「「《ベネディック・ボルト》」」」」



 後方に待機していた組が魔法を一斉に放つ。

 ほとんどの鬼は死体を盾に致命傷を回避する。



 信者たちはすぐさま死体を回収しに行く。

 鬼たちは白い霧の中に立ち尽くしている。


 統率の取れた動きで信者は戦場に倒れていた鬼の死体の殆どを回収した。


 再び視界が晴れる。



「死体を回収した? どういうことだ?」

 金剛丸は呟く。



「っくそ! 魔法が入らなきゃかなりまずいぞ」

 エリオットはイライラしている。



 霧が立ち込めている間にポーションを飲んだ信者たちが戦線に復帰する。

 再び戦いが始まった。


 一斉に放たれた魔法により、鬼の数はまた減った。しかしその減った数はエリオットたちが想定していたよりもずっと少なかった。



 鬼の勝利は目前に見えた。だが、その勢いが徐々に衰えていくのはわかった。

 体中傷だらけになった鬼は【疾風(シュトゥルム・)怒濤(ウント・ドラング)】を使うと長く持たない。あと一手鬼たちには力が足りなかった。



 そこらかしこで鬼と信者が死んでいった。不毛な戦いは続いた。


 金剛丸はタイミングを見計らっていた。既に手は打ってあった。あとはそれが成功するまでの辛抱だった。



 信者たちの背後がいきなり火をあげて燃えだした。火災である。

 鬼が持ち込んだ松明たいまつがアルデバランの家に火をつけたのだった。


 戦闘が始まった段階で数人の鬼が信濃丸と共にアルデバランにいき、松明で火災を起こす予定だった。

 信濃丸の裏切りにより10人の鬼のうち8人は殺された。しかし、残りの2人は命を犠牲にして仕事をやり遂げたのだった。



 ラプト村の元冒険者トニーは火に関する情報を誤認していた。

 火属性の魔法で森が燃えないという事実は真である。しかし、だからといって森が燃えないわけではない。

 魔法で森が燃えないにはいくつかの理由がある。

 一つ目の理由として放たれた魔法のベクトルが森に向いていないため。

 二つ目の理由として森自体に復元性が備わっているため。

 森は自然の産物でもある。神が世界を創造し、その流れでできたものを自然という。

 自然のものには必ず復元性というものが備わっている。人工のものは大きな力がない限りその復元ができる範囲を超えた破壊を行うことができない。

 そして鬼が松明に使っていた火もまた自然のものであった。彼らは魔法で作った火を継いでいたのではなく、原始的な装置で発火をしたものを代々継ぎ足してきたのだ。

 だから鬼が戦場に持ってきた松明の火は人工物であるアルデバランの住居を燃やすことができた。


 自分たちの住居が燃えるという事実は信者たちの動揺を誘うものだった。

 そして金剛丸はこの瞬間を勝負の際と見た。


「肥前丸、肥後丸。死ぬ覚悟はできてるか?」


「「はい。勝利のためなら」」



 肥前丸、肥後丸、金剛丸の3人はエリオットの方へ向かった。


 エリオットは自分に挑んでくる鬼が来たことを確認し、笑みを浮かべる。

「3対1か。面白い。受けて立つよ」


 エリオットは剣を構える。


 金剛丸は既に勝利を見切っていた。作戦は二人に伝えてあった。



「「【疾風(シュトゥルム・)怒濤(ウント・ドラング)】」」


 二人の鬼がギフトを発動させ、エリオットに向かって突撃する。

 この時、エリオットは《鬼斬り》を使うという選択をすることができない。

 《鬼斬り》はあくまでタイマンで鬼を確実に殺す技である。2人の鬼が同時に攻撃してきた場合、予備動作を見ることは難しくなる。

 仮にそれがわかったところで二つの動きに瞬時に対応することは不可能だ。



「《神殺し》」

 だからエリオットは別の技を使う。神速の動きで6度剣を振るい、360度全ての敵を殺す必殺技だ。

 エリオットの必殺技、この動きには魔力消費が伴うため、連発はできない。既にこの技を使えば複数人でかかってきた鬼にも勝てることはわかっていた。


 確かな手ごたえと共に、肥前丸と肥後丸は切り殺された。



「【疾風(シュトゥルム・)怒濤(ウント・ドラング)】」


 金剛丸の怒りの拳がエリオットの背中を貫いた。

 金剛丸は既にエリオットが別の技を隠し持っていることを知っていた。そしてその技の直後に一瞬の硬直があることも見抜いていた。



「ぐはっ」

 エリオットが口から血を吐く。


