星辰の正しき時ー2
儀式を行うために山頂へ向かった信者は400。残りの850はアルデバランに残った。そのうちの150が鬼の遺体を運搬をする係に当てられ、700は鬼を殺すために武器などを用意している。
儀式へ信者を誘導するのはチャーリーの役目だった。ゼルダとフランシスは運搬係としてアルデバランの後ろの方で待機をしている。エリオットとマライアは戦闘集団の指揮をする。
鬼の集落で死んだ信者は約100人だった。この数は想定よりも多かったが、問題のない範囲である。集落を襲った際には【疾風怒濤】を逆手に取る戦法を見せた。
これには理由がある。鬼が【疾風怒濤】を使って失血死した場合、鬼の遺体の体重が減ってしまう。儀式に必要な穢れた肉体には魔力量と質量が求められる。
だから鬼にはできるだけ血を残した状態で死んでほしいというのが信者の考えだ。そのために鬼にギフトを使わせるのをためらわせるためにもあえて、あのような戦法をとることにしたのだ。
黄色印の兄弟団の戦闘員700に対して、集落からは250の鬼がアルデバランに向かっていた。
敵襲により殺された、もしくは拉致されたのは52名の鬼。集落には約100名の鬼が残っている。その100名を守るのは大河と文香、藤丸、吉丸の4名だ。
鬼にの集落には魔法の概念や、剣などを扱う技術はない。しかし、今回、鬼は棍棒の他に、2つの武器を携えていた。
投石紐と松明。これが鬼の最終兵器だ。
一番先頭の集団は投石紐を手に持っている。中間にいる集団は松明を。後ろの集団は棍棒を持って進んでいた。
無論、先頭の集団の中には袋に大量の石を持って運んでいる鬼もいる。鬼は無言で怒りをこらえながら進んでいる。
本来アルデバランがあった位置にテントはなく、山に続く緩やかな丘の向こうにアルデバランは移動していたからだ。
鬼たちがアルデバランを発見した時、黄色印の兄弟団も鬼たちを視認した。
信者たちはエリオットやマライアの指示を聞いて整列し弓と魔法を構えて並んでいた。
先頭にいた夜叉、赤城丸が集団に合図を出した。
作戦通りに鬼は配置に付く。
次に赤城丸が支持を出したと同時に鬼たちの攻撃が始まった。
びゅん!
鋭く風を切る音と共に石が信者たちに投げられる。
投擲。原始的な攻撃だが、その威力は侮れない。
投石紐による遠心力、それにプラスして鬼の恵まれた身体能力により繰り出されるその一撃は、遠方にいる信者に大きなダメージを与えることができた。
びゅん! びゅん!
顔や腹部に石を当てられた信者がその場にダウンしていく。鬼たちの投擲は兄弟団は予想していなかったものだ。
「放て!」
エリオットの合図ともに一斉に矢が放たれる。
しかし、全ての矢が鬼の前に行く前に地面に墜落する。
「マライア!」
「わかってる! プランEよ!!」
「「「「《アース・ウォール》」」」」
信者たちの目の前に何枚もの土の壁が展開される。一つ一つは2m程度の厚くもないものだが、何しろ数が多かった。
はじめ隙間は多かったが、直ぐに隙間には別の壁がつくられていき、数秒で300以上の壁が展開された。
このマライアの判断は正しかった。
ほとんどの者がゾルトレベルの魔法までしか使えない信者であり、鬼が投擲してきた距離はその魔法の範囲の外にあったからだ。
「倒れた者に《ヒール》は使わなくていい」
マライアが指示を出す。《ヒール》は鬼の止血にのみ使えと言っているのだ。
だが信者たちは、この指示に対して何も思わずにそれを受け入れる。
「どうする? チャンスだ。今のうちに距離を詰めないか?」
信濃丸が赤城丸に相談する。
「いや、まて。まだ早い」
赤城丸はその提案を断る。
そして周りの鬼の残りの石を確認する。各鬼が2回は投げられる分の石がまだ残っていた。
「罠の警戒をしたい! 俺に続いて散らばって石を投げろ! 投げていいのは一人一つまでだ!」
赤城丸はそういうと、壁の少し前あたりの地面に石を投擲する。
その石は偶々落とし穴を見つけた。
それを見た鬼はお互いに気を使いながら、石を投げていき、全ての落とし穴を露呈させた。
「いいぞ! 今度はあの壁をぶち破る。最初に決めたメンバーだけでいい。ここで血を騒がせろ! 【疾風怒濤】」
大量の脳内麻薬の分泌と共に、鬼の理性が溶かされていく。筋肉は盛り上がり、脈拍は一気に上昇する。
うおおおおおおおお!
叫び声をあげて、赤城丸は投擲を開始する。
重たく素早いステップを踏み、腰の回転と連動しながらその流れのまま腕を回し、思いっきり壁に向かって石を投げ飛ばす。
赤城丸の投げた石は土の壁三枚を砕きながら直進していき、信者の腹部にめり込んだ。
うおおおおおおおおおおお!!
他の30名の鬼がそれに続き、投擲をしていく。
ギフトを使っていない鬼はギフトを使った鬼へ石を渡す。
ドゴン! ドゴン!
