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イキリトとアキ

3章は国の争奪戦とか政治とかの要素強いですね!

 嘘松王国に桜が咲いてから、2日がたった。

 今日、俺と文香はトルキン公国の国王イヴァノヴィチ=ヴェデルニコフと会談を予定している。

 この会談を結ぶための準備には時間がかかった。宣戦布告を受けた翌日から俺は実験の意味も兼ねて『時計仕掛けのオレンジ』を使って状況をコントロールしていた。時計仕掛けのオレンジで同時に洗脳できるのは10人までだ。洗脳を解いた場合、対象に無意識にルールを順守させる効果は残るが、それに対して疑問を持つことができるようになり、ルールに従わない者も生まれる。俺は国の政治に積極的なオークにルールを植え付け解除するというのを繰り返し、穏健派のオークを増やしていった。最後に政治的権力のあるオーク5人を支配下におき、嘘松王国との会談を取り付けることに成功した。

 何度か交渉を繰り返した結果、ドメル平野に文香が建てた公館で話し合うことに落ち着いた。

 今は文香と会談で話す事柄の最終確認をしていた。


「できるだけ穏便にことを済ましたい。カインズも言ってたように裏にはイキリトが絡んでいる」

「そうね。最悪の場合は直接『時計仕掛けのオレンジ』を使うということでいいのよね?」

「あぁ。そうする。人数が多いようなら少し間引く可能性もあるかもな。そんなことはできればしたくないが」



 ブーン。


 今まで聞いたことのないような異音がする。


「文香、何か聞こえなかったか?」

「聞こえたわ。部屋の中から音がした」


 突如俺と文香の目の前に黒い穴のようなものが生まれる。

 穴はぐるぐると渦巻きながら徐々に広がっていく。穴の周りの空間は歪んでいるようにみえる。

 大きさが3mほどに達した時、中から2人の人間が出てきた。一人は全身黒づくめの男。もう一人はオレンジ髪のこの世のものとは思えないほどの美女。


「お前は誰だ」

 俺はソファーから立ち上がり、目の前の二人に魔導銃を突きつける。


「おっと。物騒なことはよしてくれ。無益な殺傷はしたくないんだ」

「お前は誰だと聞いている。次に名乗らなければ容赦なく殺す」

「殺す、か。面白いこと言うね」


 俺は引き金を引いた。


 バン!


 弾が男にあたるよりも速く女が男の前に割り込み、弾が異次元へ消えていく。


「文香、こいつらはやばい。許可をくれ」

「許可します」


「許可?何のことだ?ってかいきなり人を撃つなんてひどいじゃないか」


「イキリト様、いきなり相手の城に乗り込んだ私たちの方が無礼かと」


「あぁ。それもそうだな」


 イキリト?今確かにこいつはイキリトと言った。

 どうしてこいつがここに来た?どんな方法で?


「自己紹介が遅れたな。俺の名はカナヤッパ・イキリト。一応、なろう王国の国王だ」

「私はイキリト様の従者、ユウスナ・アキと申します」


「『A Study(シャーロック) in() Scarlet(ホームズ)』」


 訓練により『The Gre(グレート)at Gatsby(ギャッツビー)』無しでもノータイムで使えるようになった緋の目を発動する。

 周囲にこいつら以外の敵はいない。罠のようなものも見当たらない。


「おいおい。いきなりスキルかよ。そっちも名乗ってくれていいんじゃないか?」


「俺は4代目天狐の川霧大河だ。お前たちの目的はなんだ?」




「あーあ。やっぱりお前が新しい天狐か。陽菜を倒したっていうからどんな奴が来たかと期待してたけど、大したことなさそうだな」

 イキリトはニヤニヤと笑みを浮かべ喋っている。

「どうせお前も転生者なんだろう。でも俺よりは弱い」


「イキリト様、失礼ですよ。一応この方は国王なんですし、これから国同士の付き合いもあるでしょう?私達が今日来た目的を忘れたんですか?」


「あぁ。忘れてた。アキあれを出してくれ」




「かしこまりました」

 アキは徐々に小さくなっていた穴に手を突っ込むと、その中から蓋のついた壺を取り出す。


「トルキン公国の国王イヴァノヴィチ=ヴェデルニコフの首です。お受け取り下さい」


 俺が壺を受け取り、蓋を開けると、そこには生臭いオークの生首が入っていた。

 乾いていない血はそれがつい先ほどまで胴体と一緒だったことを示している。


「どういうことだ」


「うーん、説明するのがめんどうだな。アキ説明してくれ」


「私が昨日何度も説明したじゃないですか。覚えてないんですか?」


「あんな小難しいこと覚えられないに決まってるだろ。そもそも別に他の国の協力なんてあってもなくても変わらないし。アキがいろいろ言うから国の強化もしてるだけであって、本当はカインズを倒すのなんて俺一人で十分だ」


「もう。そんなこと言わないでください。あなたは仮にも一国の王なんですよ。私がもう一度説明をしますから建前の話だけでも聞いておいてください。わかりましたか?」


「しょうがないな」


「はぁ」

 ため息をついてアキは話を始める。




「先ほどは無礼な態度をとってしまってすみません。今回私たちが参上したのは嘘松王国とトルキン公国の戦争を止めるためです。なろう王国は昨年、トルキン公国と軍事同盟を結びました。したがってトルキン公国と嘘松王国で戦争が始まった場合、我々は嘘松王国を滅ぼさなければいけなくなります。

 ですが、西大陸と東大陸の中間に位置し、転生者が国を治める嘘松王国を失うことはヘルヘイム帝国率いるユグドラシル連合との現在の状況を考えると惜しく、こうしてヴァルデルニコフの首でことを収めようと参上したわけです。」


