八咫鏡ー2
「神器とはなんだ?」
「神器とはそのままの意味で、神によって直接作られたものをいう。広義の意味で言うならば、私たちの身体も神器と言えるな。神器は強力なものが多い。例えば、私が付けている指輪。これは私が転生するときに貰ったものだ。名を大和の指輪という。この指輪は装備者の魔力量を2倍にする効果を持つ。そうだ、大事なことを聞き忘れていた。私の身体は回収してくれたのか?」
「勿論回収した」
「安心した。カインズなんかの手に渡ったらひとたまりもないからな。私の身体は好きにしてくれていい。良い武器の素材になると思う」
「わかった。話を続けてくれ」
「八咫鏡の話をしよう。八咫鏡は転生者に与えられたものではなく、数千年前、この世界の人間に神の都合で与えられたものだ。
その時には天叢雲剣と八尺瓊勾玉も存在していた。お前も日本人だったなら三種の神器は知っておるだろう?
本来はその三つがそろうことで過去と未来で通信することができた。三つが揃っていないと、恐ろしい獣が使用者を襲い殺すと言われておる。八尺瓊勾玉は八咫鏡を発動させるために必要で、天叢雲剣は現れた怪物を追い払うのに必要だ。
初代天狐の嘘松十郎は八咫鏡だけを持っていた。だから彼はオリジナルの魔法を生み出し、使用者の記憶を消すことによって問題を解決した。無論、記憶を消すといっても超限定的な条件でのみ発動できるものだが。それでも記憶を完全に消す魔法を開発するというのは素晴らしい偉業だ。その魔法は代々天狐が引き継いでおる。初代天狐は天才だった。私自身もその魔法を取得するのに2週間はかかった」
天狐は鏡の世界で本棚の方に向かって歩く。
「この部屋の本棚の中に歴代の天狐が開発した様々な魔法が書かれている本がある。参考にするといい。鏡を起動するための八尺瓊勾玉の代用は、妖狐が生まれつき持っているスキル『狐火』で行うことにした。『狐火』自体は元々尻尾の儀式に使われるものだったが、鏡を起動させるためにも使用できることがわかった。
となると、妖狐じゃないお前らが八咫鏡は使えないということになるな。まあ仕方あるまい。余談だが、この城内に入れる空孤の数は、その魔力量の合計が八咫鏡を起動させられるだけの人数と決められている。まあこの地下に入るには2代目が作った鍵が必要になるから、特にその規定に意味はないんだがな」
「丁重な答えをありがとう。質問をしてくれ」
「わかった。少し、切り込んだ質問をしよう。大河、そして文香。どうしてお前たちは私を殺した?」
「妹を助けるためだ。妹を助けるために5人の転生者を殺す必要がある。他にも些細な理由、ちょっとした復讐心もあったが、それがあろうとなかろうとお前は殺す必要があった」
「なるほどな。妹を救うためか。それなら仕方がないな。私も似たような状況にいた。私の場合は姉だがな」
「姉がいたのか?」
俺はアンリミッテッドノートブックスを開いて確認する。が、やはりそこには十六夜天狐と書かれているだけで、彼女の姉の名前らしきものは見当たらない。
「そうだ。私には姉がいた。まあ姉といっても双子の姉だ。姉はカインズに囚われている。だから姉を取り戻すために私は力を求めていた。そうだなちょうどいいタイミングだ。このまま本題に入ってしまおうと思う。今後の嘘松王国の方針についてだ」
十六夜はそう言って話を切り出す。
「まず、私たちの一番すべきことは国民の安全を守ることだ。これを念頭に置いてほしい。そのうえで今の現状について分析したい。今この世界ではかつてない規模の戦いに備え、準備がされている。カインズとイキリト、どちらが勝利しても嘘松王国の未来は暗い。現状ではヘルヘイム帝国となろう王国、どちらもまだ決め手に欠けている。カインズはそのギフトを使って徐々に戦力をつけてきている。ユグドラシル連合とは名ばかりで、実際はヘルヘイム帝国の実質的支配下にあるとみて間違いないだろう。西大陸の全てがカインズの手中にあるといっても過言ではない。しかし、カインズはそれでも満足しない。彼は全大陸を支配するために、この世界に神を召喚しようとしておる。そのために裏で様々な暗躍をしている」
「バベルの塔か?」
「よく知っているな。カインズは神を降臨させるためにバベルの塔を破壊する必要があると言っていた。それがなし遂げられればあとは時間の問題だとも言っていた。イキリトもカインズと同じように神を呼び出そうとしている。しかし、カインズよりその計画が進んでいない。そんな状況の中で、我が嘘松王国は中立の立場をとっている。中立といっても無関係な場所で見物するような中立ではなく、どちらの国にもすり寄ることで、万が一の機会に備えている。表ではなろう王国と仲良くしているようにみえるが、裏ではヘルヘイム帝国と手を組んでいる。今日も本来ならばヘルヘイムと密談をする予定だった」