 金剛丸は拳を引き抜いて、今度は蹴りをエリオットに叩き込んだ。

 エリオットの生命力は尽き、エリオットは死んだ。


「鬼たちよ! 我々の勝利は目前だ!!」

 金剛丸の雄たけびにより、鬼たちのボルテージが一気に上昇していく。


 各地で行われる戦いも鬼たちが勝利を収めていた。



 ***



 信者の数も数えるほどしかいなくなった。

 金剛丸は残った信者を殺すために動いていた。

 ほとんどの鬼が体力を使い果たし、ぐったりとした様子でリーダーの動きを見守っていた。


 金剛丸が最後の信者にとどめを刺した時、鬼の勝利が決まった。

 すると次の瞬間、奇声と共に空から謎の生き物が現れた。



 ギャーー!


 体長2~3メートルはある怪物。頭には蟻のような触覚があり、顔は鳥のような形をしているが鋭い歯が見え隠れしている。

 耳は爬虫類のような感じであるが、皮膚の感じは人間に近い。背中には大きな蝙蝠の羽があり、前方についた2つの腕の先には鋭い鉤爪がついている。

 両手両足をだらんと垂らし、羽をバサバサと動かしながら空中に浮く怪物の姿は、鬼たちに底知れない恐怖を与えるものだった。



 ***



 ラプト村山頂 時刻は少し前。


 信者に紛れたグレーテルはラプト村の様子を観察した。

 村には家が一つもなかった。全ての家が既に撤去されていたのだ。

 その代わり、村には巨大な印が書かれていた。黄の印。教団を象徴する悪魔の印だ。


 30人の鬼の死体が印の真ん中に並べられていた。

 100人の信者がそれを囲っていた。


「イア! イア! ハスター!! ビヤーキー クフヤアク ブルクトム ブグドラクルン ブルグトム アイ アイ ビヤーキー!!」


 鬼の死体には既に黄金の蜂蜜酒が振りかけられている。



「イア! イア! ハスター!! ビヤーキー クフヤアク ブルクトム ブグドラクルン ブルグトム アイ アイ ビヤーキー!!」


 信者たちは呪文を唱え続ける。

 グレーテルはその中に混じりながら口パクをしていた。


「イア! イア! ハスター!! ビヤーキー クフヤアク ブルクトム ブグドラクルン ブルグトム アイ アイ ビヤーキー!!」


 何分が経過しただろうか、ある時を境にあたりの空気が一瞬冷たくなったような気がした。

 すると、遥か彼方から翼の音が聞こえ始めた。

 信者たちは更に呪文を唱えていく。


「イア! イア! ハスター!! ビヤーキー クフヤアク ブルクトム ブグドラクルン ブルグトム アイ アイ ビヤーキー!!」


 10体のビヤーキーが鬼の死体の方へ降り立ち、死体をむさぼり始めた。


 信者たちは歓喜の声を上げる。


「「「「イア! イア! ハスター!  イア! イア! ハスター!!」」」


 ビヤーキーは辺りを観察して、一番偉そうなチャーリーに向かって話しかける。


「我々は何をすればいい?」


「ハスター様を招来する。鬼たちの死体を運んできてほしい。下にいるものに話を聞けばわかるだろう」


「了解した」


 ビヤーキーは戦場へと向かっていく。



 ***



「ビヤーキーさんだ!」

 運搬組の誰かが怪物をみて叫んだ。


 ビヤーキーは15体召喚されていた。うち4体が戦場に降りて来て、2体が大河たちのいる集落へ向かっていった。

 13体のうち4体はフランシスとゼルダに誘導され、鬼の死体が集められている場所に向かった。

 鬼の死体は巨大な風呂敷の上に置かれており、2体のビヤーキーがペアでその端をそれぞれ持つと、ラプト村の方へ運びに行った。



 ギャー!!


 9体のビヤーキーが戦場で立ち尽くす鬼に攻撃を始める。

 空から氷の魔法で攻撃をされ鬼たちは成す術がなかった。

 信者たちも同じようにして鬼に魔法を放って行った。


 鬼の数が少数になるとビヤーキーは鉤爪を使って鬼たちを殺していった。

 瞬く間に鬼は皆殺しにされた。


 信者は死体を集めるとそれを再び大きな風呂敷の上に並べていった。


 ビヤーキーは再び死体を山頂へと運んでいった。


 一体のビヤーキーがフランシスとゼルダを運ぶ。

「あなた方が器と従者か」


 ビヤーキーは山頂に二人を運んでいく。

伸び悩みでモチベ低下中。エタることは無いとは思いますが......。


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