 つまり、恩を売ることによって嘘松王国をなろう王国に取り入れたいということか。


「今日、俺たちはトルキン公国と会談を行う予定だった。その会談で平和的にことを収めることができたのにあなた方はそれを台無しにした」


「それは違いますよ?トルキン公国は会談の場であなたたちを殺すつもりでした。まあ転生者のあなたたちなら死ぬことは無いと思いますが。トップが殺された場合トルキン公国の国民も黙ってないでしょう。戦争はどう転んでも起きていたのです」


 いや、それは違う。そうなった場合俺たちは『時計仕掛けのオレンジ』を使って問題を解決することができた。だからこのタイミングでの登場は邪魔でしかない。

 気になることがある。どうしてこいつは文香が転生者であると知っている?俺は一度も文香のことは言ってないし、カインズがこいつらに言ったとも思えない。大体、このタイミングの悪さはなんだ?元々恩を売るつもりだったならこのタイミングでなくてもよかったはずだ。

 戦争が起きた瞬間にヴァルデルニコフの首をとり、戦争を収めた方がいいに決まってる。そもそもトルキン公国に戦争をするように指示をしたのはこいつらだ。

 もしかしたら俺と文香が『時計仕掛けのオレンジ』を使うことがわかっていて、そのためにこんなタイミングで首を持ってきたのかもしれない。


「大河様、文香様、緊急の報告があります。入ってもよろしいでしょうか?」

 扉の外から楓の声がする。

「入れ」

 俺が許可を出すと、扉が開いて、楓が部屋に入ってくる。

 楓はイキリトとアキを見て、驚く。


「あら。仕事が早いのね」

 アキが楓を見て呟いた。

 楓は部屋の中に見知らぬ二人がいるのを見て驚いている。


「この方たちは?」


「こいつらはなろう王国の者だ。説明は後でする。緊急の報告とは何だ?トルキン公国のことか?」


「いま話してしまうと、内容を聞かれてしまいますが大丈夫でしょうか?」


「問題ない。この場で話せ」


「わかりました。トルキン公国から宣戦布告を取り消すという連絡がありました。国王が殺されたそうです。今日の会談は取り消さないで、そのまま賠償に関して話し合いをしたいという趣旨でした」


「そうか。一度下がってもらえるか」


 楓が部屋から出ていく。

 イキリトがニヤニヤしながら話し出す。


「よかったじゃないか!これで嘘松王国は平和だな!」


「こんなやり方が通用するわけがない。トルキン公国がこのまま引くとは到底考えられない」


「いや。そこは安心してくれ。既に話は通してあるんだ。さっきアキが言ってただろ?トルキン公国には顔が利くんだ。俺のほうから今後もめ事を起こさないようにと強く言っておいたよ。いやー、丸く収まったようでよかったよ。そうだ、友好の証に同盟を組まないか?」


 わざとやっているのか素でアホなのかわからない。

 こいつと手を組むのは危険でしかない。動きが読める以上まだカインズと手を組んだ方がマシだ。

 陽菜さんがこいつではなくカインズと手を組んだ理由もよくわかる。



「その話はのめない。嘘松王国は長年の間、中立を掲げてきた。今までのように少しずつ国同士の交流を深めるのは構わないが、どちらか一方といきなり手を組むことはできない。俺は天狐になって日が浅い。こんな状況でいきなり同盟を結ぶことは不可能だ」


「あなたは正しいと思います。我々も少しおせっかいを妬きすぎたと反省をしてます。ですが、我々はあなたたちを困らせたくて今回のようなことをしたわけではないということだけはご了承ください。あなたたちと話せただけでも今日はよかったことにしましょう」

 アキが答える。




「あぁ。そうだアキ。友好の証にこいつらに魔導銃をあげてもいいんじゃないか?」


「既に魔導銃を持っているかと思われますけど」


「え。そうなのか?お前も持ってるのか?」


「あぁ。イキリト様はご存知でないですよね。この拳銃のような形をしたものも一種の魔導銃なんですよ」


「そうだったのか。というか俺たちの国の魔導銃の方が魔導銃らしくないような気がするな。まあ種類が違うなら大丈夫だろ。魔導銃を渡してくれ」


 アキは穴に再び手を入れると黒い楕円形のボールのようなものを渡してきた。


「これがなろう王国で作っている魔導銃です。友好の証にどうぞお受け取り下さい」


 俺は魔導銃を受け取る。手のひらに握れるほどのそれは予想以上に重たかった。

 俺が持っている魔導銃より少し軽いくらいの質量。中身は金属か何かでできているのだろうか?

 表面はゴムのようにぶよぶよとしていて、ところどころにイボイボが付いて、ワイヤーのようなものがぐるぐると巻き付けられている。

 温度はひんやりと冷たい。その冷たさは確かに人を殺すための冷たさだった。


「お前も魔導銃を持ってるなら使い方はわかるだろ。そろそろ俺たちは失礼するよ。今度来るときは事前に連絡を入れるようにする。また会うことがったらよろしくな」


 アキが手を前に出し呪文を唱える。

「《CREATE GATE》」

 再び部屋の中に異次元の穴が広がると、イキリトとアキはその中に入り、消えた。



 ***



 しばらくして俺は文香と顔を見合わせる。

「あいつらは想像以上にやばかった。最初に選ばなくて正解だった」


「私、少し怖かったわ。でも怖気ずいている暇は無さそうね」


「あぁ。何をすべきか話し合おう」


 俺と文香は気が付いたことやそれぞれの考察を共有した。

 楓も部屋に呼び、状況を説明した。


 その後、会談は何事もなく終わり、ひとまず俺と文香は休息を得ることができた。

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