2日目 ギフトとプレゼント
序盤に伏線をかなり張っているので、少し説明が多くなってしまってます。
軽い気持ちで流し読みしていただけるとありがたいです。
伏線回収が始まったら戻ってきてください~
異世界生活2日目。目覚めるとまた目の前にはスキル欄が浮かんでいた。
隣のベットを見る。文香の姿はない。耳を澄ますと、キッチンから料理の音が聞こえる。先に目覚めて朝食を作ってくれているのだろう。
キッチンに向かう。
「おはよう、文香」
「おはようございます。あなた」
「それは?」
「村の人から一般的な朝ごはんを聞いたの。味はまだ保障できないけれど」
「文香のものならなんだって美味しくいただくよ」
そんな会話を交わしながら席に着く。ベーコンエッグのようだが、見慣れたものとは少し違う。異世界の素材を使っているのだから違和感を感じるは当然だろう。文香の朝食は美味しかった。
「スキル欄は出た?]
「それらしきものがあったわ。数は100以上」
文香も同じくらいの量スキルを既に習得しているのか。
「夢はどうだった?」
「予想通り、天使と会ったわ。以前あったリカさんではなく、妹のミカさん。彼女からは私のギフトの名前だけを教えてもらって、そのあとプレゼントをいただいた」
また名前だけか。どうしてだろう。
「そのギフトの名前を教えてくれ」
「【輪廻転生】。これが私のギフト」
輪廻転生。仏教用語か。天使の言ってた上位存在は仏教的な神と関係があるのか?
いや、だが俺の能力【運命を転がす女神の右手】を考えると何か違う気がする。仏教に女神という言葉は似合わない。そもそも俺の能力名は「運転手」を由来にしている。ならば案外ネーミングというのは需要な意味を持たないのかもしれない。
「輪」は車輪の輪。「転」は運転の転とかを意味してたりな。あとは文香の存在自体がまさに輪廻転生と言えるのも関係しているのかもしれない。文香がこの世で存在できているのはこのギフトのお陰という線もありえるか。いや、まてよ何かひっかかる。
「それは違う気がする」
「またあなた悪い癖。なにか考え事?」
「文香のギフトについて何かわかる気がするんだ。」
「どうしますか?集中したいのならしばらく静かにするけど」
「そうだな。1分待ってほしい」
俺は思考を再構築する。気になったのは文香のギフトの内容。文香の存在が文香のギフトのお陰で成り立っていると仮の結論を出した時、違和感を感じた。その考えが違うと否定できる根拠がどこかにあるはずだ。何処だ......。
1分が経った。
「うーん、ごめん。出てこない」
「一応、説明してみて。私も何かひらめくかもしれないから」
「一つ目の疑問。これは別に文香の話で始まった疑問じゃないけど、どうして天使は俺たちのギフトの内容を教えてくれないのかなって。二つ目の疑問。これは疑問というより違和感なんだけど、その違和感は文香のギフトの能力を、いまここに文香がいることこそが輪廻転生なんじゃないかって思ったときに生じた。それはなんか違う気がする」
「あら、そうなの?私はあなたのその考えと同じことを思ったけれど」
「どういう思考プロセスか説明してみて」
「はじめ輪廻転生という名前を聞いたとき、あなたが体験したリスボーン、つまり【運命を転がす女神の右手】と生死に関わるという点でニュアンスが似ていたから、同じような能力だと思ったわ。けれど冷静に考えてみると、輪廻転生は運命を受け入れることに対して、あなたのギフトは運命そのものを変えてしまうものだから、寧ろ逆のものなのではないかなと。そうして考えてみると、やっぱり私がこの世界で人間として存在していることが一番の不思議であって、このことこそが輪廻転生じゃないかって」
「なるほど。まあ能力はいつかその時がくれば俺みたいにわかるかもしれないから、一度保留にしておこう。プレゼントはなんだった?」
俺がそう言うと、文香は服のポケットから何かを取り出した。
「メモ帳?」
「だと思う。名前はアンリミテッド・ノートブックス。これも能力は教えてもらってないの」
「ポケットにあったのは本当にそれだけ?」
そうすると文香は頷き、口を開く。
「やっぱり最初に気になるのはそこよね。あるのは紙だけで、ペンになるものがない。私も同じことを考えて、少し調べてみたの。で、これがわかったわ」
文香がメモ帳を開く。空中でペンを握るような動作をし、書く。すると、文香の手の動きにそってハートがメモ帳に浮かんだ。
「おぉ、これはすごい」
「手には確かな質量があるわ。見えないだけで本当に握ってるような感覚なの」
メモ帳と文香の手の間に触れてみる。確かにペンの感触がした。
「透明なペンか。不思議だ。その手をメモ帳から離してみてくれ」
文香が手を離すと紙にかかってた力がなくなる。
「普通のペンよりは少し長めみたい。だいたい15cmくらいかしら?」
「メモ帳からペンを離しても、まだペンの感覚はある?このままどの程度まで離れられるか興味がある」
文香が後ずさりする。そのまま距離をとり、部屋の隅で止まった。
「まだあるみたい」
「そのペンをポケットに入れてみて」
文香がポケットにペンを入れる動作をする。
「ペンはある?」
文香がポケットに手を当てる。
「あるみたい。手から離しても消えないみたいね」
「なるほど。エネルギー保存とかを考えるとキリがないがないし、今はこの事実を素直に受け入れるしかないか。最初に出したペンはどこに置いたの?」
「消えたわ。メモ帳を閉じれば消えると思います」
