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舌戦ー1 菊花の約

心理戦とか

「変わった能力ですね。どんな方法を使ったんですか?」

 俺はカインズにジャブを入れる。


「なかなか好戦的だな。嫌いじゃない。これから友好的な仲を築くためにも4代目天狐サマには種を明かしておくとしよう。オーラ、お前のギフトを嘘偽りなく説明をしろ」


「わかりました。では、説明をさせていただきます。この能力は私のギフト【菊花きくかちぎり】です」


 雨月物語か。これもまた前の世界の文学作品だ。上田秋成うえだあきなりは好きだし、大学初年度の講義で雨月物語については学んだことがある。


 菊花きくかちぎり。義兄弟の契りを結んだ男同士が菊の節句に会うことを約束したが、一人の男が囚われてしまう。しかし幽閉された男は約束を果たすために自殺をし、亡霊となって男に会いに行くという話だ。

『人一日に千里をゆくことあたわず。魂よく一日に千里をもゆく』だったか。人のままでは1日に千里を行くことはかなわない。魂ならば千里でさえ行ける。

 確かに目の前の現象と類似点がある。だが、雨月物語について知っているのは俺がたまたま読書好きだったからで、一般の人が雨月物語の内容まで覚えているとは考えにくい。

 つまり、オーラが嘘をついている可能性は低いと考えられる。


「あなたのギフトだったんですね。どんな能力か詳細を聞いてもいいですか?」


「【菊花の契り】はカインズ様が【 1 9( ナインティーン) 8(  エイテ) 4 年(ィフォー) 】を使われた人間の死体にカインズ様の意思を憑依させることができます。死後10秒以内に死体に触れなければ効果は発動できません。カインズ様が憑依できるのは30分だけです。カインズ様はその身体でスキルや魔法を使うことができます。しかし、唯一ギフトだけは使用できません。ちなみに、カインズ様が能力を使うまでもなく、ここにいる者は自分の意思で死を望んでいます。ここに残っている3人も同様です。ヘルヘイム帝国の国民は皆、カインズ様をお慕いしているのです。自分自身の身体にカインズ様の意思が宿る。そんな夢のようなことを拒む理由がどこにありますでしょうか」


 自分のギフトの説明以外のことも多く喋っている。こいつは頭があまり良くないのかもしれないな。

 カインズが憑依した場合、ギフトを使えないということは言っていいとしても、その時間が30分であるとか、10秒以内に死体に触れないととかいう説明は不要だ。しかもあろうことかこいつはカインズのギフトの名前を言ってしまっている。1984年。前の世界の人間ならば誰もが知っている作品だ。

 まあ最後のカインズの能力でこの男が死んだわけではないという説明だけはカインズがヘルヘイム帝国において絶対的な力を持っているという手っ取り早い証明になっている。概ね、カインズはそれを示したくて、手紙に「近づかずに話す」手段があると書いたんだろう。

 【運命を転(ドラ)がす女神の右手(イバー)】で死に戻りを選択できる以上、敵地に赴くリスクをとってもよかったが、初回から何かがあるとは考えにくいし、カインズがどんな手段で「近づかずに話す」のかというのは俺としても気になっていたから、現地での会談の約束を飲まないという手はなかった。俺に選択の誘導をし、自身の強さを会談前からパフォーマンスするという作戦。カインズ自体はそこそこ頭がきれるのかもしれない。


 説明のなかで一瞬だけ気になった点もある。カインズが【1984年】を使った人間にのみという条件。このギフトの範囲が限定的なのは、世界樹の落とし子がカインズの肉体から生まれたという理由に依るんだろう。


「そうですか。教えてくれてありがとうございます」


「ほう。信じてくれるんだな」


「完全に信じ切っているわけではありませんが、あなたと友好的な関係を築きたいのはこちらも同じなので」


 十六夜千尋さんを救うためには表向きはいい関係を保っていた方がいい。


「それはよかった」

 男は友好的な笑顔を作る。


「あぁ、そうだったな。本来はギフトの説明をする前に聞くべきだったんだが、貴様たちは私のギフトについて話は聞いているのか?それと私が嘘松王国に近づけない理由も。まあ今の様子だと知っているようだが」


「そうですね。知っています。あなたのギフトは半径1km以内の相手に効果がある。先代の十六夜陽菜はあなたと協力することの条件としてあなた自身が嘘松王国の半径2km以内に近づかないことを条件とした」


「その通りだ。その条約についてだが、私としては条件をそのまま引き継ぎたいと思っている。問題はあるか?」


「ありません。他の条約などに付いてもそのまま引き継ぎたいとこちらは考えています。どうですか?」


「そのつもりで今日は来た。ここまで順調に決まるとは思わなかった」


「こちらもです。しかし、一つだけ新たな約束をしてもらませんか?口約束で構いません。もしあなたが現在、妖狐の誰かを支配下においているならば、その支配を解いてください」


「安心しろ。条約を結んだ際に、妖狐の支配は解いてある」


「それなら何も問題はありません」


「今回話したいことは全てなくなってしまったな。まだ残り時間はたっぷりある。お互いのことについて話し合うのはどうだろうか」


「いいですね。話し合いましょう。そうですね、何から話しますか?」

 最初は相手の出方を伺う。




「お互いの目的について話さないか? まずは私の目的から話そう。私の目的は世界征服だ」


「世界征服、ですか?」

 本気で言っているのかこいつは?


「そうだ。何か文句があるのか?」


「いえ。具体的にどうするつもりなのかなと思ったので。場合によっては私たちは敵対しなければいけない」


「あぁ。世界征服といってもこの世の人間全てを私のアンデットとして使役したいわけではないから安心しろ。私の元に従属してくれさえすればいい。協力さえしてくれれば貴様たちと嘘松王国の安全は必ず保証しよう。敵対するなら容赦はしない」


「国の安全が守られ、かつ国民の今の生活水準が保証されるのならば、こちらとしても是非協力したいと思います。こちらの目的はなろう王を倒すことなので」


 カインズと協力してイキリトを倒す。その後カインズを裏切って始末する。十六夜天狐はカインズ自体は強いわけではないといっていた。こいつの強さは組織としての強さにあると。だが、文香のギフトがわかったいまそれは問題にならない。明確な一つの道筋が俺たちには見えている。


「ほう。イキリトを始末したいのか。いい関係が築けそうだな」


 カインズは再び笑顔を浮かべる。


「おっと。そろそろ時間か」


 男の表情が固まると男はその場に倒れる。オーラがそれを受け止めると、床に寝かせる。二人目の男がナイフを取り出し、それを躊躇なく自分の胸に突き刺す。


「カインズ様万歳!!」


 先ほどと同じようにオーラがギフトをつかってカインズが憑依する。



 会談は続いていく。

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