VS 十六夜天狐ー6
ボス戦終わり。
次回はボーナス回。
次々回から伏線回収がはじまり。
「『THE WORLD』」
天狐がスキルを発動すると同時に時は止まった。
辺りは静寂に包まれる。
「『拍手喝采』」
天狐の手が合わせられる音が虚しく響き、天狐の魔力が回復していく。
「本当に危なかった」
天狐は自分が生きているという事実に安堵する。
最後の手段を使ったことに関しても後悔はしていない。
相手は今まで戦ってきた者の中で一番強かった、そう確信する。
「しかし、時が止まった世界というのは不思議なものだ」
この時を止めるスキルはカインズのものだ。それを天狐は【すべてがFになる】でコピーし、切り札としてストックしていた。
天狐は初めて時が静止した世界に入ったときのことを思いだす。
***
カインズと天狐が話をしているとき、二人は敵に襲われた。
カインズはスキルを発動し、二人は時が止まった世界に入った。
「時を止めるスキルといってもそんなに万能なものじゃない。まず、入るのに条件がいる。
使用者が直接触れているものでなければ、この世界にはこられない。ものというのは有機物も無機物も含んだもののことだ。そして、この世界に入らなかった物の位置は移動することができない。また、このスキルを使用したものは、元の世界に戻ったときには、世界から反動を受ける。具体的に言えば全ステ―タスが24時間の間、半分になる。これは余りにも大きなデメリットだ。スキルのクールタイムは72時間。3日に1度しか使えないスキルは他にない。他にも不便な点はいくらでもある。例えば、このナイフ、これをこの敵に刺したところで意味はない」
カインズが目の前の敵にナイフを思いっきり、突き立てる。
ナイフは敵の肉に食い込むことはなく、静止した。
「この時間に行われたベクトルをもつ攻撃は意味を持たない。時が動き出したところで、ナイフがただ触れている、という状況ができるだけだ。だから物理的な攻撃がしたいなら、背後に回り込み、勢いをつけるために武器を大きく構え、スキルを解除し、攻撃するということくらいしか方法はないな。まあ、時が動き出した瞬間、ステータス降下が発生するからその不意打ちがどこまでの効果をもつかは知らないが」
カインズの声はこの状況を楽しんでいるようにも聞こえる。だが、骸骨の顔では表情は読み取れない。
「ここまでの説明だと、このスキルは弱そうにも思えるが、それは違う。我々キャスターはこのスキルを最大限利用できる」
「魔法は初めスカラー量のエネルギーとしてこの世界に具現する。つまり、相手に近づき、目の前で魔法を発動すれば、時が動き出した瞬間、魔法はベクトルと色を持つものに変わり、相手に直撃する。そこにステータス低下は含まれない」
天狐が口を挟む。
「そういうことだ。妖狐だけあって魔法には詳しいな」
カインズは敵兵の前にいくと魔法を発動させる。
「《オーバーマジック・レリギアス・フレイム》」
赤色の渦巻くような光が敵兵の顔面に出現するが、光も動きも止まっている。
カインズはゆっくりとした歩調であたりを歩き、敵兵の目の前で魔法を発動させていく。
「この魔法が確かそっちの大陸では主流の攻撃魔法だったな?」
「そうだ。東大陸では火、水、雷の魔法の研究がそっちよりは多少は進んでいる」
「まあ以前まで魔法という概念がなかった大陸だ。部族間の争いも殆どなかった東では魔法は必要なかったからな。西のように古から国同士の対立で殺伐としているのも何かと生きずらいものだよ。まあ、今の俺が生きているかと言われると怪しいんだが」
カインズが大きな声をたてて笑う。しかし天狐はこのジョークを無視する。
