桜の樹の下には
ぽた。ぽた。
右手を滴る血が地面に赤い斑点をつくる。魔導銃のリロードにより食い込んだ針が血を吸い終わり消える。
じゅーと音を立て、蒸気をあげながら俺の右手は再生していく。リロード時の痛みにはすでに慣れた。
血と魔力を糧にして魔導銃に弾が装填された。
……さて。このスキルを使うための覚悟をしなければならない。
次に使うスキルは『時計仕掛けのオレンジ』と同等、もしくはそれ以上に非道なスキルだ。『時計仕掛けのオレンジ』は使い方によっては善良な使い方もできる。そもそも元ネタと考えられるルドヴィコ療法は悪人を更生させるためのものだった。まあそれが倫理的に正しいかというと怪しいのだが、論理的に考えるならば正しい選択だと言えるはずだ。
だが、今から使うスキルは前の世界の価値観で言えば絶対悪に分類される。死者への冒涜はずっと昔から人類にとって禁忌とされてきた。
しかし絶対悪といっても言い訳は幾らでも見つかるし、価値観は徐々に変わってきている。例えば、自然の世界。自然に生きる虫や動物の中には仲間の死体を食べて生きるものもいる。
臓器移植。死者の臓器を他者へ移植することによって死者を活かすことができる。前の世界では徐々に臓器移植のドナー登録をする人は増えてきていた。それは自分の死を他者のために使ってもらいたいと願う人が増えてきたということだろう。だから、他者の死を利用するというのはあながち間違いでもないのかもしれない。
そんなことを思いながら俺はスキルを発動する。
「『桜の樹の下には』」
魔導銃のトリガーを引き、地面に向けて弾を打ち込む。
弾は地面に潜り、しばらくの間沈黙が訪れる。
それから少しして、土が蠢きだし、地面から青緑の双葉が顔を出した。
双葉は徐々に大きくなる。その成長速度は増していき、メキメキという音を出しながら、天へ向かって伸びていく。
一本の細い木は幹の色を濃くしながら、太く大きな大木へと変わり、根っこは地面に深く根差した。
青々と輝く木の葉の間にぽつぽつと蕾がつきはじめる。大木が大樹へ変わると蕾が色づき、ついに準備が調う。
息を合わせたように同時に、桜の花が開花する。眩しいくらい美しい、満開の桜の樹がそこにはあった。
異世界に生まれた桜の樹をみて、3人で花見をした日のことを思い出す。
俺と菜々美と文香でしたお花見。菜々美を乗せて桜の名所までドライブした楽しい日の思い出。
あの日と同じくらい美しい満開の桜。だがしかし、桜の樹の下には屍体が埋まっている。
樹の周りの土が不自然に動きだす。そして、地面から人の手が突き出た。
10本の手が地面をぐっと掴むと、土を掻き分ける。
5人のドワーフが地獄から這い上がるように顔を出した。
ドワーフ達が完全に地面から這い出ると、俺の目の前に整列する。
死体をアンデットとして使役するスキル。これが『桜の樹の下には』の能力だ。
依然として咲き続けている桜を前にして、俺は命令を出す。
「俺の質問に全て答えろ。答えがわからない場合はそう言え」
「わかりました」
「最初の質問だ。お前たちがカインズから指示されたことを嘘偽りなく話せ」
「何を指示されたか思い出すことができません」
そうか。転生者のギフトだけある。陽菜さんはカインズのギフトは対象が死ねば一度解けると言っていた。
だが、支配が解けても肝心な情報は出てこない。絶対服従のギフト。なかなか侮れない。
「次の質問だ。お前たちにはこれを作ってほしい」
そういって俺は魔導銃を渡す。
「作り方はわかるか?」
「わかりません。ですが、中の構造がわかれば作れる可能性があります」
「そうか。中の構造を書いた紙がある。これでいけそうか?」
俺はかつて死に戻りを利用して魔導銃を分解した際に書いた、断面図と、工学的な考察を書いたアンリミテッドノートブックスの頁を切りとって渡す。
ドワーフたちはしばらくそれを読んでこう答える。
「恐らく素材さえ揃えば作れると思います」
「わかった。必要なものを言え。それと今日からこの鍛冶屋がお前たちの住処だ。何か注文があればそれも言ってくれ」
ドワーフたちは俺に必要なものを伝えた。俺はそれらをメモると文香に何か他にすることはないか聞いた。
文香はアンデットの彼らにとって台所と便所は不要なものだと気が付いたため、仕事ができるスペースを増築する形で家をリフォームした。
こうしてドワーフが嘘松王国に加わった。
いつもとは違うテイストで書いてみました。次回からはいつも通りに戻します。
明日は複数話投稿してみますね。
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