「わかった。文香のそのペンを消す前にもう少し実験をしておこう」
俺は文香と同じようにメモ帳に何か書く仕草をする。ハートの下に三角形を書いてみる。
するとメモ用紙に線がひかれていく。
「いま俺も見えないペンを作れた。そっちのペンはまだ消えてない?」
文香が再びポケットを確認する。
「異常なし」
「そうか」
俺は二つ目のペンを机の上に置いて、再び線を書く。
三角形の上の頂点から下にまっすぐ。紙にまた字が浮かび上がる。
「これでも書けるのか」
机の上を撫でる。そこにはまだペンがある。
「3つ目のペンも作れる。アンリミテッドってことだから生み出せるペンの数に限りはないのかもしれない」
「そうね。でもノートブックスていうくらいなんだからノートの方にもまだ謎はあると思うの」
「それに関しては大体予想がついてる。でもその前にペンで他にも実験をしたい。文香、その場所でペンを作れるか試してみてくれ」
文香が手をかかげる。
「すごい。この距離でも作れるみたい」
「そうか。実験は一度終えよう」
メモ帳を閉じる。それと同時に手にあった質量がなくなる。机の上を触ってみてもペンはない。
「不思議なペンね」
「本当にそう思う。俺としてはどういう原理なのかが凄く気になるところだけど、いまはそれについて考えるのはやめておこう」
「さっき言ってたノートの謎はなんなの?」
「あぁ、それか。これは直観的なアイディアなんだけど」
再びノートを開く。
「この最後のページに何か書こうか」
俺は適当にトラックの絵を描いた。
「で、一度閉じて、最後のページを開いてみると」
そこには空白のページがあるだけだった。
「どういうことなの?」
「恐らくこのメモ帳には容量限界という概念がない。で、問題はさっきの絵がどこにいったかなんだよな」
一つ前のページをめくる。絵はなかった。
「外れか。開け閉めするごとに新しいページが増えるかなと思ったんだけど」
そういいつつページをめくっていく。
パラパラパラパラ。
「あれ?見つからない。これじゃダメじゃないか。閉じたら消えちゃうメモなんて使い物にならない」
「うーん、少し貸してみて」
文香がメモ帳をとって、ページをめくる。そこには絵があった。
「あ、出てきた。今何をしたの?」
「何もしてないわ。ただ、念じてみただけ」
「そういう可能性もあったのか。ペンも作ろうと思えば作れた。案外、この世界ではイメージというのが大事なのかもしれない」
メモ帳をとって、やってみる。念じるのはさっきペンの実験したページ。
「おぉ!出てきた。すごい」
「アンリミテッド・ノートブックス。思った以上に使えそうなプレゼントね。
それはあなたが持っていて。私より使いこなせると思うから」
「いいのか?文香が貰ったものじゃないのか」
「うーん、そうなのかしら?あなたの話を聞く限りだと、私がミカさんと話した感じだと、それはあなたのための物に思えるけど」
たしか天使は「あなたにプレゼントを用意します」みたいなことを言ってた気がする。
「そうかもな。あの話ぶりだと俺のためのプレゼントかもしれないな。文香には何かプレゼントはないのかな?」
「わからない。そう言ったは話は一切なかったし、何もないのかも。あ、少し待って。書いておきたいことがあるの」
そういって文香は俺の手からメモ帳をとり、何かを書きだした。
「あれ、待てよ」
何かが浮かぶ。文香のギフトについて何かわかったような気がする。
天使はなんて言っていた?正確に思い出すんだ。確か天使は。
***
「ギフトの他に、あなたにはプレゼントを送る予定です。転生後の世界で受け取れると思いますので楽しみにしていてください」
***
「受け取れると思いますのでという言葉は間接的な表現だ。何故か?それは文香を通じてこのプレゼントを送ることが決まっていたから。デモンストレーションがあることは予め決まっていた。そして最初の夢で俺が会うのが姉のリカであることも決まっていたんだ」
ノートに何かを書き終えた文香が口を開く。
「つまり、私のギフト【輪廻転生】の能力は私が転生すること自体ではない」
「そうだ。さっきの違和感は正しかったんだ。文香の能力は別にある。何故なら、文香が転生することは決定事項だったから。そう考えるとしっくりくるものがある。天使は『あなた達の健闘を祈ります』と言っていた。その時の俺は、転生者達という意味だと思っていたが、違うらしい。ここでいう『あなた達』は俺と文香のことをさしていたんだ」
「どうやらほぼ確定のようね」
「そうだな。結局文香のギフトについては謎のままだが、一つの可能性が潰せた。些細なことにみえるかもしれないが、これには大きな意味がある。俺たちはこの世界のことや、世界観に対して圧倒的に情報が不足している。だが、こうして足りない分の情報は慎重な観察と論理的な考察をもって埋めることができる。さらに俺のギフトなら試行回数は恐らく無限。全てのことがわかったなら負けるはずがない。運命は俺たちが変えられる」
「そうね。私たちならきっとできる」
文香にアンリミテッド・ノートブックスを渡される。
開かれていたページには相合傘と、俺たちの名前が書かれていた。
思わず顔がにやけてしまう。それを隠すように俺は口を開いた。
「この村で集められるだけの情報を収集する。それが終わり次第、バビロンに向かおう」
「わかりました」
「じゃあ早速村人に聞き込みにいくか」
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