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報復準備

 鬼の死者は32名。鬼童丸も力尽きたらしい。

 集落は蜂の巣を2つとも奪われ、鬼の子供20名が連れ去られた。



 俺と文香は金剛丸の家に呼ばれた。


「俺はどうすればよかったんだ?」


「あなたは疲れてるだけ。少し休んだら元通りに戻るわ」


「あの鬼の子供たちは俺が殺したんだ」


「それは違うわ。殺すのは黄色印の兄弟団。あなたじゃない」


「でも、俺は救える命を見捨てた」


「もし、あなたがあそこで魔導銃を放っていたら私たちの国に怒りの矛先が向くかもしれなかった」


「それは......」

 どうしてそんな当たり前のことがわからなかったのだろうか。


「私たちは今一度、ルールを整理する必要がある」


 俺は無言でうなずく。


「一番の目的は絶対に変わらない。菜々美ちゃんを救うこと」


 うなずく。


「次にしなくちゃいけないのは嘘松王国の国民を守ること」


 うなずく。


「善良な人々を守る、これは難しいかもしれない。でもあなたはそれを守りたい」


 文香が優しい瞳で俺を見つめる。


「一旦この話は後にして、別のルールを確認するね。無暗に死に戻りしない、これは私の願い」


「今となっては積極的に死に戻りを選択したくない」


「そうね。それがいいわ」


「ゴブリンは殲滅する、これはゴブレイさんから託された」


「そのルールは守ってもいいと思う。でも、この前聞いた話を考えると、ここでゴブリンと鬼の区別をしっかりしといたほうがいいわね。善良なゴブリンがいたときあなたはどうするの?」


「人前に出てこないゴブリンだけが善良なゴブリンだ。言葉が通じるのが鬼で通じないのがゴブリンだ」


「ネオ・ゴブリンロードは知能があるように見えたわ。そういう場合はどうするの?」


「わかった。逆に考える。人に害をなすものは全てゴブリンだ。そして言葉をつかえるゴブリンには『A Study(シャーロック) in() Scarlet(ホームズ)』を使って調べる」


「私たちはある意味で屍食鬼だけれど、屍食鬼や吸血鬼はどうするの?」


「屍食鬼は人間と同じだ。鬼もそう言っているし、ゴブレイさんは間違いなく人間だった」


 文香は俺が冷静さを取り戻しているのを見て安心した顔を浮かべる。


「じゃあ。今日の教団はどうなるの?」


「彼らはゴブリンだ。だが、俺は彼らを殺せない。それは私的な事情からじゃなくて、最初に言った通りの理由だ」


「今じゃ私たちは国の代表。私たちが部族間の争いに介入するのは望ましくない」


「でも、俺はゴブリンに屈することはできない。だから、俺は鬼の集落を守ることにする。あくまで自分の身の上を守るという体で」


 俺は覚悟を決めると、夜叉が集まる集会に向かった。




 ***


 集会では、黄色印の兄弟団に対する報復を行うことが決定された。


 金剛丸は戦況を冷静に分析した。


「彼らは我々の弱点を熟知しています。 【疾風(シュトゥルム・)怒濤(ウント・ドラング)】を使った鬼は本能のみで行動することになります。だからこそあの落とし穴を仕掛けたのでしょう。そして彼らが使った鋭利な棘が備わっている武器は我々に切り傷をつけることを目的に作られている。 【疾風(シュトゥルム・)怒濤(ウント・ドラング)】はその消費体力が多いが故に血液を素早く循環させる必要がある。心臓の拍動をコントロールするという我々の術の秘密を彼らは知っていた。おそらく捕らえられた鬼で実験されたのでしょう」



「だったら 【疾風(シュトゥルム・)怒濤(ウント・ドラング)】をあまり多用しないようにという指示をしなくてはいけないな。魔法の対策はどうする?」

 加賀丸が言う。


「魔法に熟知している鬼はみんなバビロンに行ってしまっている」

 答えたのは赤城丸だ。


「戻らせることはできないのか?」

「そんな時間はない」



「蜂蜜は残っていないのか? 魔力を付与した蜂蜜を飲めば魔法に対する耐性がつくはずだ」

 信濃丸が提案する。


「なろう王国に献上するための蜂蜜ならまだ無事だ」

「それを使うなら今しかない」



 俺は議論に割り込む。

「俺と文香ならあなたたちの能力を強化することができます。おそらく蜂蜜を使う以上の強化が望めます」


 夜叉は黙って顔を見合わす。

 それから信濃丸が口を開く。


「ありがたい提案だと思います。しかし、これは我々の問題だ。部外者のあなたにそこまでしてもらうのは申し訳ありません」


「いえ、俺たちからすれば些細な協力です。お世話になったお礼としてせめてそれくらいのことはさせてください」


「困ったな」


 夜叉たちは再び気難しい顔をする。


 それからまた信濃丸が口を開く。


「では、蜂蜜に魔力を込めるのを手伝ってもらえませんか?」


 妥協案。彼らにもプライドがある。


「わかりました。ではそれを手伝わせてください」



 ***



 蜂蜜が保存してある蔵についたとき、鬼種族に代々伝わる蜂蜜に魔力を込めるための術を書いた紙を渡された。


「ここに書かれてる内容は言ってみれば一種の魔術式ということか」


「そうね。武器に魔法を付与するのと同じ要領みたい」


「特殊な魔力特性を持った蜂を飼ってたんだろうな。だから蜂蜜にもその特性が継承されて、魔力付与ができる」


「黄色印の兄弟団も同じ手順であの黄金の蜂蜜酒を作ってるのかしら?」


「いや、それは違う。おそらく彼らの黄金の蜂蜜酒には魔力の他に魂が込められている」


「信者の寿命を蜂蜜酒に込めているのね。なんて非道なことを」


「許せない。だがそれを止められるのは俺たちじゃない。鬼だ。だから俺たちは今できることをやろう」


 紙に書かれる内容に沿って文香と共に蜂蜜に魔力を付与していく。

 蜂蜜は徐々に赤色に輝いていく。



「あとは守ることに徹する。それしかすることはできない」


「楓さんには状況を説明しておいたほうがいいわよね?」


 文香は楓さんを下ろすと、内容を伝える。



「楓は一度国に戻ってこれを届けてくれ」


 俺は回収した黄金の蜂蜜酒を楓に渡す。


「わかりました。連絡は文香さんがおとりになるということでいいですね?」


 楓は嘘松王国に向かっていった。



 ***


 かがり火の元に鬼が集まる。

 鬼たちはみんな兜と棍棒を持っている。


「黄色印の兄弟団に我々の家族は殺された。我々鬼は誇りある種族だ。やられてるままでいいわけがない!」


「我々は復讐を果たす。黄色印の兄弟団を壊滅させることだけが死んでいったものへの報いとなるだろう!」



 うおおおおおおおおおお!



 鬼たちのボルテージが上がっていく。


「この蜂蜜を飲み、武器をとれ! 我々は誇り高き鬼だ!!」



 狂乱に包まれた集団はアルデバランに向かって進んでいく。


 俺と文香は集落に待機して、戦えない鬼の子供や女性を守る準備をした。


次回の話はよく書けたかなと思います。期待しててください。


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