信者の顔面に石が当たると、血しぶきをあげて顔が吹っ飛んだ。
容赦のない攻撃が信者の数を確実に減らしていった。
「何をしてる! 早く壁を展開しろ! それとプランDも実行しろ!」
信者の魔法使いは《ホワイトミスト》を使うが、霧ができたところで鬼たちの攻撃は止まなかった。
「マライア! 霧は解除しろ。もう意味がない!」
エリオットの指示で霧が解除される。
鬼たちは持ってきた石を全て使い果たすと、落とし穴に注意をしながら走って距離を詰めてきた。
何人かの【疾風怒濤】を使った鬼は途中で穴にはまってしまったが、18名の鬼が既に信者の目前に迫っていた。
「矢を放て! 戦闘開始だ!」
ぐちゃ!
鬼の一人が放った神速の拳は信者の身体に穴をあけた。
狂乱渦巻く戦闘が始まったのだ。鬼一人に対して3人がチームを組んで戦っていた。
比較的有能な魔法使いたちが《ベネディック・ボルト》を鬼に放っていった。
その強烈な一撃は鬼の生命力を7割以上削りとっていった。本来なら一撃で鬼を殺し切れる魔法だが、蜂蜜の効果により鬼には魔法耐性が付与されていた。
だが、そのことは既に教団でも実験されている。それゆえの3人組だった。残った生命力は接近戦を得意とする信者によって削り取られるように組が構成されていた。
最初は教団側が戦況を有利に進めていた。
しかし、投擲の際に使用した《アース・ウォール》の思わぬ魔力消費により、有能な魔法使いでも《ベネディック・ボルト》が打てたのは2回までだった。
それが尽きたとき、戦況は鬼の方へ傾いた。
接近戦をする信者たちはハードな戦闘の訓練を受けたおかげもあり、そこそこの強さはあった。戦闘能力だけみれば平均的なB級冒険者のレベルにはあった。
それにプラスして彼らは死を恐れていなかった。死を恐れない行動は人を何倍も強くする。故に信者一人一人の強さはA級レベルにあったといっても過言ではない。
そんな信者二人と鬼は一人で互角に戦っていた。鬼も覚悟を決めていたのだった。2対1の戦いでそれぞれの勝率は五分五分だった。
五分五分といえばどちらも有利不利が起きてないのかと思うかもしれない、だがそれは違う。
信者が2に対して鬼は1だ。つまり、信者の数は鬼の倍の数で減っていったのだった。
戦場において信者たちは仲間の死を悲しむことはなかった。だがしかし押されているという感じを受ける状況、その流れ自体の影響を彼らは受けないわけではなかった。
その上、勝利を得た鬼は既にギフトを使用しているということも多かった。出血によりやがて倒れる運命ではあるが、【疾風怒濤】を使った鬼は信者には手が負えない。
こうして戦況は鬼に傾いていった。
「コードBでいい!」
エリオットが鬼を切り殺しながら叫ぶ。
信者たちは防御に徹するような陣形を取り始めた。生き残っていた魔法使いも壁を再び張り巡らす。
失血死を積極的に狙いにいく作戦だ。小手先の作戦でしかないが、効果はあった。
「お前がリーダーか」
加賀丸がエリオットに向かって話しかける。
「そうだ。覚悟しろ」
エリオットが加賀丸に切りかかった。
エリオットの動きはこの上なく優れていた。【剣聖:Lv3】は剣士の能力を高めるギフトだ。なろう王国の憲兵の部隊長が持つレベルの極めて恵まれたギフトをエリオットは持っていた。
加賀丸の棍棒は3度エリオットの剣撃を防いだがすぐに使い物にならなくなった。
加賀丸はインファイトに切り替えていった。だがエリオットの方が一枚上手だった。
力の差を理解した加賀丸は【疾風怒濤】を発動した。エリオットもそれを確認すると、一度大きくバックステップをし距離をとった。
「うおおおおおお!」
「《鬼斬り》」
神速の拳がエリオットに迫った。それが当たったと思いきや、次の瞬間地面に落ちていたのは加賀丸の両腕だった。
「《鬼斬り》はお前たち鬼を殺すために編み出された剣技だ。確かにお前たちは強い、それは認めよう。だが人間は馬鹿じゃない。力で勝てないなら技で勝てばいい」
《鬼斬り》は対鬼用に人間が開発した剣技の一つだ。【疾風怒濤】を使わない鬼は剣の実力者であれば倒すことができる。
だからこそ《鬼斬り》ではギフトを使った鬼を想定されてつくられている。【疾風怒濤】を使った鬼は理性がゼロになり精密な動きができなくなる。そのうえで彼らは必ず攻撃の前に予備動作をするようになるのだ。
人間はその全ての予備動作を解析した。そして15のパターンに分けた。それらを瞬時に判断し、剣技として的確な動きを繰り出す、というのがこの技だ。
無論、高度な動体視力と反射神経が要求されるこの技の習得難易度は高く、この戦場においてはエリオット以外に使える者はいない。
「俺に勝てる鬼がいるなら出てこい!」
エリオットの勝利は信者たちに希望を与えた。加賀丸の死とエリオットの圧倒的な強さはギフトをまだ使っていない鬼たちの気力を削いだ。
戦況は再び教団側に傾いたのだ。
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