「この前、西大陸の闇や光の攻撃魔法を研究してみたが、あまり成果はなかった。確かにこの世界の住民にとっては威力もあるそっちのほうがいいのかもしれないが、妖狐は元々ギフトで魔法の威力を底上げできる。西大陸でその方面の魔法の研究が進んでいない原因の一つがそれかもしれないな」
「《ダークフレイム》」
カインズが13人目の敵兵に別の魔法を発動した。
「火属性の魔法に闇属性を付加したものだな。その魔法でこいつは倒れるのか?」
天狐は質問をする。
「即死ではないが、この男が強くなければ殺すことはできる。実はな最近の研究で判明したんだが、混ぜる闇魔法の量を調整することで死までの時間を調整できるんだ。例えば......」
既にカインズは人の心を失っている。
人間を実験道具のように扱い、楽しそうに魔法の話をするカインズを見て、天狐は少しの同情を抱いた。
***
「こんな事を思い出すなんて。仮にも戦闘中だ。もう終わらせてしまおう」
天狐は最後の切り札を発動するために大河に近づく。
大河の顔を見て、その目が緋色になっていることに気が付く。大河は何か右手を大きく後ろに構えたようなポーズで止まっている。
「『A Study in Scarlet』か。最後に何かスキルを使っているようにも見えたが、あたりには何もない。
察するに、こやつの切り札がギリギリ間に合わなかったといったところだろう。本当に危ない戦いだった。
あと少し判断が遅れていれば、負けていたのは私のほうだった」
天狐は周囲を確認してから、後ろに回り込む。
《身体伸縮化》を再度使用し、9本の尻尾を大河に伸ばしていく。
大河を囲むような配置で尻尾を構える。大河の刀が届くことのない距離でスタンバイした天狐は再び周囲の確認をする。
「パートナーの女の方は魔力が尽きて倒れている。こいつを倒してから、魔導銃を借りて殺せば大丈夫なはずだ。私に向けられている攻撃は一切ない。反撃がありえないならば私の勝ちだ」
天狐の最後の切り札は、使った瞬間から二十秒の間、防御力がゼロになるというリスクをもつ。
しかし、放たれた炎が相手にかすりさえすれば、相手は数秒の内に黒い炎で燃やされ殺される。
黒い炎は海に入ろうが皮膚をはがそうが、、決して消えない。
炎は対象が焼き尽くされるか、天狐が止めるまで消えないのだ。
当たれば終わりのスキルと、絶対必中させるためのスキル。
外れれば負けのスキルと、殺し切らなければ負けるスキル。
周囲の確認が必須のスキルと、周囲をくまなく観察できるスキル。
天狐の最後の切り札と、時を止めるスキルの親和性は非常に高い。
天狐は魔術の詠唱を始める。
「フングルイ ムグルウナフ クトゥグア」
天狐の切り札は詠唱に時間がかかる。この詠唱はジョブスキルでも短縮できない。
「ホマルハウト ウガア=グアア ナフル タグン」
9本の尻尾から黒い炎が生まれる。炎は光を全て吸収してしまうほど黒い。
準備は整った。天狐は、スキルを発動する。
「イア・クトゥグア!」
天狐が『クトゥグアの炎』を発動したと同時に、時は動き出す。
***
ブッシャ!!!
突然の激痛が、天狐を襲う。
天狐の胸は大きな穴が開いており、血が噴き出していた。
何故だ。私は、死ぬのか?
崩れゆく意識の中で、天狐はそう思う。
いや、まだだ。
天狐は『クトゥグアの炎』を解く。
バン!
起き上がろうとする天狐の腹部に魔導銃が放たれる。致命的な一撃。
天狐は前のめりに倒れる。既に息はなかった。十六夜天狐は死亡した。
大河はフラフラの足取りで天狐の元に行く。黒い炎により大河は満身創痍だ。
天狐の手には鍵が握られていた。大河はその鍵を回収してから、天狐に触れる。
天狐の死体が輝き、文香へと転送される。
全てを終えた大河には疲労がいっきに襲い掛かり、大河はその場で気絶してしまう。
こうして戦いは終わった。
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