「帝国と手を結んだのは何故だ?」
「私の個人的な目的があった。私の姉はカインズによって奪われた。私は姉を救いたかった。この目的は国民を守るということに反するものではない。私はカインズが嘘松王国に近づかないという契約の元、彼と手を組んだ。手を組むふりをして、好機を伺っていた。
カインズは神すらも支配するつもりだ。そして、カインズが支配できるというならば、私のギフトでその手段をコピーすれば私も神を支配することができる。神を支配することができたのならば、姉を生き返らせることもできるかもしれない」
なるほどな。姉は既に死んでいるのか。
それで天使から告げられた転生者の名前欄には姉の名前がなかった。
「カインズとイキリト、それぞれの能力について教えてほしい」
「イキリトに関しては実はよくわかっておらぬ。奴の力は底が知れない。
だが、カインズに関しては良く知っている。カインズはアンデットだ。かつては善良な人間だったが、ある日を境に自らの肉体と引き換えに知識を得た。アンデットになったことでステータスは大幅に上がっている。状態異常、精神異常の耐性も付き、睡眠と食事も不要になった。
だが、裏を返せばそれはデメリットだ。寝ることができない奴はスキル欄を調整することができない。
そしてわかってるスキルは二つ、私が使った時を止めるスキル『THE WORLD』とアンデット創造スキル『早すぎた埋葬』。アンデット創造は向こうの大陸の実力者の中では当たり前のスキルだが、奴のジョブ〈不死者の王〉はそのスキルを段違いに強化する。奴のアンデットは殆ど生きているのと変わらない状態で作られる。私の姉もそのスキルで未だ死体のまま生かされておる」
「ギフトについて説明してくれ」
「ギフトは【 1 9 8 4 年 】。他者の絶対支配術だ。相手が人間だろうとアンデットだろうと関係なく、強制的に支配できる。
効果範囲は半径1km。範囲外から出たとしても、一度支配されたものは、死ぬまでその支配から抜け出すことはない。命令は絶対だ。どんなスキルやギフトでも無効化できないし、仮に命令が自分の意に反することであっても実行される」
「そんな強力な能力を持つ相手をどうやって倒せばいんだ?」
「弱点はある。奴は我々転生者を支配できない」
「なぜだ?」
「【1984年】で支配できるのは、生もしくは死を経験したものだけだ。我々転生者はこの世界でそのどちらも経験していない。先ほど言ったように、我々の身体は一種の神器だ。神が直接作り出した我々の身体は、この世界に生まれたものではない」
俺は自分の身体を改めて見る。
「はっきり言ってしまうと、カインズ自体はあまり強くはない。カインズと1対1の勝負をしたならば転生者で負ける者はまずいないだろう。アンデットになったとはいえ、元々のステータスも恵まれていなかったし、カインズは転生者に対してギフトが使えないが、我々はギフトが使える。
だが、奴の本質はヘルヘイム帝国、いや、ユグドラシル連合という組織としての強さにある。優秀な手下も揃っている。厄介なのは世界樹の落とし子。ヘルヘイム帝国の幹部を務める10人だ。奴らはカインズが肉体を引き換えに知識をもとめミーミルの泉に飛び込んだ際に、副産物として生まれた。
カインズの肉体と、奴が呼び出そうとしている神の合いの子のような存在で、それぞれが強力なギフトをもっている。ステータスも転生者ほどではないが、この世界の人間には絶対負けない程度の強さをもっておる」
「ミーミルの泉について教えてくれ」
「代償と引き換えにこの世のあらゆる知識を得ることができる。無論、その知識によって代償は異なる。カインズは異世界の神についての知識を欲した。代償はカインズの肉体だった。泉に飛び込んだ後のカインズは肉体を失うとともに人間的な精神も失った。その結果、奴は異世界の神についてほとんどを知ることができた。魔導書なるものを手に入れたとも言っていたな。だが私はその詳細を知らない」
十六夜はゴブレイさんに魔導書を渡した張本人だ。
魔導書について知らないはずがない。
「十六夜、お前はいま嘘をついたな?」
十六夜の話を聞いている内に、俺は心を開いていた。
彼女は信頼に足りると感じていたからだ。だからこそ、いま十六夜がついた嘘が許せなかった。国民を守るという綺麗ごとをいいながら、何食わぬ顔で嘘を言う彼女が許せなかった。
「俺はお前が魔導書について知っていることを知っている」
俺はそう言って、十六夜の目をにらんだ。
次回は伏線回収回かつ2章最終回です。
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