1日目 【運命を転がす女神の右手】
序盤に伏線をたくさん張っている作品です。
なので最初はスローペースで進みます。ここから3話は説明が主になります。
軽い気持ちで読み流してもらって、気になったら戻ってきてもらうという形で読んでいただけるといいかと思います。
「そんなことがあったのね」
この世界で俺の家とされる場所に着くと、彼女と情報を交換した。
やっぱり彼女は俺が前世で乗っていたトラックの「文香」本人で、転生前の記憶もしっかりと持ち合わせていた。
文香は今日の朝からこの世界の記憶があるらしい。その時に俺は森へ薬草を採取に行っていると村人から聞いたそうだ。
俺がいない間に文香はこの村や世界について調べてくれていた。村人の名前は全て覚えたから安心してほしいと言ってくれた。俺にポーショーンをくれた村人はトニーさんという名前らしい。元々バビロンで冒険者をしてて今は故郷のこの村でスローライフを楽しんでいるんだとか。
「この村の名前はラプト村っていうの。村の人口は私たちを含めて232名。村人は森での狩りや畑仕事で自給自足の生活を送っている。山頂にあるこの村だけれど他の村との交流もちゃんとあって、この森を抜けて少しいったところに巨大都市があるらしいわ。都市の名前はバビロン。なんでも冒険者ギルドがあって人や物の出入りが盛んなんだって」
「じゃあ最初の目的地はそこになるな。今は何よりも情報が欲しい。十分な情報を得てから装備を整えて旅に出よう」
「そうね」
そう言うと、文香は真剣な眼差しでこっちを向いてきた。
「あなた、ひとつ言っておきたいことがあるの」
「どうした?文香」
「この前も言ったけど、私はあなたのものよ。どんな時でもあなたの味方をするわ。菜々美ちゃんを生き返らせるために私も全力を尽くします。だから、辛い時にはいつでも頼ってね。二人でこれからも一緒に頑張ろうね」
「そう言ってくれると助かる。ありがとう」
「あと、それと、もう一つ」
「なんだ?」
「私のこと好き?」
「もちろん好きだぞ」
「それはどういう意味で?」
「どういう意味も何もそのままの意味で好きだぞ?」
「うーん、そういうことじゃなくて。じゃあ聞き方を変えます。私のこと恋愛的な意味で好き?」
「さっきからそう言っているだろ。俺は文香のことが大好きだ」
「ありがとう。私もあなたのことが大好きよ」
沈黙。なんだか改めて気持ちを伝えるとこそばゆい。
この心地よい気まずさを紛らわすために文香を抱擁した。
「ねえあなた。前の世界でできなくて、今の世界でできることってなんだと思う?」
文香が訪ねてくる。ここで答えが出ないほど俺は鈍感じゃない。
「何だろうね。わかんないや」
そういうと文香はわざとらしく頬を膨らませた。
その表情が可愛すぎてたまらなくなる。
「文香、お前のことを愛してる。今にもキスをしたいほど。でも、それは最後にとって置かないか?菜々美のいない状況で自分だけ幸せになることが少し怖いんだ。ごめん」
「わかったわ。そういえばあなたはデザートは最後にとっておく派だったものね。キスは全部が終わったらにしようね」
「ありがとう」
そう言って俺は文香を更につよく抱きしめた。
「この後はどうする?私は晩御飯の支度がまだあるけど、あなたは聞き込みにでも行く?」
今は夕暮れ。行動できる時間帯ではあるが、どうするか。
「いや、今日は休むことにするよ。まだ疲れが抜けてなくて」
「そう。わかったわ。用意ができたら呼びにいくからそれまでゆっくりしててね」
そういうとゆいは台所に向かった。俺はベットの上で目を閉じ疲労感に任せて眠ることにした。
***
夢の中。でも目の前には天使がいる。天使ミカと同じ顔をいるが髪や瞳の色は青ではなく、赤色をしている。
「はじめまして。私は天使リカです」
「リカさんですか。天使はみんな同じような顔をしているんですね」
天使が笑う。
「いえ、違います。あなたが先ほど出会ったミカは私の妹です。私たちは姉妹なんです」
納得した。
「なるほど。そういうことですか。ところで、どうして私にまた会いに来てくださったのですか」
「あなたはジョブに〈運転手〉を選択しましたね」
「そのはずです」
「それが理由です。あなたが新しい能力を臨んだため、調整が必要でした。転生後最初の睡眠までは我々の方で能力の検証と調整が行えるのです。今回は妹の提案で、少し斬新な方法を適用しましたが、上手くいったためデモンストレーションは無事に終了しました。それをもちまして、あなたに授けるギフトの名前を伝えたいと思います」
「お願いします」
天使が背筋を伸ばす。
「あなたが授かったギフトの名を発表します。あなたのギフトは【運命を転がす女神の右手】です。【運命を転がす女神の右手】と読んでもいいでしょう」
運命を転がす女神の右手。運転手というわけか。
名前から察するにあの死に戻りの現象はやっぱりこのギフトのせいだったんだろう。
「承りました。このギフトについて説明をしてもらえますか?」
天使の顔が曇る。
「それはできません。どうして説明ができないかの理由も説明もできません」
またか。ならば仕方ない。
「そうですか。では別の質問をします。あの矢はあなたたちが言っていたプレゼントですか?」
「それについてはお答えできます。その答えはNOです。あの矢はプレゼントではありません。プレゼントはあなたの奥さんに渡されるはずです。それはきっとあなたの冒険に役立つものになるでしょう」
「あなた起きて」
遠くの方から文香の声が響く。
「そろそろ時間のようですね。あなた達のご健闘をお祈りしています」
そういって女神が去った。俺は瞼を開けた。
***
起きると目の前には謎の文字が浮かんでいる。その文字に透けて文香がみえる。書いてある文字から予想ができる。
「これはおそらくスキルだな。天使は戦闘中にスキルは変更できないと言っていた。寝起きのタイミングで変更できるということか?文香、この文字が見えるか?」
「また一人で考え事?ちゃんと説明しないとわかんないってば」
「この世界では寝起きのタイミングでスキルを変更できると思われる。今俺の目にはスキルのようなものが見えるんだけど、文香はそれが確認できるか?」
「最初からそう言ってよ。私には何も見えないわ」
「なるほど。ありがとう」
スキルを眺めてみる。数は20×5数は100か。いや、下の方を見たいと思うと、画面がスクロールされる。
100以上のスキルをすでに持っているのか。右の欄は何だ?5つ欄がある。転生者が使えるスキルは5と言っていた。ここはスキルをセットするところか。
どれが有用なものかわからないな。スキルの確認は一度保留にしておこう。
「文香、明日の朝起きたら文香もスキル選択ができるかどうか教えてくれ。スキルは変更可能らしいけれど、まだ選ばないでおいてほしい」
「わかりました」
「よろしく頼む。もうご飯か?」
「うん。準備ができたわ。一緒に食べましょう」
文香のご飯はうまかった。出された具材は異世界のものだが、文香の料理はなんだか懐かしい味がした。
「そういえば、さっきのうたた寝の最中に天使にあったんだ」
俺は天使の言っていた内容を説明した。
「だったら私も今晩また会うことになるのかしら」
「多分。それで、天使はプレゼントを文香に渡したと言ってたんだけれど何か心当たりはあるか?」
「思い当たる節はないわ」
「じゃあ今晩の夢で渡されるのかな?」
晩御飯を食べるとシャワーを浴び、寝室に向かった。
異世界生活1日目はこうして終わった。
紅茶にハチミツ入れて飲むと美味しいですよね